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気ままな短編集

とある奇術師の戯れ

作者: 辺 鋭一

初めましての方は初めまして。

そうでない方は、またお会いしましたね。 辺 鋭一です。

今回は初のオリジナル短編にして初のミステリー(?)ものに挑戦しました。

少々無理矢理感も否めない内容ですが、ここまで来たのならばぜひご覧ください。

お暇があれば、で結構ですが……。

   ●



 タネも仕掛けもございません。



   ●



 とある休日、 とあるファミレスにて、いくつも並んでいる机のうちの一角に、ひとつの集団があった。

 その集団は高校生ぐらいの男三人と女一人の計四人で構成されており、彼らは皆教科書やノートを開き、その傍らに飲み物の入ったコップを置いている。

 店の中は暑くも寒くもない快適な温度に保たれているが、ガラスを一枚隔てた外は灼熱地獄だ。

 ふと視線を向ければアスファルトから陽炎が立っているのが見える。

 時間は午後二時。

 気温が一番暑くなり、外を歩く人たちの密度も薄くなる時間だ。

 また、昼食には遅く、おやつ時には早いという中途半端な時間ということもあり、そこそこに広い店の中には彼らの他には数組しかいない。

 その数組も、外の熱気にやられているのかぐったりしながらドリンクバーのジュースを口に運んでいる。

 そんな様子を見ていた少年は、真正面に座る少女に声をかけられる。


「……ちょっと東家ひがしや、ぼーっとしてないで集中しなさいよ。あんたがこの勉強会の主催者でしょ」

「……わかってるって、少し休憩してただけだろ。あんまり目くじら立てんなよ、香樫かがし。たまには遠くを見ないと目が疲れるんだよ」


 そう彼女に言い返すと、気が強そうな少年、東家は手元に視線を戻す。

 そこには、数分前から何も変わっていないノートがあった。

 何とか解きかけの数式を片付けようとするが、全く考えがまとまらずにいつの間にか違うことに気が向いてしまう。

 そんな様子を見てため息を吐いた紅一点、香樫は、隣に座る少年に声をかける。


「ちょっと夜浮ようき、東家がだらけてるからなんとかしなさいよ」

「なんで僕なのさ……? 僕は東家君にやる気を出させる技術スキルなんて持ってないよ?」


 声をかけられたおとなしそうな少年、夜浮は困惑した声を上げるが、香樫はそれにかまわず、


「そこをなんとかするのがあんたの役割よ。大丈夫、あんたならできるわ。さあ、真の力を解き放ちなさい……!」

「そんな厨二チックなこと言ったって無理だよ。……ていうか、香樫さんだってさっきから英訳が進んでないと思うんだけど?」

「そう言うあんただって、歴史のドリルの答えを全部一つずらして書いてるわよ。このままじゃ答え合わせが悲惨なことになるわね」


 『え!? うそ!?』と驚きながら急いで修正する夜浮と、それをニヤ付きながらみている香樫、それを一切気にせずぼーっとしている東家。

 そして、その集団の最後の一人であり、今まで黙々と源氏物語の現代語訳をしていた少年、浅岸あさぎしはその三人の様子を見て、それから現在の時刻を確かめると、


「――昼食後から勉強を始めて一時間と少し、ですか。まあ、集中力が切れても仕方ない時間ではありますね」


 そう呟き、他の三人へ向き直ると、


「それではしばし休息としましょうか」


 その提案を聞き、その隣に座っていた東家は驚き顔で、


「おいおい、せっかくの祝日にこうして集まったのは来週のテストのためだぜ? それなのにのんきに休憩なんてしてていいのかよ?」


 その疑問に浅岸は『ええ』と頷きながら、


「人間の集中力の限界は一時間ほどだと言いますし、それを超えて無理をしたところで効率は上がらず、むしろ悪くなる一方です。だったら一度休息を入れて、頭を一度切り替えた方が勉強ははかどりますよ」


 『なるほどね~』などと頷きながら、香樫は、


「じゃあ何する? おしゃべりって言っても私の独壇場になるし、かといってあんたたちのやることについてもいけないし、だからって各自がバラバラなことをするのもなんか嫌だし……」

「あ、だったらトランプでもやる? 僕ちょうど持ってるから」

「なんでそんなもんを勉強会に持ってくるんだよ……?」


 何をしようか悩む香樫に夜浮が提案し、東家にツッコミを受ける。


「いいじゃないか、たまたま入ってただけだよ。それより、どうする? やる?」

「そうねえ、やってもいいけどあんまり時間のかからなものがいいわね。勉強ならともかく、トランプを長時間やってるのはお店の人たちにも迷惑になるし、何より勉強時間が無くなるわ」


