第二十一話:変わるのは世界だけじゃない
第二十一話:変わるのは世界だけじゃない 2011年 05月 31日 (Tue) 20時 40分 25秒
チヒロはあれからは、大人しく、歴史書なんかを紐解いていた。いや、はっきり言ってチアキ殿が怖いのであろう。
木の国ハクオウの蔵書はすばらしい。俺もこの国へきた時は図書館にこもりっぱなしになる。子供のころからの馴染みの場所だ。ここで、ひとり、もしくは兄上と話しこんだものだった。
まるでチヒロがチアキ殿と並んであのように本を呼んでいるように……微妙にチヒロが泣かされているが無視の方向がいいだろう。チアキ殿が怖い……。
お互いが国王になり、国の重責を担う者になってからは、遠のいた懐かしい場所だったが、今は、ストーカーのしやすい場所だ。ゲフンゲフン。
こいつはどうも、自分に代わる甘露を探しているらしい。
本来ならチヒロに近寄る男を排除するべきだろうが、チアキ殿の目が怖く、誰も近づかないのだ。
「あの、メープルシロップの香りの木の実、人間は食べられないって言ってたよね・・・。煮ても焼いてもだめ?」
「胃液で溶けないのをどうやれと?」
「うぅ~、お兄ちゃんがイジメルぅ」
「お前のような女と一つ同じ屋根のしたで寝た記憶は無い」
「いやあるでしょ……!? それに女の子は砂糖菓子で出来ているんだからね! 砂糖がないって知ったときの衝撃ったら・・・」
「+6㌔、ココ最近太ったな?」
※チアキは死の呪文を唱えた。※
「な、なな・・・」
「忠告を聞くか、止めるか?」
「む~」
「だが何時か必要だろう、この世界の発展の為にも。
砂糖かえでの幹に傷をつけて樹液を取るってのは知っているんだけど、その後、火にかけて煮詰めるのと、布で濾すのを試す。
地球とは違って本来の楓の木とは違った事になるかもしれんからな」
私には何の話しかさっぱりだが、最近の私にとってチアキ殿の死の呪文は私にも効果があった……。
太陽と月の巫女が、風の国以外の国を訪れて、その国々の特色を知り、己の住まう場所を決定したいと希望した、と。風の国が良い国だったので、ほかの国もどんな国なのか見てみたいと懇願され、そして、自らの伴侶となる方を見出す為に、各国を回りたい、力を貸して欲しい、と頼まれた、と。巫女に頼まれて、否やは言えないだろう?と。
・・・これを聞いた当の本人が不貞腐れていたのは、言うまでもない。
私はそんなわがままいいませんよう、と腐っていた。
実際の所、チアキ殿のが好奇心が旺盛なのは私も気付いている。
風の国は、表向きは凪いでいた。
まあ、簡単に攫われるような状況になった方が悪いのさ、とその状況を作り上げた自分が、風の国を笑う。
・・・アレクシスがどんな手で巻き返してくるか、その手口を想像し、悉く返り討ちにする術を頭に思い描いていた。
しかし、どうやら、アレクシスは一国のみで対処するのを諦めたらしい、と兄上が言っていた。一番まずい方向へ、転がっていた。
そして、今朝、火の精霊と水の精霊、風の精霊が木の国を遠巻きにして騒いでいた。
木の精霊と土の精霊はなぜか楽しむ。
『あの人がいれば大丈夫~』
『槍が降ってきても雲ごと消滅ぅ~』
何だか恐ろしいのだが?
「さて、午後のお茶は庭でって決めているんだ。チアキ殿とチヒロは先に行ってな。兄上も息抜きが必要だからな、誘ってくる」
そういって、俺は心の中でチヒロに擦り寄られているチアキ殿が恨めしいと感じた。
・・・この国へ強引に招待したのだから、他国がそうするのを止められない。
濃い精霊の気配が近づいてくる。濃厚な緑を身にまとい、セイラン兄上がやってきた。
「オウラン、チアキ殿がいれば全部安心だろう。」
「そんなわけが無い気がするのだが……?」
兄上はご乱心か!?
「それほど、どこの国も欲しいのさ。今や巫女よりもチアキ殿を」
ハッキリ言ってその代わりに怖いがな……。
午後のお茶のセットは迅速な侍女たちが担っている。
チヒロは手持ち無沙汰なのか、木漏れ日を浴びながらそこに立っていた。
濃い緑の中に、光を纏って、彼女はいた。
思わず見とれてしまう。視線に彼女は気づかない。いや、やっぱりチアキ殿に擦り寄っている。く、羨ましいぞチアキ殿ぉ!!
「まさに、麗しの猫」セイラン兄上!? それはネコじゃなくミコです!!
すると、チヒロはきっと一点を見つめ、足を肩幅に開き、大きく息を吸った・・・。
「セクハランのむっつりすけべえええええええええっっ!!!」
「インランのボケなすうううううううううううううっっ!!!」
世界が唐突に変わった気がしたんだ。言葉で責められる快感に!!
「は・ははっ」
「くくっ」
どうやら兄上もその趣味に走ったようだ。
まさしく死の呪文・・・!
乙女にとってそれはなんと恐ろしい呪文なんでしょーか、マグマさん!
・・・しかし、チヒロったら、千秋さまのご飯がそれほど旨いのかああっ!
いいなあ・・・。