裏戦争始まりの瞬間。
爆弾を抱えていることを暴露したヘイカは、姉と殿下に連行されていった。
なんか、色々と話し合う事があるらしい。生きて帰ってくるかなと私はその背中をぼんやりと見つめた。
「アカシェ。」
「ん? なに、ネア。」
背中が消えていった方向をぼんやりと見つめたままネアは言った。
「陛下と、異国の茶髪の少女がいちゃついているという侍女達の話を聞いてやってきたんだが・・・、どういうことか説明してくれるか?」
こちらを見ずとも背後に黒い何かが見えるっ。幻覚!? いやっ、そんなことはない。
言わずにおこうとさっき決めたばかりだったのに、まさかのここで質問である。
この人も、爆弾、持ってた。私宛の。
しかしながらやましい事など何一つないのだから胸を張れ、私!
「いちゃついてないよ! 私は廊下歩いてただけだよ! そこにヘイカが嫌がらせしてきたんだよ!」
「嫌がらせ・・、では、嫌がらせであるなら何故「いちゃついている」という事になるんだ?」
「わわ私は悪くないよ、多分! 改めてお姉ちゃんの好きな人聞く為にヘイカが勝手に壁に押し付けてきただけ!」
あの人変態だからね! あの体勢に入る意味が全く理解出来なかったけど変態だから仕方ないのだろう!
「して?」
「ええっと、」
いいよもう言っちゃえ。
「かかか顔が近すぎて気持ち悪くて吐きました!」
しんとなった。そりゃそうか?
下を向いたら、頭に体温。
「そうか、大丈夫だったか? 陛下は変態だからな。吐いたの、苦しかったろ。」
最後の言葉に恥ずかしくなってかっと頬を染めたが、安心して首を縦に振った。
「もうね、生理的に無理すぎてどうしようかと思った! 後ろは壁だし、前はヘイカの顔だし、しかも質問の度により一層近くなるんだよ! 最後はもうこんなんだった!」
安心したせいか調子に乗ってぺらぺらと状況を説明する私の口は止まらず、距離を表す為顔の前に手をかざした。
「・・・そんなに、近かったのか?」
「うん。横は何か手もあるし逃げられないしね!」
「それで?」
「今考えれば漫画だと口説く体勢なのに、残念だよね!」
相手と状況が。
調子に乗りすぎて笑顔でそう締めくくった私は、周りの温度が心なしか下がっているように思えたのにも気付かなかった。
はたと無言になったネアを見上げればそれはそれは不機嫌でして、彼の周りは吹雪のようでございました。
おわり。
・・・であるはずもなく。
「・・・ひっ・・!?」
「どうした?」
「何!? 何で撫でるの!?」
首筋を。
手はゆっくりと上に上がり、顎から頬、鼻筋に額、瞼までくまなく撫でられた。
「何でだろうな?」
再び下がった手は、下ろしてあった髪の毛をふわりと持ち上げた。
首、寒いですが。
気付いたら視界は夕日色の配色をした髪の毛で一杯で。
感覚で、首筋に唇が触れた事が分かってびくりとした。
「痛っ、」
ちくりとしたよ今! 何をした?
なに、と瞳で訴えれば彼は唇のはしを僅かに上げて―――――――
――――――――「消毒だ。」
・・ああ成る程ね!
ラウディの女を寄越せと要求してきた帝国。
話に聞くところによると、巨大で強力な国である帝国の王は先代の賢王によって更にその威力を強めたが、突然の病に倒れ亡くなったその王の後を継いだのは王としては十分な政治的手腕の持ち主であるが、個人的に人として――――特に女関係では―――大変評判の悪い人物なんだそうだ。
「別に良いんじゃない? 王さまとしてやる事やってんなら。」
そう言った私の意見に、殿下と婚約してからは政治方面も猛勉強したらしい姉は、でもねえ、と口を開いた。
「確かに今まではそうだったんだけど、その悪い部分が政治にも顔を出してきたのよー。」
「そうなんだ。その証拠に、サハルエにも全く関係ないことを要求きたらしいしね。今まで、帝国とサハルエは殆ど交流が無かったはずだよ。」
そう言ったのは、殿下。
私は何故か今話し合いの席に参加・・・(させられ)中である。
ヘイカによるとどうやら、皇帝は古い古い文献で絶世の美貌を持つラウディ一族の存在と、それがサハルエ国にあるということ知った途端、興味を持ったらしく殆ど脅し文句で文書を寄越してきたらしい。
大臣達との会議で話し合っても断るに断れず、しかもラウディなど今はほぼ滅びたようなものなので要求を呑む訳にもいかず。(一瞬だけヘイカが女装していけば、という空気にもなったそうだ。一応ラウディだから。そんな無茶な。)
金髪の美しい娘を国から捜すが、文献でも詳しくラウディの情報を知っている皇帝が、身代わりの髪色しか一致しない娘であることなど直ぐに見破るだろう、と。
困り果てた状態に届いた情報が、ノウェル国次期国王の婚約話。・・・と、その相手の事。
「だから頼む! 貴殿の婚約者を、どうか帝こ・・・」
「許す訳ないだろ。」
一蹴。
サハルエ国に同情はするものの、そこまでお人好しではない私は自分たちで乗り切ってこちらまで巻き込むなよとか思ってしまう。
「うーん、だけど、そうだね。同盟しちゃったしなあ・・・しなきゃよかった・・・。」
殿下、本音漏れてます。
「・・・もし戦争になったりしたら同盟国であるうちが援助しなきゃいけなくなるしね。
仕方ない、協力の方向で父に相談してみるよ。」
「! ほ、ほんとか!」
部屋の後ろの方で座っていた大臣たちにもざわめきが。
「だから・・・、練ようか。
対帝国戦争回避作戦。」
おおお! と盛り上がる室内で私は「ネーミングセンス無ぇ・・・」と心で呟き、
あくまで一歩引いた立場として眺めていた私は、思いもしなかったのである。
まさか、この作戦の要員に私も含まれるなどと!
完全に、巻き込まれ被害者だっ!
ネアもアカシェもヘイカに対する扱いが
さらっと酷い。
でも私は弄りやすくて好きだよ、ヘイカ。頑張れ。