 香樫のその言葉に、東家も同意する。


「そうだな。下手すっと店から追い出されるしな。時間もかからなくて気分転換になるゲームってなんかあるか?」

「う~ん、そう言われるとパッと思いつかないなぁ。……ねえ、浅岸君は何か思いつかない? さすがに今ここから外に出ていくような事態は避けたいんだ」


 夜浮に話を向けられ、浅岸はしばし考え、


「――生憎その条件を満たすゲームは思いつきませんが、それ以外の事なら思いつきました。どうでしょう、ここはひとつ、賭けをしませんか?」


 『賭け?』と三人分の疑問の声が響き、


「……ちょっと、なんでその展開になるのよ。私たちはトランプを使ったゲームを考えてたのよ?」


 と香樫から突っ込まれるも、浅岸は飄々として、


「ええ、わかってます。ですから、トランプを使い、短時間で終わり、また適度に頭も使い、さらにはあまり派手にトランプをやっているとわからないような賭けをしようと提案したんです。どうです? やってみませんか?」


 浅岸以外の三人は黙り込み、少しして東家が質問する。


「……賭けの対象は何だ? あんまりきつい物だと嫌なんだが」


 その問いに浅岸は微笑みながら、


「ああ、その点は安心してください。学生らしく健全な内容ですから。……そうですねえ……、僕対貴方たち三人の勝負で、貴方たち三人の誰かが勝ったら三人全員の昼食代――というのは僕にとってもきついので、ドリンクバーの分の代金を僕が持ちましょう。それと、この勝負は僕から持ちかけた物ですし、貴方たちが負けた場合でもペナルティーは有りませんので、ご安心ください。……こんな感じの条件ですが、どうですか、東屋君?」


 東屋は浅岸の言葉を何度か反芻し、考え込み、


「……まあ、いいだろう。俺たちに特に害はない内容だしな。というか、逆になさ過ぎて怖くなるな。何か裏がありそうだ」


 あまりの好条件に東屋は不信感を抱いたようだが、浅岸はそれを笑い飛ばす。


「あははは、考えすぎですよ。僕はただ、つい先日思いついたことを試してみたくなり、この機会に娯楽として提供できそうなので実行した。たったそれだけの事です。お二人はどうですか? やってみますか?」

「どんなのかわからないけど面白そうじゃない。やってやるわ」

「どんなのかわからないのに面白がらないほうが良いよ……? まあでも浅岸君の考えた事だから面白そうではあるね。じゃあ僕もやってみるよ」


 即答した香樫と、それを軽くとがめながらも参加の意思を示した夜浮に対し、浅岸は微笑みながら、


「それでは全員参加ということでよろしいですね? ありがとうございます。それではこれより、わたくしこと浅岸対、皆様方とのトランプ勝負を開催したいと――」

「浅岸、長ったらしい挨拶はパスしろ。時間がもったいない」


 調子に乗っていた浅岸に、東屋からのきつい言葉が突き刺さる。


「……はい、わかりました。それではまずは宣言いたします。皆様に対し、僕はこれから一切の嘘を言わず、皆様に対して嘘をつきます。今回はその矛盾と私の技巧に見事打ち勝ってください」



   ●



 浅岸の矛盾した言葉に首をかしげる三人をよそに、ノートや教科書をわきに除けた浅岸は、夜浮からトランプを受け取る。

 そのトランプは透明のふたがついた箱状のケースで、その中には裏地が黒いトランプが一組入っている。

 浅岸はそのふたを開けて中身を取り出し、表面を上にして机の上に置くと手を横に滑らせてトランプを一列に並べる。 

 その手際に感心する三人に苦笑しながら、浅岸は話し始める。


「これは『リボンスプレッド』という技法ですが、この程度はマジックをある程度学んでいる人ならば誰でもできることですから、そんなに驚かないでください。照れてしまいます。さて、ご覧のとおり、ここにはジョーカー二枚を含むトランプ1デッキがあります。本来ならば七並べでもして数えるところですが、今ここでそうするわけにもいかないので、夜浮さんを信じて割愛させていただきます」


 そういうと、浅岸は先ほどとは逆回しになるように手を動かしてトランプをまとめ、手に持ち替えてから自分にだけトランプの表が見えるように、扇状にカードを広げる。


「ですが、これからするゲームに当たって、ジョーカー二枚は少々邪魔ですので、この二枚のカードは除いておきましょう」


 そう言って浅岸は広げたトランプの中から二枚引くと、それを重ねて空いたケースに入れてふたをしてしまう。

 ケースのふたは透明なので中は丸見えで、そこには表を向いたジョーカーが見えている。

 それを三人が確認しているうちに、浅岸はトランプをカット、シャッフルしている。

 華麗な手さばきでショットガンシャッフルを行う浅岸の手元に皆が目を奪われる。

 そうしているうちに浅岸はデッキを完全に切り終わり、また扇状に広げるとその中から一枚を選び出してテーブルの真ん中へ伏せる。


「……さて、それでは賭けの内容、というかルールですが、

 ①ここに僕が選んで伏せたカードは何か、当ててください。

 ②僕に対する質問は四回まで。しかもその内容はyesかnoで答えられる質問のみです。ただし、~の場合はyes、~の場合はnoと答えよ、というものは受け付けません。それをうまく使うと『答えない場合は~』という判断材料ができてしまいますからね。 

 また、最初に宣言した通り、③僕はこのゲーム中一切の嘘を言いません。これは、自分の考えと反することを言わない、という意味です。

 ④カードの内容がわかった場合の解答権は一人一回まで。質問をするのは誰でもかまいません。また、正解か不正解かはその都度発表していきますので、これも参考にしてください。

