その2、パフェ
「……うわぁ……」
「噂には聞いていたが……まさかここまで大きいとはな。ハイパーデラックススペシャルファイナルスカイタワーカフェ」
「よく名前覚えてるな……」
「実はここに来るたびに気になっていたんだ。いつか頼もうと思っているうちに引きこもってしまったから……いやはや、すごい迫力だな! 君の顔が完全に隠れてしまっている」
「これってさぁ、立ちながら食べなきゃいけないよね……あるいは取り皿に移すとか」
「まぁそのへんは適当にやろう! さ、君もスプーンを持て。これからこの敵を崩しにかかるぞ!」
「はいはい……そんじゃ、さっそく一番上から」
「てい」
「あいったぁい手じゃなくフォークを叩かれることで指の関節らへんのところにフォークの柄が変に食い込んできて痛い」
「そう焦るな。こういう時は頂上を狙うのではなく、まず周りから崩していく方がいいと相場が決まっている。ウエハースとかポッキーみたいなのとかがあちこちに付いてるだろう? それから取り掛かるのが本当のパフェ通だ」
「わかった。パフェ通とかいう言葉は初めて聞いたけどとりあえずわかった。ところでメロンも横に付いてるんだけどこれも先?」
「それは私が食べたい」
「ぼくも食べたい」
「…………」
「……半分にしようよ」
「……じゃあ君が先に半分かじっててくれ。残りを後でもらう」
「おっけー。よいしょっと、あむ……お、うまい! いいねーこのほどよい甘さ」
「ウエハース……ポッキー……ウエハース……ポッキー……」
「うわぁ……すっごく味気無い戦い……」
「ふん。ふぇつにいいのだ、くひがひょうひょうぱしゃぱしゃするらけれ」
「ああうんたしかに口の中パサパサするよねーわかるよーよーくわかる」
「むぐぅ……よし、飾りの方は片付いた! ここからはクリームとフルーツ地獄だ」
「実はぼく、あんまり生クリーム食べられないんだよねぇ……」
「少しだけでも食べてみるといい。なかなか癖のある味だぞ、この店のクリームは」
「そうなの? じゃあちょっとだけ……ん、なるほど! 油っぽさがあんましなくて、その分甘味が強くなってるね」
「ふふ、いいだろう。……ふむ、昔と全然変わってない。相変わらずだな」
「まるで常連のような口ぶりだね」
「というより実際、常連だったしな。パフェは違えど味は似ている」
「そんなもんか……お、みかんが酸味効いてていーなー。こういうのがあると口の中がさっぱりしていいよね」
「デザートに酸味は案外重要だからな……む、クリームの中にアイスが隠れている。思わぬ伏兵だ」
「えっほんと? ……おおーほんとだ! なんか宝物掘り出したみたいな感じする」
「チョコに抹茶に……この赤いのはストロベリーか? いい色のバランスだな。化学調味料さまさまだ」
「……あんまり褒め言葉になってない気がするんだけど?」
「いーや十分な褒め言葉だぞ? 身の回りのありとあらゆるものを何もかも偽物に置き換えようとしてしまう現代社会の悪癖に対するアンチテーゼだ」
「アンチテーゼって言った今! 絶対悪意しかないだろ!」
「いいからほら、早く食べないとアイスが溶けるだろうが! あ、最後に残ったクリスピー的な部分は主に私が食べるからな。ちゃんと残しておいてくれ」
「へいへいわかりましたよ……んー、いい口どけのアイスだね。適度に柔らかくて食べやすい」
「こういう時はすべてのアイスを同時に食べるとおいしかったりする」
「カラオケでドリンクバーをごちゃまぜにしちゃう中学生みたいな推測だ……」
「まぁ物は試しというだろう。少なくともまずくなることはあるまい……ん。これはなかなか」
「どうだった?」
「……抹茶とフルーツはちょっと……合いづらいかもな?」
「ダメだったか……」
「まあいい。さっさとアイスを片付けよう……おおぉお念願のクリスピーフィールド……!! 素晴らしい光景だ……」
「そんなに好きなの? これ」
「ああもちろん。これを食べたいがために今までパフェを食べてきたと言ってもいい。たまにこの部分に白玉を大量に入れてるバージョンのパフェがあるが、私としてはアレは微妙だな。最後の最後で溶けかけのぬるいアイスと一緒に味気のない団子を食わされるとなんだか興ざめな気分になってしまう。その点クリスピーは実にいい。たとえ何もトッピングがなくてもクリスピーそのものに絶妙な旨みが……って君、私より先に食べるんじゃない!!」
「いやごめん話が長くて」
「まったく。これだからパフェ初心者はいただけないのだ」
「パフェにプロもアマもないでしょ……」
「ある。私の中では」
「その言い訳はすべての屁理屈がまかり通っちゃうからやめよう」
「うるひゃい! もぐ、ひょういえばひみ、もぐ、さっきのねろんは」
「メロンね。ここにちゃんとあるよ」
「ひみにしては、ごく、気が利くな! さーこれでフィニッシュだ…………んんー!! んぅふふふふふ」
「あー……おいしすぎて笑うパターンのやつだ……」
「ふぅー! おいしかった! 最高だ! もう一杯!」
「それはやめろぉ!!」