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極めて楽観的に、彼女は死を考える。  作者: 暇 隣人
喧しく過ぐ日曜日
9/33

早朝/彼女は想われる






「……んあ。もう朝、かぁああ……」


「…………」


「……おーい、起きろー。いつのまにかぼくの腕を枕にしてるお嬢さーん、起きてよー……ちょっとー?」


「……くぅ……くぅ……」


「まだ寝てるのか……困ったなぁ、これじゃ起きられないや……まあいいか。今日は日曜だし」


「……くぅ……」


「……はぁ。かわいい寝顔しちゃってさ。これが毎日、暇さえあれば死にたいなんて言ってる人の顔なのかね……。安らかすぎて、あまりに信じがたいというか」


「…………」


「……綺麗な顔。すごく綺麗……僕なんかとは比べものにならないくらい、綺麗な顔だ」


「…………」


「……ねぇ。きみはたぶん知らないだろうけど……ぼくはきみに、ずっとずっと憧れてたんだよ。昔からずっと、きみのことをすごい人だって思って……だからきみを追いかけてきたんだ。きみと一緒にいられれば、きっと何よりも幸せなんだろうなって……ぼくときみが知り合いになってまだ一年も経ってないけど、それよりももっと昔から、ぼくはきみのことを見続けてきたんだよ。……変だよね、ほんとに。こんなやつ、気持ち悪いよね……だけどぼくは、きみへの憧れを捨てられなかった。きみがあまりにかっこよくて、凛々しくて、そんなきみを見てるとどんどん想いが募っていって。もしかしたら、妬ましさとか、羨ましさとか、そういうものもあったかもしれない。でもそれ以上に、単純にきみを見ていたい。きみの綺麗な姿をいつまでも見ていたい。ぼくがあの日、苦しんでたきみを助けたのは、ただそれだけの理由なんだよ」


「…………」


「きみはぼくを憎んでると言ったね。それを聞いて、ぼくは正直悔しかった。誰よりも綺麗なきみが、自分の素晴らしさを知らないなんて、もったいなさすぎると思った。たしかにきみからすればそれが普通なんだろう……でも少なくとも、ぼくにとっては違う。きみの細い体も、必死にうごめいてる心も……他の誰も持ってない、純粋で、素朴で、これ以上ないくらい、美しいものだって思えるんだ」


「…………」


「……はは。結局さ、ぼくはぼくのためにきみを助けたんだ。きみに生きてほしい、そんな身勝手な願いを叶えるためだけに。前にさ、きみはぼくのことなんて何一つ考えてない、なんて言ったけど……それはたぶん、ぼくも一緒なんだろうね。ぼくだって、死にたくて死にたくてたまらない、そんな苦しみを背負ってるきみの心のことなんて、今まで全然考えてみたことがなかった。だからさ、ぼくら、似たものどうしなんだよ。目指してる場所がまったく逆なだけで、本質は同じ。ぼくはぼくのために、きみに生きてほしいし、きみはきみのために、きみに死んでほしい。二人とも、自分勝手なんだ。そういうことなんだ、きっと……」


「…………」


「……ひとつ、聞いてもいいかな。答えてくれなくていいんだ。もしも、もしもだよ……ぼくら二人の望んでることを、同時に叶えてくれる、そんな人、そんな物が、この世のどこかにあるんだとしたら……その時きみは、ぼくの目の前で、一生懸命に生きて、そして……」


「一生懸命に死ぬ」


「うひゃあっ!? えっうわっちょっと起きてたの!? いつから!?」


「聞いてもいいかな、のあたりから」


「あ、ついさっき起きたばっかりなのね……おはよう……」


「おはよう。ところで君は何をそんなにあわてているんだ? 私に聞かれると恥ずかしい身の上話でも垂れ流してたのか?」


「うんまぁ、そんなとこ……かな……」


「そうか……ふぁ、はぁあああ……聞けにゃくてじゃんにぇんだ」


「聞かれなくて幸運だ……」


「それじゃ、私は二度寝するから」


「寝るのかよ」


「昼ごはんはよろしく頼んだぞ……おやすみ……」


「……相変わらず寝るの早いなー。…………あ、やば。まだ腕枕したまんまじゃん……」


「……すぴー……」

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