 そして⑤誰か一人でも正解したら貴方たちの勝ちで、僕が全員分のドリンクバーの代金を持つ。

 最後に⑥誰も正解できなかったら僕の勝ち。その場合の特典、ペナルティは特になし。

 ……こんなところですが、何か質問はありますか?」


 三人を見渡して問いかける浅岸に、東屋、香樫、夜浮はそれぞれ、


「俺はねえな」

「私もないわ」

「僕もないよ」


 と答える。

 それを確認した浅岸は両手を広げ、


「いいでしょう、それでは、質問をどうぞ」


 と、ゲームの開始を宣言した。



   ●



 浅岸の言葉を聞いて、東屋は腕を組んで考える。

 確実に勝てる戦略を考えるためだ。

 誰だって負けるのは嫌だろう。 例え何も失うことがない勝負だとしても。


 ……とはいえ、この手のゲームの必勝法は決まってるんだがな……。


 その必勝法とは、可能性を狭めていくこと。

 カードの数はスペード、クラブ、ハート、ダイヤの四種類であり、それぞれのマークで13枚ずつ、計52枚だ。

 そこから浅岸の選んだ可能性のあるカードを絞り込んでいくわけだが、


 ……最悪でも、俺たちの勝つ確率は75%、ってとこだな。


 このゲームで、一つの質問によって得られる情報はyesかnoの二種類。

 つまり、質問一つに付き候補を半分にできるということになる。

 故に、質問のチャンスが4回であるというのならば、絞り込めるのは52枚の半分の半分の半分の半分で、


 ……最悪でも候補は4枚まで減らせる。上手くいけば3枚になる。


 本来ならば1/4の可能性だが、このゲームは1対3の勝負で、こちらは協力できるので実際には解答権は三回ある。

 これならばカードを当てる確率は運が悪くとも3/4で75%、運が良ければ3/3で100%だ。


 ……浅岸が提案したにしてはずいぶんと不公平な、っていうか自分が一方的に不利なルール設定だな。


 こいつとは高校入学以来の付き合い、というか、この4人組でつるむようになったのがその頃なので、もう二年以上になる。

 それだけの期間一緒にいれば、おおよその性格や思考の傾向はわかってくる。


 ……こいつの性格からいって、真正面から馬鹿正直に考えるのは危ない、か。


 浅岸の性格は、良く言えば策士、悪く言えば悪戯者、といったところか。

 なんにつけ、人の裏をかくのが好きなのだ。

 出会ってから今までの間に、この男にだまされたりひっかけられた回数はおおよそ200ほどになるだろうか。

 これは自分だけでなく他の2人も同様だろうし、それ以外にも被害者はいるだろう。

 さらに厄介なことに、この男は天性の勘か何かで察知しているのか、人が本当に嫌がるようなことは一切せず、それどころか被害者を笑顔にしてしまう事さえあるのだ。

 そうでなくとも純粋に驚かされたり、いい意味で『やられた!!』と思わせるようなことが頻繁にある。

 それ故に、こいつは今まで出会ったほとんどのやつに好かれているし、そうじゃなくとも嫌われてはいないらしい。

 まあ、例外も極少数いるようだから、こいつも完璧超人ではないのだろう。

 そんな浅岸の将来像はどう考えてもマジシャンだ。天職だと思う。成績も何気に良いし。

 その浅岸が提案したゲームだ。普通に考えてもわからない何かしらの抜け道や裏があるのではないかと警戒してしまうのも無理はないだろう。


 ……っつっても、そうとわかっていてもひっかけてくるんだよな、こいつの場合。


 いつか完全にはまる前にすべてを暴いてやる、という思いを抱えつつも、なかなかその機会が訪れないまま今日に至る。


 ……さて、どうしたものか……。


 浅岸が受け身の姿勢である以上、まずはこちらから動いてみるしかない。


 ……だったらまずは定石通りに行くのが最適だな。


 そう考え、質問を行おうとするが、


「じゃあ、まずは私から行くわよ」


 という香樫の声にさえぎられる。

 大丈夫か? と考えるが、こいつも浅岸との付き合いは長いのだから自分と同じ思考はしているだろうと思い直し、けんの姿勢に入る。


「じゃあまず一つ目の質問。『そのカードは赤のカードですか?』」


 ……よし、良い質問だ。


 トランプは赤と黒の二種類に大きく分けられる。この質問にyesならば赤のカード、noならば黒のカードを伏せたということになり、いずれにしろ可能性の半分がつぶされることになる。


 ……まあ、香樫も馬鹿じゃねえからな。こういうゲームの攻略法ぐらいわかるか……。


 攻略法、とはいっても、勝とうと思えばこの方法しか思いつかないだろう。

 そんな普通の方法だ。

 問題は、至極普通なこの問いに対して、浅岸が何も対策を立てていないわけがない、ということで。


「その問いに答える前に、僕から一つ忠告です。――もう少しきちんと定義をしないと足元をすくわれますよ?」


 ……なに言ってんだこいつ……?


