やらなくちゃいけないこと、誰の為に?
お久しぶりです。
帝国のお城に着いたら本当に私は黙って下を向いて歩いているだけで客室に案内されてしまった。
部屋では誰に聞かれているかも分からないから、フィノルと筆談する。
『アカシェさま、城内の把握をお願い致します。』
『了解。フィノルも気をつけてね?』
部屋を出てふと思いついた。一度思いつくと、私が感じていた疑問とか、違和感も考えざるを得ない。
私に城内を把握させて、殿下は一体どうするんだろうか。
たぶん、後々地図とかにさせて有効活用か、直接私にどこか案内をさせるとか、悪巧みには違いない。
殿下は一国の王になる者だから、国の危機を回避、とか利用出来るものを利用するのは正しい判断だと思う。
でも何となく私は、殿下に大切にされている姉が居て、その姉の妹だから不当に扱われることはないのだろうと無条件で思い込んでしまっていたのだ。
姉が愛しているのは殿下で、でも一番大切なのは私だという事を私は知っている。
多分殿下も理解している。姉本人は気づいていないだろうと思う。
だから、そのまま殿下が愛している姉が大切にしている妹を、殿下が不当に扱うことはないだろう、と。
自惚れていた? 自身は安全で大丈夫だと?
(・・・甘かったなー。)
自分が姉にとって(本人はおもっていなくとも)邪魔な存在だというとこにショックを受ける。
私は、あのまま姉を盾に城に居続けて、その後どうするつもりだったんだろう。
姉が望んだことでわたしはノウェル城に滞在していたけど、本当は姉が泣こうが怒ろうが発狂しようが、城下のもとの家に一人で戻るべきだったのではないか。例え、城の中の方が安全だとしても。
それが自分の為にも、姉の為にも、殿下の為・・・国の為にもなっただろう。
私も今回まさかの敵国(一応)に入って、仕事を押し付けられた事に違和感は感じていた。
私に城内把握の仕事を押し付けた理由は納得の人選だったけど、違う側面から見れば全然納得は出来ない。
殿下はリスクを犯している。
そして、殿下のリスクは即ち国のリスクだ。
殿下がそのリスクに気づいていない可能性は極めて低いから、恐らく承知でやっている。
私という人選そのものがリスクだ。姉という存在とノウェルが故郷である事からして、裏切りの面でのリスクは皆無だけれども、もし私が危険に遭った場合。
姉は間違いなく殿下を責めるだろう。
最悪の結果、つまりは万が一私が死にでもしたら、姉がその後殿下と共に生きる事はまずないだろう。
加えて復讐もするだろう。一人で国に歯向かいもするかもしれない。
敵国の城で画策だなんて、かなりの危険だ。
私も作戦に参加することを、姉は殿下を信用して承知したのだ(本人の意思は無かったけれども)。その信用の裏切りを、姉は許さないだろう。
怒って復讐する。そしてこれでもかという程自分も責める。殿下と自分をとことん憎んで憎んで憎んで、
・・・心で泣くと思う。
殿下への愛と私の大切さで板ばさみになったら、姉がどうなるかなんて想像したくもない。
殿下は間違いなく姉を愛している。国からの立場で私を指名して、その結果姉と仲たがいしたら、どの位かは分からないけれども、多少なりとも揺れると思う。不安定に。
トップの揺れは全体の揺れだから、国の危機になる可能性もある。
・・・そこまで推測して考えて、血の気が引いて、ふと昔の事を思い出した。
『どうしてアカシェちゃんは、そんなに、自分がお姉ちゃんに大切にされているって分かるの?』
近所に住んでいた子達で、隠れおにをしていた時だったか。当時仲の良かった子に質問されたことがある。
遊びには姉も参加していて、私はその子と草陰に隠れていたのだ。
見つかったらどうしよう、ねえ、一緒に走って逃げようね、アカシェちゃん。
小声で話しかけられる度に私は何も心配していない状態で、うん、大丈夫だよ、と答えた。余りに私が平然としているので、その子は怪訝な表情になって聞いてきた。
『見つかるの怖くないの、アカシェちゃん?』
確か笑顔でぜんぜん? と答えた。どうして、と再び聞いてくるのでやはり私は同じ笑顔で当たり前のように言ったのだ。
『だって、私は見つかったら確かに走るけど、でも、捕まりそうになったら、お姉ちゃんが助けてくれるもん。私がお姉ちゃんを大好きなように、お姉ちゃんも同じくらい私のこと大切にしてくれるから。』
するとその子は最初のように尋ねたのだ。『どうして分かるの?』
私にとって、姉が私を一番大切にしてくれていることは昔からの不変の事実で、周知だった。
大きくなっても、そこだけは何も疑わないくらいに姉が私を大切にしてくれたから。私がそれを理解していたから。
その分、私は姉に大切にされなくなる事が一番怖いのだけれど。
でも、言葉を返せるように、人は気持ちも返せる生き物だから、大切にされるだけではなく私も同じように姉が大切だ。
だから、推測したような結末には絶対になってはいけない。なりたくない。
つまり、私は絶対に無事でいなければいけない。自惚れでなく、自分の為でもなく、誰よりも姉の為に。
だから私は、城内を把握し、そして自分の身を守る。
(・・よし。やらなきゃいけない事が分かったから、動きやすい。案内図とかないかな。あったら楽だけど、あるはずないよね・・・。怪しまれないように、少しずつ確実に城内を歩いて見回ろう。)
頭の中でこの便利な能力を使いながら地図を作っていく。
(・・・よしっ! いけるいける! なんか能力を使ったら、思い出す【記憶】も多いけど、楽勝じゃないの! ふはははは! さすが私、さあ、かかってこい、敵!)
とか調子に乗ってたら。
「おいそこの者! 何をしている! 早く出て行け!」
気づいたら知らない所に居た。え、やばい? もしかしてここ来ちゃいけなかった!?
「ももも申し訳ありません!」、慌てて顔を伏せて謝ると、相手は私の言葉を聞いてなかったように流して続きを叫んだ。
「ここは男子便所だ!」
うそーん。
地図に入れておきます。