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第十八話:並行するというかしてる時間

第十八話:並行するというかしてる時間 2011年 02月 28日 (Mon) 21時 10分 48秒



 ――娘は椅子に小さくなって座り、寄る辺無い小鳥のようだった。史上初の、完全なる太陽と月の巫女。いや、それだけでは無い……更に全く同じ様に完全なる太陽と月の禰宜ネギ

 彼女と彼を取り巻いている、濃い精霊の気配がそれを示していた。短いやり取りの中、「チヒロ」という名を何度も口にした。そう呼んで欲しいのか、と思い至り、呼んで欲しいのか? と確かめると、娘……チヒロは満面の笑みで頷いた。青年の方は近寄りがたく、ただ一つの声も出さない。

 なるほど、姫と呼ばれるのは肩身が狭いらしい。余程、姫君らしい容姿なのに、名前にこだわった。ふと、いたずら心が湧いてくる。そうだ、名前で呼んであげよう。チヒロ、君の望むままに。

 でも、少しだけ、いたずらをしよう。俺を焼き付けてくれるように。他の星の輝きに霞んでしまわぬように。――まあ、想像以上の反応があったけど、ね。この痛みだって我慢できる。

 膝枕。ふふ、いいね。このやわらかさ。この香り。怪我の功名だ。しかも、皆の苦い顔が愉快でならない。


 チヒロは、いろんな意味で新鮮だった。チアキに対しては新鮮な恐怖だった。

 まず、いやなことはいやだとはっきり言った。チアキが嫌な事は、自分も含めて周りの人達の命を刈り取られるかと思った。

 それから、できることは何でも自分でやりたがった。チアキは逆に周りの人を信用していない孤独の男だと気付いた。

 普通の娘なら、傅かれれば、有頂天になるだろうに。尊大にならず、質素だった。そして、何でも知ろうとしていた。そしてチアキはまるで……全てが灰色な感じだった……枯れていると言って良いだろう、既に万物を知っていても知ろうとするのはチヒロと変わらない。

 普通の娘なら花に近寄る虫の類はきらいだろうに、それすらかまわない。それどころか、ある日、妙なことを言い出した。「はちみつです。はちみつ!食べたこと無いんですか?」なぜ虫ごときが集めたものを口にせねばならん、と言ったら、泣きそうな顔になり……それから、怒った。

 この俺に。なんなんだこの妙な生き物は。目が離せなくなるじゃないか。目を放した隙にあれとか、これとかに攫われそうなのもいけない。

 そうこうしているうちに、カーシャを巻き込んで変な格好で庭に出てきた。――なんだ、あれ。今までの人生の中で一番奇妙な格好だ。どういう発想なんだ……?


 で、虫の巣の前に来たらチアキが指を鳴らした瞬間、火の精霊に似た見たことも無い精霊が虫を全て爆発させていた。

 その光景を見たチヒロは手と膝を着いてガーンとかなってやがる……。――こいつは、一人にしてはいけない生き物だった。

 その後、チアキが殺人蟻の巣を手にし、彼女に渡した。危ないと思い気や全て死滅しているようで、更に彼女はニコニコと受け取っていた。太陽と月の巫女……ありえない。

 しかも。ホクホクとしたすばらしい笑顔で調理場に持っていったぞ! 料理人の顔が引きつっているのを、俺は見た! 喰うのか! っていうか、あれ喰えるのか?

 笑うしかない。これはもう、笑うしかないだろう。願わくば、この妙な行動で、ライバルが減ってくれることなんだが……周りを見渡し、それは無いな、と思い知った。


 少しチアキから聞いた話だが


 「虫如きだからと侮るな戯け、人間が存在していた初期は誰もが虫を口にしていた。それと俺とチヒロの世界では食品に色を付け、見栄えを良くする物で主に赤は虫が使われている。

 いや、貴様らでは無理だろうな、いくら食べ物としては旨味成分が存在する物が様々な物に存在しても虫だから嫌だと言う考えを持っているようでは。」


 その後も話を聞いていくと彼にとって我々は哀れな人間のようだ……そして気付いた、我々王のせいでもしやこの国は偏重的になっている事があるのでは?


 おっと、話がずれた。その日から二日の後、日々変わる朝食会場でそれは、行われた。なんだか、そわそわしているな、とは思ったんだ。朝からの話の端々で悟る。

 「あれ」が食卓に上るのか……。さすがに殺人蟻のフライとかは見たくないな、(だがそれはそれで美味しい物かもしれん。)と現実逃避しかけていると、運ばれてきた皿に、目の色変えてやがる。


 ※蜂をフライにした料理は実際に存在するのでコイツの様に嫌悪感を抱くのは駄目ですよ? この二次小説を書いている僕、マグマ・フレイムは虫料理、主にイナゴや蜂の子などを父の実家で食べているので。※


 ――く…くそう。かわいいじゃないか……。周りの王達もそう思っているのが分かったのが、なんだか嫌だった。こいつの奇妙な行動に引く奴はいないのか。

 さて、皿の上には、丸い茶色の物体。ガラスの器に金色の液体が入っている。チヒロはナイフとフォークを手に、それはもう、きらっきらした笑顔で一口。


 「んんん、おいしいいいいいいいっ」


 本当に、美味そうに食べるよなあ……。そう、その笑顔にやられていた。だから、止められなかった。あいつ、チヒロの奴、よりによってセイラン兄上に。

 自分の口に入れたフォークでセイラン兄上の口の中に、ホットケーキとやらを放り込んでいた。

 ――そう、チヒロは、想像以上に美味だった。俺が、自分の理性を誇りに思ったほどに。だけど、軽いキスひとつ(実際はガラスにキスしたのに気付いて無いバカ。)では収まるはずも無くて、大怪我覚悟で二度唇をうばった。(実は気絶させられていたので寝落ち。)ご先祖様、感謝します。自戒の念を込めて育ててくれて。


 ※寝てまでそんな夢を見るオウランをあの世のご先祖たちは皆、インランだと言っているのは間違いでは無い。※


 歴代の黒い太陽の巫女が、どのような味だったのかは、伝承にかすかに残されていた。土の国のその時代の王は、黒い太陽の巫女に溺れ、彼女を貪り尽くし、骨まで喰らい自害して果てたそうだ。

 彼女とひとつになって王は満足しただろうが、そのあとが大変だった。黒い太陽の巫女を腹に収め自害したことが他国に知れたのだ。

 それから、土の国は斜陽の一途をたどる。他国から搾取され、産業は衰えた。盛り返すのに数百年もかかってしまった。先代の王からの遺言はいつも……。


 「汝、如何なる時も冷静であれ、国は王なり、王は国なり。民は、王の下に集う。汝、溺れる無かれ……か。」


 ああ、よくわかった。これは、もはや、麻薬。なのに、無自覚のチヒロは、自分の蜜を含ませてしまったんだ。セイラン兄上は、チヒロの蜜に我を忘れたりはしなかったが、兄上の胸に灯火を与えてしまった。


 ――ん? はて、蜜……蜂蜜と言う物の話をチアキがしていたような……。それに巫女を喰らった話……あれの話の他に漆黒の男が居た気が……ん?

 巫女を喰らう何て話があったか? 漆黒の男が世界を何度も救った話がよくあった……ん? ん? ん? 俺の記憶がおかしくなっている?


 ――マテ、ソレヨリモ……チヒロはチアキの方にいつもいる……く、セイランと私が近くにいるとチアキにべったり……もしや俺は墓穴を掘ったのか


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