 いつも通りの澄ました顔で言われた浅岸の言葉に、俺たち全員の心は一つになった。……と思う。


「……えーっと、それってどういう意味? 定義って、何の事?」


 夜浮の疑問ももっともだ。俺にも何言ってんだかわかんねえ。

 疑問の表情を浮かべる俺たちを、浅岸はうれしそうに眺めてから、


「簡単なことです。香樫さんの思う『赤のカード』と、僕が思う『赤のカード』とは、果たして同じものなのでしょうか? と言いたいんですよ、僕は」


 ……そう来たか!!


 浅岸のその言葉を聞いて、こいつが今回仕掛けた罠の正体に、俺はやっと気が付いた。

 確かにこの手なら『嘘を言わずに嘘を吐く』ことも可能だ。

 だが、香樫と夜浮はまだ何のことかわからないらしく、首をかしげている。

 浅岸の方を見ても、にこにこと笑うばかりで何かを言う気配はない。


 ……仕方ねえな……。


「おい香樫、お前の考える『赤のカード』ってのはどんなカードだ?」

「は? 決まってるじゃない、トランプのハートとダイヤのカードの事よ。っていうか、そんなの常識でしょ」


 少しばかりムッとした顔で、香樫が返してくる。

 まあ、いきなりそんなことを言われればそういう反応をするのも無理はないが……。


「……だそうだが、お前はどうなんだ、浅岸? ……っと、これは質問じゃねえ、確認だからな。質問回数は消費しないぜ」


 ここで質問回数を消費すると難易度が文字通り倍になる。それは避けたい。

 そのことを伝えると浅岸は一つ頷き、


「構いませんよ、ルール確認の一環ということにしますから。それではお答えしましょう。僕の思う『赤のカード』は……、少なくともこのゲームには存在しませんね」


 ……やっぱりか。


 そう納得する俺だったが、意味が解らない二人にはたまったものではないだろう。

 案の定、香樫が文句を言い始めた。


「ちょっと浅岸、どういう事よ!? トランプなんだから赤と黒が半々で入ってなきゃおかしいでしょうが!! それにさっきあんたがカードを広げた時、きちんと赤いのも見えたわよ!?」


 そう言いたい気持ちもわかるが、とりあえず落ち着いてくれ。店の迷惑になる。


「落ち着いてください香樫さん。これは単なる定義の問題ですよ」

「だからそれが意味わかんないって言って――」

「――少し落ち着いて話を聞いてみろ」


 どんどん熱くなってくる香樫にそう言ってこちらに注目させる。


「思い出してみろよ。そいつがそう言う訳のわからないことを言う時は、決まって何かしらの考えがあっての事だ。そして、俺たちがそれに納得できなかったことがあったか?」


 正確には『言いくるめられなかったことはない』なんだが、まあ言い方の違いということで納得しておく。


「……そりゃあ、ないけどさぁ……」


 しばし思考して落ち着いたのか、香樫はつぶやくようにそのことを認めた。


「――さあ、場は整えてやったから、あとはお前がやれ。これ以上めんどくさい状況にしてくれるなよ?」

「ふふふ……。相変わらず東屋くんは優しいですね。そういうところ、僕は好きですよ?」

「お前はどうか知らんが俺にそっちの趣味はねえ。気持ち悪いこと言ってねえでさっさと説明しろ」


 相変わらずつかめねえ野郎だ。なんでこんな奴が人気者でいられるのか不思議でしょうがねえ。

 ともあれ、俺の悪態もいつもの笑顔でさらりとかわし、浅岸は香樫へ向き直る。


「それでは説明致しましょう。……とはいっても、先ほども言った通りこれは互いの定義の違いにより起こった問題です。香樫さんの『赤のカード』の定義は先ほど聞きましたが、僕の定義は少し違います。僕の『赤のカード』定義は文字通り『赤い色のカード』です」

「……だったら私と同じじゃないの」


 いい加減浅岸のもったいぶった言い方に慣れればいいのに、香樫はいつもこんな感じだ。今もまた苛立ちが募ってきたのか、腕を組んで指を『トントントン……』と腕に叩きつけている。


「いいえ、違います。例えばこのトランプのカード。これを香樫さんは『赤と黒が半々』と言いましたが、僕はそうは思えません。すべて黒のカードだと思います」


 『だってほら、見てくださいよ』といいながら、浅岸はテーブルの上に置かれたトランプのデッキに手を伸ばし、ゲームの開始時と同じように、ただし今度は裏側のままで、横に滑らせた。

 当然、すべてのカードの裏側が連続して並ぶことになり、


「――あっ……」


 香樫も浅岸が何を言いたいか気が付いたようだ。

 そう、カードの裏は黒なのだ。だから、


「表側にどんな色が使われていようが、裏側のこの黒を塗りつぶすほどではないでしょう。故に、僕はこのカードをすべて黒のカードだと定義します。そして、これは自分の考えを述べているだけなので、嘘を言っていることにはなりません」

