暗く薄汚い部屋。
ぬいぐるみと睨めっこをして言う。
例え話をしてみようか。
僕の心は二つあるんだ。
人の為と、自分の為。
話さないぬいぐるみが頷いた気がした。
どうして?と聞いたみたいに。
君をいつまでも大切にしていることは
僕の為であって、君の為でもある。
ここで心はもう二つになっているんだよ。
君を捨てるのは可哀想だから
君を大切にする。
それは君の為だよ。
君が居ないと温もりがなくなる
だから君を大切にする。
それは僕の為だよ。
もう一つ例え話をしてみようか。
僕の言葉は二つあるんだ。
傷付けない為と、傷付ける為。
また話さない筈のぬいぐるみは
頷いた気がした、どうして?そう言うように
誰かを傷付けない為に
自分を傷付ける為の言葉を作り出すんだ。
ありふれた嘘や、優しさなんかで偽って
自分を傷付けない為に
誰かを傷付ける為の言葉を作り出すんだ。
暴言や、罵倒するような言葉を適当に選んで
ぬいぐるみが言う。
本当の事を教えてよ。
そう貶すように。笑うように。
そうだね、そろそろ素直になってみよう。
君は昔から僕を知っているんだ。
君はずっと僕の全部を受け止めていたんだ。
そう、僕の心は一つ。
自分の為になんて存在しない。
そう、僕の言葉は一つ。
自分の為になんて存在しない。
君はよく知っている。
君だけがよく知っている。
物言わぬものだからこそ知っていたね。
僕の心は人の為に。
だから傷付く事も、
傷付けることも躊躇わない
それが人の為なら決して躊躇わない。
僕の言葉は傷付けない為に。
但し「人を」傷付けない為に。
それが人を傷付けるなら口を閉ざそう。
それが人の為なら決して口を開かない。
自分が傷付く事を望む人の為なら
躊躇わずに傷付こう。
自分が傷付かないでと望む人の為なら
躊躇わずに自分を守ろう。
そこに自分の意志…?
あるんだ。
それこそが自分の意志なんだ。
だからこれは決して誰のせいでもない。
自分の意志と、物語。
僕の、僕自身の想い。
吐き出したとしたら。
この部屋も、あの花も。
全て穢れる