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第二十八話 名も無き神様

多くの世界がある中で、多くの命が争った。





 自分とは違うから





 誰かを殺したから





 侮辱したから





 自分の気に入った相手を奪われたから





 信仰する王に従わないから





 ルールを破ったから





 自分の命令に従わないから





 格上として自分の嫁にすると言ったのに拒否をしたから





















       コ   ロ   ス


         殺   す













 命を奪うなんて簡単だ、人も、動物も、植物も、神も……必要な物を奪い取れば良い。


 時に環境、生き物は空気無しでは生きられない。 一部の神も同じだ。


 時に生き甲斐、知恵ある生き物は時として生き甲斐と呼ばれる枷にすがる事でこそ生きる目的にする。

 例えば生物の本能としては子を作る事が本来の目的だが、本能など関係の無くなった者はやりたい事……例えば物語を読むなどの快楽や『無職主義性欲的不純人物オヤノスネカジリノロクデナシニート』の場合は性欲を発散するなどの枷によって生きる目的として繋がれている。


 それはさて置き、それら生きる目的がいつしか全ての敵を根絶やしにすることだけになった神々がいた。


 戦いに加わらない女性、少年少女、幼子の声が聞こえても、自分の正義と言う言葉だけを信じ、全てを切り捨てていった者たち。


 彼ら彼女らを守るために力を欲し、不死を求めた神たちは……いつしか守る目的を忘れ果て、守ろうとして来た者たちの命を自らの延命に使った。


 気付いたときには既に遅し。




 気付いたということはその命が終わる瞬間、または命が着き、肉体に残った最後の生命力なのだろう……。

 簡単に言うとこうだ、生き物は人間も含め、首を切り落として


 そうそう、ルイ14世の斬首を目撃していた博士が、「本当に即死出来るのだろうか?」と不審に思い、何回も公開処刑を見に行き、ある日ギロチンに掛けられる囚人に残された囚人の家族に大金をあげるのを条件に「首を斬られたあと、意識がある間、瞬きをしてくれ」と頼んだ所、12回程した時に口を動かした。そして博士は「即死はしない」と言う事を自ら教えようとし、ある日民衆を集めた博士は、ギロチン台に登り、首を自ら切断した。首を切る3ヵ月前から博士は、一秒の時間を完璧に叩き込んでおり、助手に「首を切られてから、一秒間隔で瞬きするから、瞬きの回数を計ってくれ」と言い残し、民衆にも説明した。そして、博士は自ら首を切断したあと、47回瞬きをしたそうだ。そして、この事実を知った民衆は、クーデターを起こしてギロチンは禁止になった。


 たかが人間ですらそうだ。 神はきっと辛いだろう、


 戦いの神ですら戦いが怖くなった。 つい最近生まれたばかりの神の子が、少年となったとき、戦う力を持っていたが為に絶望の表情を浮かべ、永遠に笑顔を見る事が無くなる瞬間を……。

 血塗れの手を笑って握り締めてくれた手が、その手を掴むことなき悲しみ……。


 多くの神は抱く……死の直前に。


 自分たちは……何の為に生きているんだ?


 彼らは語れない。


 気付くのに遅すぎたんだ。




 どこにもぶつけることのできない感情……それは苦しみ、それは悲しみ、それは怒り、それは嘆き。


 そして一つの命となった。


 それが生まれたとき、世界は止まった。






















    ツワモノタチガセンジョウニフス

    兵 達 が 戦 場 に 伏 す







 たった一つの命は、最悪であり最善の終わりを迎えさせた。


 戦っていた全ての神々は動くことすらままならぬ麻痺に襲われた。 世界中の戦う神が全員、動くことすらままならねば、敵も味方もないだろう。


 結果、戦争は終わる。 だが、その後の神々を知る者は居ない。 いつだって神はわがままだ、自分さえ良ければ良い、その考えは人間よりも多いだろう。

 人間の中で最もルール通りに生きようとする日本人に比べれば一目瞭然だ。 日本人だけはゲームであろうと仕事で何であろうと、ヒモな男になるためであろうとマニュアルを作る程なのだから。