「それはそうかもしれないけど、でもこれはトランプよ!? トランプで赤のカードと言えば、誰でも一つの事を思い浮かべるわ!! そうでしょう!?」


 その叫びにも、浅岸はどこ吹く風だ。さっきから店の人に向かって頭を下げている夜浮の事も少しは考えてやれよ。俺はしないけど。面倒だし。


「何事にも例外はつきものですし、その例外がここに一人います。それに、そういう思い込みで物事を判断するのは少々危険です。今回は私が主催したゲームでの出来事ですが、もし私が詐欺師なら、香樫さんは騙されていたかもしれません」

「それとこれとは話が――!」

「――同じですよ。今回の僕のこれは少々無理矢理かもしれませんが、見解の相違を利用した詐欺行為はそこら中に転がっています。もちろん僕の数十倍、数百倍狡猾な手段で行われている物ですがね。そんな時、僕が詐欺師ならばこういいます。『私はこう思っていましたが、勘違いしたのは貴方です。私は悪くありません』と」


 『なので』、と浅岸は続け、


「今回僕が皆さんに伝えたかったのは、『何かを話す際にはきちんと相互で分かり合えているかを確認しろ』、ということです。詐欺に限らず、日常でも大切なことです。思い込みで仲違いする可能性はそこらじゅうに転がってますし。少々手間でも、確認はきちんとすること。これがしっかりしていれば、人と人との勘違いは生まれませんからね」


 浅岸が言葉を発するたびに香樫の体から力が抜けていく。だが、眉を顰める力だけは抜けることはなく、


「……言いたいことはわかったけど、納得はできないわ……」

「ええ、それでいいです。というかむしろ、納得してもらっては困ります。これは完全に詐欺師の理論ですからね。絶対に納得して、あきらめてはいけません。徹底して戦ってください。今回のゲームはその予行練習です。このゲームで僕が行う程度の事は、他の詐欺師も行ってくるし、日常生活でも起こりうる勘違いです。なので、それを見抜く目を、耳を、鼻を、それぞれ養ってください。それが、今回僕が言いたかったことです。ですが、これが生活していく中でとても重要なことであることは、納得してください」


 そう言われて、香樫は眉の力も完全に抜き、大きく息を吐くと、


「わかったわ、納得してあげる。……全く、ほんとにあなたは口がうまいわね。ほんとに詐欺師なんじゃないの?」

「ははは、ひどいですね。僕はこの特技を悪事に利用したことは有りませんよ?」

「それでもこういう事に悪用はしてるじゃないの。……まあいいわ、それじゃあゲームを続けましょう。さっきの質問は訂正するわ。答える前だったから構わないわよね? 質問内容は、『そのカードの表面には赤いハートかダイヤのマークがありますか?』よ。ハートとダイヤのマークはこの形と定義する。ただし大体合同な図形は同じ図形とみなすわ」


 と、香樫はノートの隅に赤ペンでマークを書いて見せる。

 その問いに、浅岸はにっこりと笑い、


「その問いに答えましょう。――答えはnoです」


 ……つまり、マークはスペードかクラブ、ということか……。


 しかも、最後の注釈を告げることによりマークの大きさが違うという見解の相違はなくなっているから、間違いはない。

 いろいろあったが、これでやっと一つ進んだ。

 見ると、先ほどまで緊張しっぱなしだった夜浮も体から力を抜いている。

 そして、二つ目の質問は、


「じゃあ、今度は僕から質問するよ。とはいっても、香樫さんの質問とほとんど変わらないけどね。……僕の質問は、『そのカードに黒いスペードのマークは付いていますか?』だよ。ああ、スペードのマークはこれね。香樫さんと同様に、この図形と大体合同な図形は同じものとみなすよ」


 そう言って、夜浮は香樫と同様にノートの隅にかかれた黒いスペードのマークを示す。

 それを見て、浅岸はうれしそうに、


「その質問に答えましょう。――答えはnoです」


 と答える。


 ……となると、マークはクラブにしぼられた。


 今の所、見解の相違を見いだせるような箇所は無い。

 ならば、次の質問で数字を決定する必要があるが、


 ……ここも、注意しないとまずいな……。


 そう思い、しかも順番的にも自分なので(特にそう言うものは決まっていないが、気分的な問題だ)、次の質問は自分が担当する事にした。


「さて、今度は俺からの質問だ。『そのカードは、「8」、「9」、「10」、「J」、「Q」、「K」のカードのどれかですか?』だ。ちなみに、それぞれのカードの定義としては、そのカードの隅にいま言った数字、あるいはアルファベットがマークと共にしるされている物の事を言う。マークとはさっきこの二人が言った三つに加え、黒で描かれたクラブの事を言う。マークはこれで、これも同様に大体合同な図形は同一の図形としてみなす。以上だ」


 と、黒のスペードのマークをノートの隅に書いて示す。

 この質問で『そのカードの数字は8以上ですか』と聞かなかったのは、『アルファベットは数字じゃない』という見解の相違をつぶすためだ。

 おそらく、そういう事も想定していたのだろう。浅岸は少々驚いて、しかしうれしそうな顔でこちらを見て、口を開く。


「その質問、答えはnoです。……驚きましたよ、僕の話を聞いて僕のやりそうなことを先読みしましたね?」

「……やっぱりやるつもりだったか……。忌々しい。お前の事をよく知っていて、さっきの話を聞いていればお前のやることなんか予想がつく。これ以降、見解の相違は起こせないと思えよ?」


