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第十九話:平衡してると思う時間

第十九話:平衡してると思う時間 2011年 03月 10日 (Thu) 15時 21分 27秒




 ――ハクオウ国のセクハラン・クムヤ・ハクオウは。


 人格者で在られた。己の欲に捕らわれ、民よりチヒロ、国よりチヒロとなった。そのせいで自国の民も他国の民もアイツは変態だと同じ気持ちになった。――セイラン王を有するハクオウ国は、その民は,不幸である。セイラン兄上が、笑みを浮かべつつ提案した。


 「姫を、このままこの国に置いては措けないな。アレクシス殿がカーシャを使って姫を丸め込む前に、どこかへ移動させなくては……。どう思う?オウラン。」

 「――妥当。」チアキ殿がいるけどな……。

 「ふふ、では、姫の教師候補に紛れさせて、術者を。」

 「風と火の精霊封じの得意な奴がいいね。空間を塞げる者も、いたほうがいいと思うな。」

 淡々と、謀を練り上げる。あらゆることを想定し、有効な人材を使って、チヒロを手に入れるために。

 「空間を塞いで、外からの干渉を防ぐのは、俺の力でどうとでもなる。緑の結界を使おう。」

 「――じゃあ、木の精霊によーく頼んでおかなきゃ。姫を国に連れて行くためだから、姫の言うこと聞いちゃだめだよって。姫に泣きつかれたら、如何な木の精霊でも結界崩しちゃわないか?」

 「ああ。そうだな。木の精霊の周りを土の精霊で補強しておけば、なお良いかな……。」――ん? チアキ殿に無理やり潰されたりしないだろうか……?

 「カーシャはどうかわす?」淡々と、策を練る。逃がさないように。零れ落ちないように。

 「――カーシャには、風の精霊封じの呪を。後は、一気に昏倒させてしまえば良い。薬、得意な奴がいる。ああ、それから……。」



 ――セイラン兄上。俺、セイラン兄上は、欲が無いと思っていた。違うんだね。欲を感じる者にも、モノにも、出会っていないだけだったんだ。ああ、だけど、俺だって。欲を感じたのは、初めてなんだよ。ついでに死も感じてるけど……。そうして、木と土が動き出す。


 「大きな、鳥籠がいるね……。」


 毎日の食事の会場はいつも変わる。会場のどこかに罠を仕掛けられないように。姫を案内する通路も日々変わる。隙を突かれて攫われないように。そしていつも、姫のそばには、アレクシスかカーシャがいた。


 ――隙を突くのは楽しい。慌てる姿を見るのはもっと楽しい。薬を、ひとつ。無味無臭、木の国特製。姫を前にして、人格者を演じているアレクシスの肉欲をほんの少し高めてやる。


 ――案の定、カーシャを寝室に連れ込んだ。あっけなくて嫌になる。――いや、本当にあっけなさ過ぎた気がする? カーシャの部屋に、術者特製の呪いを一つ……いや、5つ。

 風の精霊に声が届かなくなるだろう。そうして、薬をまたひとつ。カーシャのクローゼットに仕込んでみた。開けたら最後、三日は寝込む。――隙を突くのは楽しい。騒ぐ姿を嘲るのもさらに楽しい。だが、胸騒ぎしか起きないのはナゼ?


 「さあ、捕らわれのお姫様を助けに行こう。」セイラン兄上がそう言った。

 「捕らわれ」ね。捕らわれてるのは、どっちかなあ……。


 土の壁でできた、とても大きな丸い鳥籠。幾重にも蔦が絡まり、とても持ち上げることなど叶いそうに無いそれ。それがふわりと浮かび上がる。


 「空間制御は万全ですね。」

 「では、参る。」かけ離れた空間と空間を、精霊の力を借りて、繋ぎ合わせた。


 土の国、木の国が有する、それぞれの国の最高の術者が一同に会し、力合わせてようやく成った、移動の術。壁のむこうに眠る彼女の姿を思い浮かべ、風の国を後にした。

 そうして、彼女は籠の中。風の国から、木の国に場を移動しただけの、籠の中。でも、もっとずっと近く。そばにいたい。




 ――頭が痛い……。――おかしい、ざわざわする。頭をひとつ振って、意識をはっきりさせる。苦いものがこみ上げてくる。


 「――くそ、やられた!」


 何か、盛られたことは明白。では、兄は? チヒロはどこへいった? 悪態をついて走り出す。間に合ってくれ! と思いながら。


 偶然にもすれ違ったチアキ殿の肩に私の腕が当たった……。冷たい月の瞳……いや、まるで獣のようだった……。それから意識は消えた。


 気が付いたら体は痛く、ボロボロだった。それでも部屋まで向かった。濃い緑の気に覆われたその部屋の守りは十分だったと言える。だけど、俺は強かった。チヒロを味わってから精霊の加護が増していた。だから、こんな壁、簡単に吹き飛ばせる。そこまでは、冷静だった。


「――や。やだ・やだあ……。」


 この声は、誰だ、と思う間もなかった。一気に膨れ上がった力が、壁をぶち壊していた。しゅうしゅうと、煙が立ち上がる中。チヒロが兄上に組み敷かれていた。ナゼか蹴られた後がある。両手、両足を蔦で戒められたその姿は、淫靡だった。ごくりと喉がなる。

 それを見透かした、兄上は、チヒロを嬲る手を休めずに、挑発してきた。――一緒に味わおう、と。正直くらりときた。昼に夜に、思い描いた通りの見事な身体。

 淡い真珠色の肌は、どこまでも清楚なのに、大きさを主張する胸は豊かで、甘そうだった。見事な曲線を描く女性的な腰は兄上の大きな掌なら一掴みにできそうなほど細い。頭の先から、つま先までおよそ、人かと疑いたくなるほどの完璧な造作。視神経が焼き切れそうな気分だった。

 なのに、この馬鹿は!恥ずかしいのか、一生懸命身を捩って逃れようとした。その拍子に、胸がぷるんとゆれる。真珠色に両の朱色。見る見る自分の顔に血が上っていくのがわかった。


 だが、そんな遊びは終わった。ゾクッとする恐怖が兄上と俺を襲ったのだ。チアキ・オジツ……。彼は怒っていた訳では無い、だが……アレは騎士が己の魂をかけて守ると……そう誓った目だった……。

 チヒロは彼に抱きついた。俺は本気で負けを心から悟ったが、まだ諦める気は無い。しかし、ク、起きてないのに俺のモノよりデカイだと!?


 チヒロはチアキにあれほどまで懐いてるのは分かったが、チヒロが精霊でセイランに攻撃をしたのだが効かない……それは当たり前だった。


 ダガナゼ彼ハナニモナシデ?


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