お腹周りは最も注意すべきだ。
帝国でパーティが開かれる事になったそうだ。
各国には招待状が届き、余程の事が無い限りほぼ全ての国が参加の意を表す。
最近同盟を結んだノウェル国とサハルエ国も例外ではなく、ノウェル国からは次期国王とその妻が、サハルエ国からは現国王が代表として赴く。
「という事ですが、そもそも今回のパティーンの意味をご存知ですかアカシェ様? 帝国の慣わしとして毎回国王が――――――。」
えーと。
「パティーンって何? パーティーではなく?」
私の小声の指摘を丁寧に耳で拾い上げたふわふわの天使は一瞬で顔を赤くした。やかんが沸騰したようだ。
その反応で察して生暖かい目線を送りながら「カタカナ弱いんだね?」わざと再度指摘すると、「知ってます!」と涙声で返ってきた。ああ可愛い。鼻から血が!
状況説明? ああ、状況説明ですね了解パティーン。
現在、ノウェル国に居た時の私の天使、フィノルと、
馬車です。
「ちょっっと待ってー!? なんで私も帝国に行かなきゃいけないの!? 行くのは代表してお姉ちゃん達が・・・・っぐわ!? ちょ、きついきついきつい。コルセットどうしてそんなに閉めるの!? 肉が挟まる! 視界的に悲しい!」
半日程前―――――――――。
私は自室(というかサハルエ滞在中に借りてる客用の部屋。広いよ。)にて皆おなじ服を着た侍女さん達に両腕を捕らわれ、強制的に着替えさせられていた。ドレス二度目。お腹か周りが一度目よりもきついのはどうしてだろうね。
よく思い出せば侍女さんみんな可愛かったな仕事出来るんだろうな給料高いんだろうなさすがお城の侍女! 超エリート!
・・・なんていう庶民の憧れ思考はしてないよ。本当だよ。
着替え中の為男子禁制なので部屋に居たお姉ちゃんだけが私の問いに答える唯一の相手である。
「言ったじゃない~。私たちは『代表』よって。他にも行くわよ~折角のパーティだもの。」
「だからって何故私まで! 部外者!」
「あら? 忘れちゃったのシェイちゃん。その名もSKSを!」
S=戦争
K=回避
S=作戦
・・・安直!
心で顔を覆った私を知るはずもない姉は、ぶちゃっけ血の気多い。むしろたっぷり。喧嘩ごと大好き。だから余計笑顔が晴れやかでした。
ああ、こっそり敵を倒す為に動くとかもううきうきなんだろうね。
尻尾あったらぶんぶん振ってるだろうね。
遠い目になりはじめる妹に気付かない姉は、私の耳元のみでぼそりと呟いた。
「・・・大丈夫よ、シェイちゃんはパーティの会場にはいかないから。」
「え? ほんと?」
「ええ。各国要人の挨拶とかは私とラヴェンツ(とハゲルエ王)とで引き受けるわ。その間に顔の知られていないシェイちゃん達は、裏で動いて欲しいの。」
「え・・・、うん。・・・『達』?」
「ノウェルに居た時の侍女のフィノル覚えてるかしら? 彼女、武術にも長けてるしその他色々の要因でシェイちゃんと一緒に行動して貰いたいって、ラヴェンツが・・・。嫌?」
「(私の)フィノル!!? いいえ喜んで!」
この時頭には微塵もザッキンの事などありはしない。
より締め付けられたコルセットに肉が悲鳴をあげながら、ふと思った。
姉は私よりも重度のシスコンで、私を敵地に向かわせ参戦させるような危険な真似をさせるのか?
心の隅で疑問に思い、いつか寂しく「姉はいつか殿下を優先に思うのだろう」と危惧した事が実現したのかと不安になった途端、
「うふふふふっ! 婚約パーティの時には(誘拐されて)見れなかったシェイちゃんのドレスす・が・た! やっと見れたわー! ナイスなことするじゃない、帝国も! いい機会!」
・・・答えは案外俗っぽい理由だった。
少し安心したのは秘密である。
私も姉離れしなければなぁ。
「・・・え、待って待って。それで私はどうして今ドレス着てるの? お姉ちゃん達とかも皆は普通明日に出発するって言って・・・た・・・?」
さっと血の気が引いて、
「・・・まさか・・・。」
「うふっ?」
姉のちょっと気持ち悪い笑い方を目に最後に、私は到頭エリート侍女さん(お城付きだから)に最後の一手を攻められ、お腹の苦しさで意識が飛んで・・・、
で。
「目覚めたら馬車っていうね・・・。お陰で背中とお尻が痛いわ・・・。」
「その内慣れますよ、アカシェ様。」
笑ったフィノルに癒される。ああもう可愛い。
「――――――――それで。」
声が潜められ、少し尖っていた。これが、たぶん、武人のフィノル。
「ドレスの質でお分かりかと思いますが、今私が身に着けてるドレスは質・見た目共にアカシェ様より上の者であると強調するように作られたものです。」
「と、いう事は・・・?」
「アカシェ様はリアテーナ様の唯一のご身内。王族の血はなくとも、王族でございます。」
え、そうなの?(今頃)
「何かあった時にもアカシェ様はあくまでただの侍女であり、無関係であり無害であるとし、危険回避の為、今回帝国内では一時とはいえ失礼ながら私がアカシェ様の上の者として振舞わせて頂きます。」
「分かった。私、作法とか侍女の振る舞いとか分からないんだけど・・・。」
「大丈夫です。公の場へは行きません。もしも誰かに遭遇した時は、声を発さず、余り相手の顔を見ず、私の数歩ほど後ろで立っていて頂ければそれだけでご十分です。相手は騙せます。」
「パティーン。」
「・・ぅ・・・、えっと、アカシェ様は今回の作戦の裏内容をご存知ですよね?」
「うん、ご存知ではありません。」
「・・今回裏では皇帝が私を慕うように仕向けます。つまりは囮役です。私が皇帝と接触している間、アカシェ様は迷った振りをして城内を完全に把握して頂きたい。そして、出来れば帝国の皇帝補佐(宰相)にこの文書をお渡し下さい。相手に接触せずに渡す方法が望ましいです。」
「・・・うん。分かった。」
「申し訳ありません。宜しくお願い致します。」
囮役って事にも少し疑問を覚えたけれども。
何で、私がこんな重要な裏方任務を任せられたか分かった。
お姉ちゃんは次期王妃。
ヘイカは(仮にも)国王。
殿下は、本当に使える者は全て使うらしい。恐らく姉は私が囮役であることを知らない。
確かに、目立たず動くには私が的確である。
『迷った振りをして城内を把握――――――』
一町ほどある様な城を、地図なしの上短時間短期間で覚えられる者はそう居ない。
完璧ではない突然変異だが、私はラウディである。
その程度の記憶の保管が出来ないはずが無かった。
任されたんなら、完璧にやってやろうじゃないの。
「ね、ねえ、フィノル。」
「はい?」
「ところで帝国はまだ?」
「まだ数時間以上は掛かるかと・・・。どうされました?」
「コルセット緩めちゃだめ?」
「・・・。」
か、完璧にやってやろうじゃないのパティーン!
腹洗って待っててね帝国!☆
パーティに出たら沢山美味しいものが食べられ飲めることにアカシェは気付いていない。
言わないでおいてあげよう・・。