第二十話:平行してようがドウでもいい時間
第二十話:平行してようがドウでもいい時間 2011年 03月 10日 (Thu) 16時 52分 01秒
城の各所に配置された風の精霊封じの呪は、見事にチヒロの力をそいでくれた。けれど、もともとチヒロはそんな力を持っていなかったものだから、風の精霊の声を聞けなくても、火の精霊と意思の疎通ができなくてもさほど不自由に感じなかったらしい。
突然木の国に遣されて、さらに、セイラン兄上に乱暴に扱われて、チヒロは怒っていた。――そして、セイラン兄上の本気に脅えていた。
強がった言葉で、拒絶を突きつけても、まっすぐに見つめてくる瞳に、不安を覚えていたのだろう。手を出していない俺すら拒絶する。(――まあ、凝視したけどな! 眼福だった)
ここ暫く、まともにチヒロと話していない。と言うかチアキ殿がいて近寄れない。俺も兄上も両方とも敵にしか見えないようだ。
――木の国は薬の国だった。毒も良薬も作り出す。したがってこの森には、毒にもなれば薬にもなる草木がたくさんあった。遠くから、チヒロを眺める。それが俺の日課になりつつあった。
政務の合間に兄上が、チヒロのご機嫌伺いに来るのも、ほぼ毎日の日課と化していた。眼が合うと、念入りに入れられた、刺激の強いお茶「チヒロ・スペシャル・氷入り」をポットごと投げつけられるので、微妙に、絶妙な距離間を保たなければならないが。――その距離が全く縮まらない……。
そして、チヒロの日課は、チアキ殿に着いて行き、森でいろんな植物の葉っぱや、木の実、草の実にいたるまで、調べる事らしかった。パソコンと呼ばれる板状の何か分からない物や、ちょくちょく土の精霊が金属化したような物で作り出した物体やらで調べていた。
あっちの植物、こっちの植物、足元の草花にいたるまで、葉っぱや木の実を手に取り、匂いをかぐ。これまでほぼ毎日行われていたこと。だが、今日は。
チヒロは、手に取った草をじーっと穴が開くほど見つめていた。葉っぱを指でこすり合わせて香りを立て、さらにその香りを吸い込んで、おおきくうなずいた。チアキ殿は近くにいない。
その草に俺は見覚えがあった。隣に立った兄上もその草に気がついたようだ。眉を寄せて、呟く。
「あれは……」
「ピクサー……の、葉……?」
兄上が呟くと同時にチヒロがピクサーの葉を口に入れた。ざっと青ざめ、息をのんだ。兄上と、二人同時に走り出す。駆け寄り、青くなって震えるチヒロを支え、口の中に指を突っ込み、葉っぱを吐き出させた。
チヒロの口を無理やりこじ開けて、兄上がいつも持っている解毒薬を含ませる。こくんと喉が動いて、チヒロが大きく息をついたのが判った。二人同時に脱力する。知らず、とめていた息を吐いてチヒロの両隣に崩れ落ちた。
「――チヒロ、これはピクサーと言って……猛毒だ。」セイランが疲れたように首を振った。
「自害を・・・チヒロ・・・」歴代の巫女姫は、王の女となった。巫女姫でなくとも、王の求めに応じない女はいなかった。
高をくくっていたのだ。だがその矜持も吹き飛んだ。自分で自分が信じられなくなるほど、慌てていた。鼓動が、張り裂けそうだった。
「チヒロ。そうなのか?死ぬ気だったのか?」
死を選ぶなんて、許せなくて肩を掴んでがくがく揺さぶると、チヒロは眼をぱちぱちさせて、真顔で「死?」と呟いた。それから辺りを見回し、青褪めてる兄上を見て、青くなって大きく首を振った。
「ちが、違う。自殺なんて考えてません。あの、この、ピクサーの葉っぱ食べたのは、その・・・向こうの世界にあったミントって葉っぱに似ていたので、つい……。」
毒だったなんて知らなかったと呟いて、青くなって、俺と眼が合って赤くなって、兄上を見てまた青くなって、それから、小さな声でつぶやいた。
「あ、あの、助けてくれて、ありがとうございます……。それから、心配かけてごめんなさい。でも許す気は無いよ。」
完全にに許す気は無いようだ……。だが……。
「ホゥ、コレがピクサーと言う葉か。」と現れたチアキ殿は先ほどあった事も無視して食べた。
今はもう解毒薬も何も無い……!! が、彼は平然としている。
「なるほどな、ミント同様にメントールに近い物があり、その濃度が以上に多すぎたために体の体温を隅から隅まで奪い取り、生物を殺すって言うものか。濃度をかなり薄くすればメントールの役割を果たすことができる。」
これを天才と言うのか?