 俺の半分脅すような言葉に、浅岸はおどけたように肩をすくめ、


「ふふふ、怖いですねえ。お手柔らかに頼みますよ?」


 という。

 ほんとにこたえねえ奴だなあ、と思いつつ、先ほどの質問による結果を考える。


 ……8以上のカードがない、ってことは、こいつの選んだカードはクラブのAから7までの七枚のうちのどれかか……。


 なんとなく、浅岸は絵札を取っているのではないかという思いからの先ほどの範囲指定だったのだが、裏目に出てしまった。


 ……だとすると、Aなんてわかりやすいものは選ばねえよなあ、こいつの性格からして。


 そう考え、今度は4、5、6かどうかを質問しようと思うが、


 ……待て待て、こいつがそんなタマか? いつも俺たちの予想の裏側を行ってる男だ、裏の裏をかくぐらいでちょうどいいだろう……。


 そう判断し、目線で二人に『続けて質問する』という旨を伝え、


「最後の質問だ。『そのカードは「A」、「2」、「3」のどれかですか?』だ。ちなみに、カードの定義はさっきのと同様だ。さあ、答えろ」


 そう言うと、浅岸は腕を組んで、言う。


「お答えしましょう。――答えはnoです」


 ……ちっ、考えすぎたか……。


 これで、浅岸の選んだカードはクラブの4、5、6、7のどれかであると決定された。

 正直、三枚まで絞れなかったのは悔しいが、まあ、そこまで高望みしても仕方がない。


「――さて、これで質問権は全て使い切られました。では、わかった方からお答えください」


 そう宣言され、考え込む。

 これから先は完全に運任せの勝負、


 ――と言う訳でも、実はない。


 なぜならこれは、三人の誰かが当てれば全員が勝ちとなる勝負だからだ。

 ならば、三人の解答権の内2人分は絞り込みに使える。

 ルールによれば、解答したらすぐに正解か不正解かの発表がされるというので、かなりやりやすい。

 それは二人もわかっているらしく、俺に目配せをしてくる。

 どうやら、俺を最後の回答者にするつもりらしい。

 そして、夜浮が場の沈黙を破った。


「じゃあまず僕から解答するよ。――浅岸君の選んだカードは、『クラブの4』だ」


 その解答に、浅岸はいつも通りの表情で答える。


「残念、はずれです」


 ……ちっ! ダメか。


 ここで当たってくれれば自分に順番が回ってくることも無くなるのでかなり楽なのだが、そうもいかないらしい。

 続いて香樫が勢いよく声を上げる。


「じゃあ私の解答ね。――浅岸の選んだカードは、『クラブの7』よ。ラッキーセブンね」


 自信たっぷりに言われたその答えに、浅岸は笑顔ながらも淡々と返す。


「申し訳ありませんが、不正解です」


 『あ~あ、外れちゃった』と残念そうにする香樫だが、俺はもっと残念だった。


 ……結局俺まで回ってきやがった……。


 俺まで回ってくる確立は1/2だったから驚くことではないが、それでもこんなめんどくさいことは勘弁してほしかった。


 ……最後の選択はかなり重いんだよなあ……。


 一人目と二人目は適当に選んでも後があるからいいが、三人目は後がない分、慎重に考えなければならないのだが、


 ……めんどくせえなあ……。


 本来こういう面倒なことは浅岸の役目だったのだが、今回あいつは敵だ。二重の意味で。


 ……まあ、こういうお遊びも悪くねえって思ってる時点でこいつに毒されてるんだろうなあ……。


 そんなことをつらつら思いつつ、答えを考える。


 ……残ってるのはクラブの5と6、か。


 浅岸はデッキから適当に選んだのではなく、きちんと見て選んでいた。

 ならば、何かしらの意味のある数字なのだろうが、


 ……絵札とかAだとかならともかく、普通の数字のカードだしなぁ。


 トランプ占い用に一応52枚それぞれに意味はあるらしいが、占いなんかに興味はないし、そんなものをいちいち覚えてもいられない。それは浅岸も同じだろう。


 ……だったら、『意味がないことに意味がある』、と考えるべきか……?


 意味があって選んだと見せかけて、実は何も考えずに選んだ可能性もある。

 もしそうだった場合は、これ以上のヒントはなくなってしまうが、かといってもし考えがあって選んだとしたら――


 ……って、もう判断材料がないからこれ以上考えられねえじゃねえか。


 思考のループを止め、もういっそのこと開き直って適当にどちらかを選ぼうと思い立ったとき、


「いい加減に四の五の考えてないで選んだらどうですか? 休憩時間が延びてしまいますよ?」


 と、浅岸から声がかかる。


 『うるせえ、誰の提案でこんなことになってると思ってんだ』とでも言おうと思ったが、そもそも自分たちが賛成しなければこんなゲームは始まらなかったことを思い出す。


 いらだった気持ちをどこに向けていいかわからないまま、答えをどちらにしようかと考えていると、


 ……ん? さっきあいつ、『四の五の考えてないで』っていったよな……?