 さて置き、24枚の翼を持つ神がチヒロとチアキの前で倒れる。


 翼はいくつか引きちぎれ、一枚の翼はチアキの左手に握り締められ、血が滴る。


 「やはり……だね、僕は分かっていた……君に勝てないと言うことを」

 「苦し紛れの言葉か?」

 チアキは問う。


 「苦し紛れ? なんのことだい? 僕は本来の目的は終えた」

 「本来の目的?」

 疑問……本来の目的など、チアキには検討もつかない。


 「もしかして……世界を最初からに……!?」

 チヒロは叫ぶ。


 「そう、そしてそれだけじゃない、地球も共に。 命に変えても本来の歴史に僕は戻すつもりさ!! そして君の存在も!!」

 神は叫び、チアキを後ろから腕を掴み、握り締める。


 「何をする気だ?」

 変わらぬ口調、完全に平然としている。


 「決まっている、僕の命を捧げて君の存在を“消滅”させるのさ!!」

 「っ」

 小さな驚きだ。 だがそこに恐怖はない。


 神がチアキの体に取り込まれる。


 完全に取り込まれると頭痛がするのか頭を抑えよろめき、倒れた。


 「チアキ……!!」

 チヒロは叫び、近づく……。


 一歩が重かった。


 一歩歩く事に突然、幼き頃の思い出が蘇る。


 物心がついた頃、遊んでくれずともいつも彼の背に乗った。 彼は嫌そうな顔もせず、ただそのまま彼女を乗せていた。


 幼稚園の頃、イジメを受けたけど、チアキに教えてもらった方法で撃退した。


 小学校の頃、チアキに認められたくて何でも一番を目指し、どれも一番になった。 でも認められなかった。


 中学校の頃、下心だけで近づく男を制圧した。 これもチアキに教えてもらった方法だ。


 高校の頃、チアキの部屋にクリスマスプレゼントをした。 中身は秘密。


 今までの思い出が溢れる。


 目から涙と共にこぼれ落ちる。


 「チヒロ」

 チアキが呼ぶ、チヒロはもう目の前にいた。 彼は仰向けになり、足元が光に包まれ、消えていた。


 「ち……あき……」

 そう言って手を取る。 袖にはお月様をイメージしたカフス。


 「これ……クリスマスの……着けてくれたんだ……」

 えぐっとしゃっくりをすると涙が飛び散った。


 その時、チアキがチヒロの頬に触れ……

 「五月蝿い」

 --と、初めて彼は笑みを浮かべて言った。









































 優しい太陽の光が、まぶたの裏を優しく照らす。


 桜の良い香りが花をくすぐる。


 算数の教科書とノートを枕に私はうつ伏せになっていた。




 「大月おおつき 千尋ちひろちゃん、お昼寝の時間じゃなくて算数の時間よ?」

 目の前にいる女性が、とても大きく感じる。


 目を擦った手は小さかった。


 筆箱の周囲に散らばる鉛筆がとても長く感じる。


 「じゃあ千尋ちゃん、8-7は?」

 「あ、1です」

 「――起きて直ぐだったのによく答えられたわね……?」

 小学校……?


 すぐさま算数のノートを確かめる。


 『1ねん1くみ おおつき ちひる』……“ろ”が“る”になってるや……。


 小学一年……10年前……。


 4時間目を終えて私は家に帰った。


 “誰か”が乗っていた小型飛行機は車庫に無い。 きっと過去だからだろう。


 そう思いたかったけど……物心がついた時から“誰か”が世話をしていた庭は雑草が生えていた。


 “誰か”がいた部屋は物置で、誰かがいたテーブルの席は誰も居なかった。 食器も、服も、タオルも、歯磨きも……。





 私は一人、公園でブランコを揺らす。


 夕暮れに黄昏たそがれて、ただ悲しかった、ただ虚しかった。


 有名な漫画にはこう書かれている。


 『人が死ぬ時は忘れられたとき』だと。


 その時、私は後頭部に強い衝撃を受け、ブランコから吹っ飛んだ。


 「わ、悪ぃ!! 大丈夫か?」

 「う、うん……」

 私は起き上がってそういった。 それは私と同じくらいの男の子。


 黒髪、私と同じように月のような眼……。 でも私より細く、少し眠そうな感じだ。


 「サッカーやってたんだ」

 と言って後ろを振り返る。


 しかし誰もいなかった。 どうやら逃げられたようだ。


 「えっと……」

 「……まぁ大丈夫」

 微妙な空気になってしまった。


 「ねぇ、君はなんて名前? 私は大月おおつき 千尋ちひろ

 何となく私は彼に言ってみる。


 「同じ名前だ!! 俺、大月おおげつ 千尋かずひろって言うんだ!!」

 そう言って彼は名前の書かれたノートを見せ、そこには漢字で『大月 千尋』書いてあった。 なんという偶然、そんな気持ちに私は唖然とした。


 「凄い……えっとカズヒロ君?」

 「カズでいいよチヒロ。 さっきのごめん。 これあげる」

 そう言って私の手に袋に包まれた大きな飴玉を置いて、--あ、帰らなきゃ!! じゃあな!! と、そういって彼は帰っていった。


 次の日、私は彼を見なかった。


 一週間が過ぎても。


 一ヶ月が過ぎても。


 一年が過ぎても。























 高校の春


 部屋の整理をしていると、袋に入った飴玉が見つかった。 何だっけ……コレ?


 『ピンポーン』

 その思考をしていると、インターホンが家に鳴る。


 「はーい」

 私はそういって出る。


 目の前には黒髪ツンツンな同世代の男の人。


 「今日から隣ん家に引っ越した大月おおげつ 千尋かずひろ、よろしく」

 いつ見たか忘れた、暖かい笑顔でそういった。 私の手から溢れた袋入りの飴玉は、地面に落ちて袋が剥ける。 そこにはお月様のカフスが入ってた。







お忙しい中、マグマさんがお届けしてくれたお話です。


読後感は最高です。


マグマさん、お疲れ様でした。そして、ありがとうございます。

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