その後、兄上が子供向けの植物図鑑をチアキ殿に贈った。チヒロはチアキ殿を介してその図鑑を手に、また森へ行っていた。あっちにふらふら、こっちにふらふら。目に付いた物全て調べねば気がすまないらしい。
チヒロがチアキ殿に振り返り、植物を指差す。チアキ殿はチヒロにどんな物か説明してから無害の植物を食べさせていた。後ろに続く俺や兄上は2人の生活を見る……そんな日が続いた。
結局我々を信用して無いのか、チアキ殿にべったり……やはり原作よりも精神的に弱かったのか? 好奇心のまま、動き始めた。図鑑の食用植物以外にも美味しいものがあるかもしれないっと言い出したんだ……。
「メープルシロップの香りの木の実だ。」
「む? それは人間の胃液じゃ溶けない、腹痛を起こす。止めたほうがいい。」とチアキ殿。
「うぇ~……。」とギギの実を見る。
「桜餅の良い香り……。」
「食ったら笑いが止まらなくなる成分……。」
「なにぃ!?」とチヒロは笑い草の葉っぱをチアキ殿にそれを食べさせるが何も無し。
「――。」寧ろ冷たい目つきでチヒロを逆さ吊りで木に引っ掛けて大泣きさせていた。
「チアキぃコレ何?」
「酔っ払わせるだけのレンジの実、気分を高揚させると言う理由で、うつ病の薬にされるようだ。」
「チアキぃ、チアキぃ……。」
「――何を食った?」久々に何かを食べたらしいチヒロ。
チアキ殿はララの実の残骸がひとつ落ちていたのに気付く。これは、もうずっと昔から芳香剤の原料として育てられていた実だった。何しろ香りがいいので好まれるのだが、誰も食べない。まあ、毒じゃないし、いいのか……。
「桃……。」
「――。」
モモ? チアキ殿に何を言ってるのだ?
「桃の味、香り。間違いない……。美味しかった……。」
しみじみと呟いたチヒロは、ほおっと息をついた。ずっと芳香剤扱いの木の実だったので誰も口にしなかったが、そうか、喰えるのか、これ。抱き上げて城に帰ると、セイラン兄上が待っていた。
「きょうは?」
「ララの実、喰ってた。異界のモモとかいう実と同じ味なんだと」
「――ララの実? オウラン、ララの実には、たしか催淫効果があるはずだぞ」
聞き流そうとして、はっとした。
「催淫・効果?」
「体温が高くなり、呼気が荒くなり、身体のどこもかしこも少しの刺激で淫らに疼くようになる。最近、夫婦間の倦怠期の撃退薬として発売されたんだが……。」困ったように兄上がそういった。
「まあ、処女には効かないって言うから、大丈夫だと思うが。オウラン。どうする?一緒に様子を見に行くか?」
「――行くさ。」
チヒロは、ベッドの上で身体を抱きしめ、敷布に身体を押し付けていた。息が荒い。
困ったような顔で、疼く身体を持て余しているが、何故、如何してこうなったのかさっぱり分からないようで、困惑顔をしていた。
ぐりぐりと身体を敷布に押し付けると、その一瞬だけ体の熱が飛ぶのか、小さく身じろいで息を呑んでいる。けれど、波が過ぎるとまたすぐ、身体が熱を持つ。ふるふると、震える。
「――はあ……ちあきぃ。」
吐く息が熱い。チヒロは自分の肩を抱きしめて慄きが去るのを息を詰めて待っていた。
「――。」無言のチアキ殿……と言うよりどういうことだ?処女には効かないんじゃ……。
「兄上。これって、このままで大丈夫なのか?」
セイラン兄上は注意深くチヒロを見た。眉がよって難しい顔になった。
「オウラン。異界の姫は、ララの実に弱いのかもしれない。こうまで、身悶えているのは、早く解毒せよとの身体の指示だろう。」
「解毒ってどうすんのさ!」俺は、いつにもまして苦い顔になっているだろう。兄上も苦い顔で言った。
「――発散させるしか……ない。」
「で……できるかよ! まだ話せてすらいないんだぞ!!」
「だが。」兄上を遮ったのは、チヒロだった。
「ごめ…んなさい……ちあきぃ。ごめんね。迷惑かけて。大丈夫だよ、がまんする。わたし、だいじょう…ぶ・」涙目で、上気した頬で、赤く色づいた唇で。
「――馬鹿。」チアキ殿は呟く。
恐怖の時間が始まった。
―――――――――――――――おまけ――――――――――――――
チヒロの3分拷問。
てーってててて、てーてててて、てててて、てててて、ってってって。
まず新種の精霊である雪の精霊により凍るギリギリの冷たい水に沈めます。
「うきゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!?」
ココで正気に戻ったビショビショのチヒロに雷の精霊で軽くビリビリ。
「ぎゅにゃぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!?」
水滴を落とすために重力の精霊を使いましょう。ココで体重計に乗せるのがポイントです。
「体重が!! 体重が増えてる!! って言うか体が重いよ!! ドラゴンボールの重力変換装置!?」
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ナンゾコレ?
「ヒドイヨ!! この鬼!!」
「鬼で結構だ。」
これがマグマ様直伝、伝家の宝刀、R15、R18も怖くない、ギャグ落としって奴ですね・・・! 最強!
なるほど、こう逃げればエロスにならずに済んだのか・・・。うん。納得しました!