第6話:壊れた過去
第五話:壊れた過去 2010年 12月 06日 (Mon) 22時 19分 09秒
カーシェはチアキに過去について書いてある本を探して欲しいと頼まれ、本を探していた。
「――えっと、ここに歴史を記した本が置いてあったはずでしたね。
確か内容は_」
諍いがあった。
始まりはほんの些細な行き違い。
やがて其れは国同士の諍いを引き起こす。
人が人を呪い、国が国を呪い、些細な行き違いは少しづつ、少しづつ大きくなっていった。
山野に火が放たれ、川に毒が注がれ、動物たちは逃げ惑い、地に臥した。
人もまた、己の成した事の大きさに恐れ、嘆き、地に伏し祈った。
しかし、諍いは治まらない。
国同士の諍いは、加速度をまし、破滅へ進んでいた。
そのとき。
ひとりの娘が黒い太陽の導きによりこの世界へ降り立った。
夜の髪を持つ黒い瞳の娘は、風の国の王とともに世界の安定を図った。
諍いに疲れた、水の国がまず剣を降ろした。
戦いに明け暮れていた火の国の王が凪の風に呑まれ、勢いを鎮めた。
火の国の勢いに押されていた木の国が、ようやくの青空に一息をつき。
地に沈み、情勢を見ていた土の国がかたく覆った岩を動かした。
ここに、五王国を巻き込んでの戦が終結する。
――娘は。
宵闇のつややかな長い髪を持ち、黒く輝く美しい瞳を持った、うつくしい娘だった。
人の諍いに嘆きを極めた精霊たちの声が、娘を呼んだのか、彼女には強い精霊の力が備わっていた。
火も、風も、木や、水や、土までもが彼女の為に動いた。
そして、人も。
彼女の存在無くては、戦の終結は無かっただろう。
――やがて、五王国の公子たちが、そろって彼女に求婚する。
娘をめぐり、また諍いが繰り返されるかと思われたが、五王国のそれぞれの公子は、娘の嘆く姿にそれぞれ剣を収めることとなる。
――彼女が愛した人が誰なのかは、今はもうわからない。彼女は、誰の手も取らず、誰の元にも行かず、一番の加護があった風の神殿に身を寄せることとなる。
五王国の公子は、それぞれの有する力が一番強い月に風の神殿に赴き、黒い太陽の姫巫女と呼ばれるようになった娘を守った。
――やがて、彼らは知る。
彼女の祝福は、この世界の隅々まで行き渡っているが、なかでも彼女自身にかけられた祝福はこの世のものとも思えぬほどの甘美であると。
すなわち、涙。
すなわち、唾液。
すなわち、血液。
――そして、体液に至るまで。
「――と……何かチアキ様がいれば「全て戯けた者が付け上がりやがって。」とか言いそうですね……。」
チアキなら絶対に言うであろう。
「あ、見つかった、ふんふん……ぇ? ナニ……コレ……。」
――娘は。
宵闇のつややかな長い髪を持ち、黒く輝く美しい瞳を持った、うつくしい娘だった。
人の諍いに嘆きを極めた精霊たちの声が、娘を呼んだのか、彼女には強い精霊の力が備わっていた。
火も、風も、木や、水や、土までもが彼女の為に動いた。
そして、人も。
彼女の存在無くては、戦の終結は無かっただろう。
――本当にそうだったのだろうか?――
――やがて、五王国の公子たちが、そろって彼女に求婚する。娘をめぐり、また諍いが繰り返されるかと思われたが、
娘と似通った青年が現れた。
彼は言った。
――戯けが、お前たちはただ、戦争を止めてくれたと言うだけであの女を聖女扱いか? 馬鹿じゃねぇの? 人に命令して貰わないと自分の世界を安定させることのできない哀れな人間……まるで家畜じゃねぇか?――
この言葉に誰しもが固まった。
その通りだからだ。
王たちは言い返すが、全て青年に言葉を打ち返され、逆に自分の立場が危うくなった。
――いい加減にしろ、お前たちが王?――
――フザケルナ――
――民を導かず、ただ自分の欲しい物が手に入らないからって力で押さえつけようとする――
――まるで幼児だな、己で動こうとしない哀れな奴らが――
青年の言葉は全ての王の心を鋭い刃物で切り裂いたかのように言い放った。
巫女はこの世界へ残ったと誰もが聞くが、青年の事は記されていない。
だが巫女は言った。
――道は自分で開くもの……そう彼に教わった。――
「――歴史の書が変わってる……青年って……チアキ様?」