 今浅岸が選んだ可能性がある数字は5か6だ。『四の五の』と『5か6』、何かつながりがあるのだろうか?


 ……普通のやつが言ったのなら偶然だと判断するけど、こいつの場合は何でも計算されているように感じるからな……。


 普通に考えれば、当ててほしくない数字を無意識に避けてしまっていると考えて6を選ぶところだが――


 ……こいつの場合はその裏をかいてわざと正解の番号を口にしたりしそうだな。 よし。


「決めたぞ。俺の回答は、『クラブの5』だ」


 浅岸は俺の言葉に少し目を見開いて、そして笑う。


「……本当に、東屋君は僕の予想を覆しますね。普通なら『クラブの6』を選ぶんですけどね……」

「お前とは長い付き合いだからな、人の裏をかくことなんて、得意にもなるさ」


 俺が肩をすくめてそう言うと、浅岸はにっこりと笑って、


「なるほど、いわば僕が師匠ってわけですか」


 『だったら』、と浅岸は続け、



「――だったら、まだまだ負けてあげるわけにはいきませんね。残念、不正解です」



   ●



 浅岸の告げた言葉に、東屋は驚きの声を上げる。


「おいおい、お前さっき『予想外だ』みたいなこと言ってたじゃねえか! 俺の予想が外れたことには驚かねえが、だったらさっきの言葉は嘘ってことになるぜ?」

「そうよ、『嘘を言わないで嘘を吐く』って言ったのはあんたでしょ? まさか、私たちが負けた瞬間にゲームは終わりなの?」


 東屋に引き続き、先ほどよりも落ち着いた調子ではあるが香樫も声を上げた。

 それに応じるように浅岸は掌を2人の方に向けて『まあまあ』と言いながら、


「そんなことは有りませんよ。きちんとすべてを説明するまでがゲームです。なので、先ほどの言葉も嘘ではありません。とりあえず一度落ち着いて、僕の種明かしを聞いてください」


 そう言って二人を落ち着かせ、浅岸は傍らに置いてあった自分のコップを持つと一気に飲み干してのどを潤すと、


「さて、それではお話しいたしましょう。まず一つ、導入としてマジックに関する豆知識から。マジックを見るとき、そのマジックのタネが知りたい場合は、『マジシャンが右手を上げたら左手を見ろ』、と言います。これは、マジシャンが右手に観客の視線を集めている間に左手でマジックにおいて重要な作業をしていることが多いことから言われていることなんです」


 そう言いながら、浅岸は自分の右手を掲げる。


「さて、今回の場合、僕は『右手』を見せました。ですが、そのすぐ後に『左手』で行っていたタネの内容をばらしました。これにより、三人の目は左手に釘付けになりました。それはそうですよね。一つタネがわかったら、次もそれを使われるかもしれないと警戒するのは当然の事です」


 浅岸は言葉の途中で掲げた左手を三人の前に出す。


「ですがこの時、僕は『左手』をわざと晒すことで、本当に隠したかった『右手』を隠したんです。マジックのネタでマジックのネタを隠す……。案外ばれない物なんですよ? そして、今回の場合において、『左手』は『定義の違いによる言い訳』です。三人とも、これがこのゲームで僕が勝つために用意した作戦だと思い込んで、その間違いを犯さないようにという事だけに神経をとがらせていました。――だから、僕が本当に隠したかった『右手』に注意を向けなかった」


 そう言いながら、浅岸は左手に向けていた視線を少しおろす。

 三人がつられて目線を落とすと、そこには浅岸の右手があり、その手は伏せられたカードに伸びていた。


「そして、これが僕の隠していたかった『右手』――」


 伏せられた正解のカードがめくられ、その正体が明らかにされる。





 「――『JOKER』です」




   ●



 今まで黙って展開を見ていた夜浮は、混乱の極みにいた。


 ……え? えぇ!? どうなってるのこれ!?


 一番最初にジョーカーは二枚とも抜かれた筈だ。

 自分が持ってきたトランプにはジョーカーは二枚しか入っていないので、この三枚目はありえない。

 だが、今目の前でそのありえないことが起こっている。


 ……いったいどういう事……?


 必死で考え込んでいると、浅岸君の横で顎に手を当てて考えていた東屋君が、


「浅岸、お前が隠したかった『右手』は、それだけじゃないだろう?」


 そう言って、東屋君はテーブルの上に手を伸ばした。


 その手は、テーブルの端に置かれていたトランプケースの方へ伸ばされ、


「……これも、お前の『右手』だろ?」


 ケースを掴み、手元に持ってきて、ふたを開け、中に入っているジョーカー二枚を取り出す。


 ――そのはずだったが、


「――俺たちは、最初っから騙されてたってわけだ」


 取り出されたのはジョーカー一枚と、


 ……スペードの8……?


