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極めて楽観的に、彼女は死を考える。  作者: 暇 隣人
夏の深まる土曜日
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朝/公園のまどろみ






「久しぶりに太陽光線を浴びた感想は?」


「……生きる気力を無くしそうだ」


「これくらいで無くしてどうするのさ……まだ七月だからね? 八月はもっと暑いよ」


「これだから夏は嫌いなんだ。夏に自殺者が急増するというのもわかる気がする」


「え、それほんと?」


「いや、私の適当な想像」


「想像で自殺者を増やすのはやめよう?」


「ちなみに実際は早春ごろに最も自殺者が増えるそうだな。五月病と何か密接な関係でもあるのだろうか? それと春ほどではないが秋にも少し増加傾向が見られるという話もある」


「あんまり知りたくなかったよそれ……」


「ともあれ、これだけ暑いとなると気力が無くなるのはたしかだな……それで? 今はいったいどこに向かっているんだ?」


「近所の自然公園。あそこなら木陰も多いし、あまり暑さを感じないで済むと思うよ」


「ふむ。参考程度に聞きたいのだが、なぜ公園に?」


「まあ、深い意味はないかな……ぼくはあの場所が好きだから、きみにも好きになってもらえれば嬉しい。そんな感じ」


「……ははぁ」


「え、なんでそんなにやにやしてんの」


「別に。君もなかなかアグレッシブだなと思っただけだ」


「……はいぃ?」






「はい、ミルクティー」


「おお。ありがとう」


「どういたしまして……ぷはぁ。んー、やっぱ木陰で飲むお茶はおいしいなぁー。昔のぼくもよくここに座ってたっけ……」


「この木は、なんという名前だ?」


「細かい名称はよくわかんないけど、とりあえず桜には間違いないかな。このへんは毎年春になるとどの桜も満開になってね、すごく綺麗なんだ」


「ほお……それはいいな」


「まあ、あいにく春ごろはいつも忙しくて、ゆっくり花見ってわけにもいかないからじっくり見たことはないんだけどね……。実際、ぼくがこの公園に来るのは何か理由があってのことじゃなくて、ふとした時に、またここに来たいな、って思うことがあるんだ。そしたらふらっとここに来て、今みたいに木陰で休んで、ゆっくりと時間を過ごす。そんな感じ」


「楽しいのか?」


「ぼくはね。きみはどうだか知らないけど」


「……まあ、嫌いではないかな。たまにはこういうのも」


「そう。それならよかった」


「……なあ」


「なに?」


「いや、やっぱりなんでもない」


「なんだよ、きみらしくもない」


「気にするな。それにしてもこの辺りは虫が多いな」


「草がたくさんあるからかな? こんな都会近くの場所なのに虫が多いって面白いよね。自然を感じられるっていうか」


「ふん、物は言いようだな。私は虫が嫌いだ」


「え、どうして?」


「虫はあまりに弱い。すぐに命を落とせてしまう。それが私には羨ましい」


「…………」


「虫はすぐに死ぬことができる。つぶされたり、ちぎられたり、そもそも寿命が短かったり……そして何より、彼らはきっと感情を持っていない。生きるとか死ぬとかいうことに、執着もなければ恐怖もない。私もそんな風になれればいいのにと思う……けれどそんなのは無理だ。だから私は虫が羨ましい。それゆえに、憎い」


「……うん」


「すまない。気分を害しただろう」


「いや、別に。君の死にたいトークにはもうずいぶん慣れたし」


「そうか。それならいいが」


「……よし、そろそろ家に戻ろう! そういえば昼ごはんはどうしようか? せっかく外に出たんだし、外食でもして帰る?」


「外食か……私はコンビニ弁当で十分なのだが」


「ええ……女の子なんだから行ってみたいレストランのひとつやふたつあるもんなんじゃないの……どんだけ自宅警備極まってんの……」


「う、うるさいな! 人が多いところは苦手なんだ!」


「まあいいか……それなら材料買って帰ろう。なんか食べたいものとかある?」


「ん、そ、そうだな……それならあの、あれだ……カレー、食べたい。あの、前に作ってくれた、べったべたに甘いやつ……」


「はは、あれかぁ……了解! よーし、それじゃ早速出発しよう」


「ちなみにアイスは?」


「一個だけね」


「ちぇ」

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