深淵の森を抜けて町に到着です!
魔物を討伐しながら、深淵の森を歩き進めること一週間。ようやくナハト国の隣国であるシュール王国の、入り口の町へと辿り着くことができた。
(はぁ…。森での一週間の旅は長かった…)
森が深まるにつれて、魔物も徐々に強敵になっていくのだ。森に入って最初の討伐は一瞬で終わったけれど、強敵になってくるとそうはいかない。どうしても戦闘時間が長くなる。
戦闘というのは…何度見ても平気にはなりそうにない。戦闘を経験したことも、実際に見たこともなかったユーカはそう思ってしまうのだ。
もちろん私は魔物と直接戦っていないし、夜も交代で休んではいたのだけど、やはり森での野営は疲労が溜まっていたようだ。精神的にも、肉体的にも。
町長さんに出迎えられ、宿屋の部屋に案内された途端、ベッドに倒れこむようにして、あっという間に寝てしまっていた。
結局目が覚めたのは翌朝。朝日がしっかりと私を照らしている。慌てて身支度を整え、ディーンさん達の部屋に行ってみると、皆もうとっくに起きていたようで、それぞれの武器や道具の手入れなどをしていた。
「おはよう!ごめん!寝過ごした?!」
「おはよう、ユーカ。よく寝れたみたいだな。夕飯の時に声をかけたんだが、反応がなかったから、無理には起こさなかったんだ。何も食べてないから、腹が減ったんじゃないか?」
「…そういえば、そうかも。皆はもう朝ご飯食べたの?」
「いや、まだだ。もう少ししたら、ユーカを起こしに行って、食堂に降りようかと思ってたからな。ユーカも揃ったことだし、降りるとするか」
ディーンさんとやり取りしている間に、ショーンさんとギルさんは道具の手入れを終えたようだった。皆で一緒に食堂に降りることにする。
食堂は朝ご飯のピークはとうに過ぎたようで、人はまばらだ。それでも、勇者の一行が入って来たということで、注目を浴びている。
皆は注目されるのに慣れているのか、まったく気にしてないみたいだけど、私は気になってしまう。
(…いつかは慣れるかな?)
運ばれてきた朝ご飯は、パンとスープとサラダだった。パンは焼きたてらしく、ふわふわですごく美味しかった。食べ始めたら、お腹が空いてたんだということを実感。あっという間に、皿の上のパンを食べきってしまった。
(パン…もうなくなっちゃった。もっと味わって食べれば良かったな。次はスープを…)
そんなことを思いながら、スプーンを手に取ろうとすると、空っぽになったパンの皿にパンが置かれて…?
「夕飯を食べてないのだから、しっかり食べるように」
「次はゆっくり噛んで食べろよ?」
「ユーカは本当に美味しそうに食べるよね!」
順にギルさん、ディーンさん、ショーンさんである。そんなに物足りなさそうな顔をしてた…かな?
「皆はパン一個だけで足りるの?私もさすがにこんなには…」
「食べられないか?」
「…今なら食べられそうだけど…。美味しいパンだったし…」
「それなら、俺達には遠慮なく食べればいい」
朝からこんなにパンを食べて大丈夫だろうか?それに、皆の方が身体を使ってるのに…。食べたい気持ちと、カロリーを気にする気持ち、そして遠慮の気持ちを、それぞれ天秤にかけて悩んでいると…。
「先程焼きあがったばかりで、たくさんありますから、いくらでもお召し上がりください」
そう言って宿屋のご主人が、パンがたくさん入った籠を持ってきてくれたのだった。
(宿屋のご主人にまで、このやり取りを見られてた?!)
食べ始めてしまったら、周りから注目を集めていることなど忘れていたのだ。案外、注目を注がれることには、早く慣れてしまうのかもしれない。
(私って、そんなに神経図太かったかな…)
若干凹みながらも、再びパンを食べ始めたのだけど、その美味しさに些細なことはどうでも良くなってくるのだった。
朝ご飯を食べ終え、再びディーンさん達の部屋に集まった。これからの予定の確認だ。
「この町には、今日を含めてあと3日滞在しようと思う。今夜は町長が歓迎の宴を開くそうだから、皆参加だ。明日と明後日は、各自必要な物の補給をしておいてくれ。この町を出たら、魔物の目撃情報が多発している地区を回って行くことになる。次に補給ができる町に入るのは、この町を発って10日後くらいになるだろう。この町で充分な休息をとっておいてくれ」
ギルさんの言葉にしっかりと頷く。野営が続く大変さは、充分過ぎるくらいにわかったからね。補給を終えたら、言われた通りにしようと思ったのだった。