 訳の分からないことの連続でパニックを起こしかけていると、いきなり『パチ……パチ……』と音が響いた。

 店の中ということで控えめな音で鳴らされた拍手の音は、浅岸君から響くもので、


「いやあ、もう気が付きましたか。本当に、東屋君がいると話が早く済みますねえ」


 そう言いながら、浅岸君は東屋君からカードを受け取ると、テーブルの上に並べて置いた。


 ……え? でも、浅岸君は最初に二枚ともケースに入れたはずじゃ……?


 その疑問は香樫さんも抱いたようで、眉にかなりの力を込めた顔で質問する。


「……どういう事よ浅岸。あんた、最初に『ジョーカーは邪魔だからはずしておきましょう』とか言ってたじゃないの」


 だがそれに答えたのは、浅岸君ではなく東屋君だった。


「香樫、良く思い出してみろ。こいつは『ジョーカー二枚を取り除く』とは一言も言ってないぞ」

「「え?」」


 東屋君の言葉に、僕と香樫さんは揃って間抜けな声をあげた。

 それがおかしかったのか、浅岸君は笑いをこらえながら言う。


「ふふふ……。僕が言ったのは、このゲームをするに当たり、『ジョーカー二枚は少々邪魔ですので、この二枚のカードは除いておきましょう』という内容です。ですが、『この二枚のカード』がジョーカーだとは言っていません。これは、『ジョーカーは一枚で十分だから二枚もいらない。だからジョーカー一枚とあとは適当に選んだ一枚を除いておきましょう』という意味の言葉です」

「だからこいつはその言葉の通り、デッキの中からジョーカー一枚と適当なカード、今回はスペードの8だったが、それを抜き取り、ジョーカーしか見えないように重ねてケースの中にわざわざ表側にして入れて、『抜いたのはジョーカーのみだ』とでも言うようにアピールしたのさ。そして、実はジョーカーが一枚残っているデッキを見事な手際でカット・シャッフルしてケースから注意を逸らし、そのうえでデッキの中からジョーカーを選んで伏せた。これがこいつの『右手』の動きだ」


 東屋君は忌々しそうな顔を隠そうともせず、浅岸君の説明を引き継いだ。

 浅岸君はその説明に頷き、

 

「後はゲームが開始され、その間も『左手』を晒すことで注意を『右手』から逸らし続けました。質問の解答については、もうわかって頂けたと思います。ジョーカーですからマークも数字もありませんので、すべての質問にnoと答えました。正直言って、『A』『J』『K』という文字が含まれるか、という質問でも来ない限り、yesという答えは出なかったでしょうね」


 種明かしをする浅岸君の顔は、本当に楽しそうなものだった。

 それを見る東屋君の顔は反対に不機嫌その物であり、


「だからこいつは、俺たちがどんなカードにあたりをつけるかってのは全く予想できなかったのさ。なんせすべての質問にnoと答えてればいいんだからな。んで、最後になって俺たちがあたりを付けたカードを質問から予想して、本来ならば必要のないアドリブで揺さぶりをかけてきたってわけだ。ずいぶんと悪趣味だなあ、おい」

「僕にとっては褒め言葉のようなものですよ、それ。――ともあれ、これでゲームは終了です」


 そう言って浅岸は時計を確認する。


 時計は、ゲーム開始から15分が過ぎていることを告げていた。


「さて、時間もちょうどいいですし、休憩はここまでにしましょう。あまり長く休んでいては意味がありませんしね」


 そう言うと、浅岸君はわきに除けていたノートや教科書を広げて、


「さあ、もうあと一時間ほどしたらデザートタイムです。その時にはまた違うゲームを用意しますので、ご安心を」

 

 全く安心できないけど、それでも期待をしてしまう僕は、やっぱり浅岸君に毒されてしまっているのだろうか……?



   ●



 タネも仕掛けもありませんよ?

 だってどちらも、見つからなければ無いのと同じですからね……。



   ●

読了、お疲れ様です。


いかがでしたでしょうか?


今回はふいに浮かんだアイデアを用いてミステリー(?)、というか、ミステリー(笑)的なものを書いてみました。


この小説で書いたゲームですが、実際に友人にやってみたところ、見事に騙し切りました。

ですが、その時もこのお話と同様に勝っても負けても相手に一切損をさせない内容で行いました。

そうでない状況でこの方法を行った場合、最悪人間関係が崩れますので、笑い話で済むように行動していただきますようお願いいたします。


このお話を読んで、思ったことがあった場合、ぜひ感想までお願いします。

批判でも酷評でもなんでも受け付けますので。


では、今日はこのあたりでお別れです。

それでは、最後になりますが、

ここまで読んでくださったあなたに、最大限の感謝を。

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― 新着の感想 ―
[一言] カードを除いたところでオチがよめてしまいました。 違うといいなと思いながら読み進めましたが、やはり。
[良い点] 始めまして、愚智者といいます。 ミステリーものは初めて読みましたが、最後のオチが楽しめました。 読んでいるとき、登場人物の浅岸さんの言動が[北欧神話のトリックスター]であるロキを思わせ…
[良い点] なるほど! わからん! [一言] 自作の「夢を追う者」第二期は魔法でいろいろわかってしまう世界での探偵モノにしようと思っていたので結構面白かったです。
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