銃死
「……何やってんの?」
「仮に私が銃を持っているとして、どこを撃てば一番楽に死ねるのかと考えていた」
「ああ……その手はピストルの真似か」
「そうだ。決して伝家の宝刀ぐーちょきぱーの類ではない」
「やっすい宝だこと」
「なあ、君はどこが一番いいと思う? 私はやはりこめかみだと思うんだが」
「なんで?」
「サスペンスドラマで犯人が自殺する際にはだいたいこめかみを撃つだろう。銃を使った自殺方法の中では一番ポピュラーな死に方だ。だからおそらく、あまり苦痛を伴わないのではないかと思ってな」
「ええ、そうなのかな……脳を直接撃つわけだから、想像する限りじゃ恐ろしく痛いと思うんだけどなぁ。楽に死ねるかっていうとなんか違う気がする」
「ふむ、たしかに一理ある」
「でしょ? うーん、それじゃあれかな。銃を使った他の死に方っていうと、口にくわえて撃つみたいなの」
「口にくわえて……はむ、こうか」
「……ただ単に指をくわえてるだけじゃん」
「ゆいえはない。ほれはゆうだ」
「指ではない、これは銃だ、ね……いやその設定はちゃんと理解してるから。あくまで見た目の話だから」
「とこほで、ひみ」
「なに」
「……この手の角度、意外と疲れるから代わりに指を貸してくれ」
「別に指である必要性はないじゃん……」
「イメージとしてわかりやすいだろう。他に適任そうなものもなかなかないしな。ほら、早く。あーん」
「はいはい……これでいい?」
「ほっけー。ふいはかくごをひょうへいひへ」
「わかったわかったそれ以上言わなくていい。角度調整ね……ん、そういやどこを目標にしたら一番いいんだろ?」
「のうはあめ」
「うわぁ今舌がざらってした……脳はダメか。普通、まっすぐに撃ったらどこに当たるのかな。背骨?」
「えきうい?」
「脊髄……ああーなるほど? たしかにそうかも。脊髄損傷すると神経が通らなくなるっていうか、不随になっちゃうって話はよくあるよね。ってことは脊髄にダメージが入れば痛覚が無くなる可能性が……あるのかなほんとに……。僕らって何ひとつ専門知識ないからなー。予測だけで考えるしかないなぁ」
「まあいまはほんほおにょひゅうへはあいから」
「指を抜いてから喋ろう」
「ぷは。とりあえず今回はあくまでデモンストレーションだからそれほど厳密に考えなくてもいいということだ。ところで先ほどの説はなかなか有力かもしれないぞ? 脊髄にダメージを与えつつ死ぬことで痛みを無くし楽に死ぬことができるというわけだな! これはなかなか興味深い命題だ」
「こんな物騒なこと考えても何の得にもならない気はするけどね」
「いいや。私の目指す理想的な死に方としての研究の余地は十分にあるさ……よし、協力ありがとう。いずれまた思考実験をしてみよう」
「……あのさ。きみってなんで、そんなに死にたがりなの?」
「……どうしてだと思う?」
「わかんない」
「そうか。それなら、今は内緒だ」
「……ふーん」