世の中知らない事の方が多い。 前編
「【始まりは、一人の末王子だった。】」
老女は自身の記憶を辿りながら言った。何人も何人もと時代を超えて共有されていただろう記憶を。
「【私は、やはりこの『突然変異』のせいか、そんなに記憶を所有出来ないんです。持っているのは、自分の祖父母の時までで。恐らく私の姉は全て持っているでしょうけど・・・。】」
「【ああ、そうだろうそうだろう。お前さんのその『髪』もお前さんが『二人目の子』である事も、全て例外と言って良いだろうからね。】」
私の言葉に笑いながら老女は頷いた。
しかし私はその異例さが良く理解出来る。
何せラウディの家の者に生まれるのは必ず「一人だけ」で、
必ず「金髪に蒼の目」で在った筈だから。
そう、記憶している。
老女は言葉を続けた。
「【末王子は三代目サハルエ王と美しい愛妾との妾腹で、大した権力も地位も持たずにひっそりと暮らし、生涯を終えるはずだった。
しかしそれは叶わなかった、その暮らしを壊してしまう程に末王子は美しかったから。人の目を引き付ける穢れの無い金に、海のような蒼の瞳を持っていたから。その母も同じ色であったけれど同じ色でも圧倒的に違っていた、その色の「存在感」が。人を引き付ける存在であった。
人々が余りに末王子ばかりを持て囃すので、王位第一継承権を持っていた長男は面白くなかった。
不快で、不愉快で、日々増す感情を到頭制御出来なくなってしまった。
彼は一時だけ狂った。
自らの異母兄弟に暗殺者を向けたのだ。
闇夜に紛れて忍び込んできた輩に気付いた途端、末王子は長男の仕業だと、自らの義兄の仕業だと悟った。
末王子は周りの人々も自身の中途半端な権力も立場も煩わしく思っていたから暗殺者の攻撃を態と軽傷である様に受けて城から去り、二度と戻って来なかった。】」
それがラウディの始祖である彼の話だった。
続くはずの残りの始祖の生涯を老女は躊躇い話さないのでじれったくて続きを促した。
「【それで、続きは?】」
「【いや、話すことは出来る。出来るのだが・・・、始祖を軽蔑せんかと心配で・・・。】」
「【軽蔑?】」
「【・・・言ってしまおう。どうせ話さなければならぬ事で、これを話さなければラウディの血が何故早々と始祖の代で絶えなかったか、謎のままになるからな。】」
「【はあ・・・。】」
「【片親でもラウディであれば、その夫婦の間に生まれるのは必ず一人だけであり、どの民族と契りを結んでも片親だけでもラウディであればその子は必ず金髪に蒼の瞳である事は知っているな?】」
「【はい、それは知っています。】」
「【うむ。まあ結果から言えばサハルエ王の血を受け継いだせいか、始祖は大変な遊び人であったのだ。】」
・・・・・・。
「【あ、遊び人・・・?】」
「【恋人というか、事実的な妻が追放された身であるというのに50人前後居ってな・・・。】」
「【・・・。】」
それは遊び人という言葉だけで済まされるレベルなのか。
「【まあ当然と言えば当然でな、子供、つまり子孫も50人前後でラウディは同じ血の者同士自然と集まりたがる民族であったから、その子供や孫たちはゆっくりと集まり結束し民族となった。】」
全員、同じ髪色と瞳を持った。
「【美しい民族であったから、馬鹿な者共に捕まえられ虐げられる事も多くてな。やがては遊牧民のような者たちになった。国中を転々とするな。】」
しかし、より特殊だったのは後にラウディ・・・『家族』と名乗るようになった私たちは、圧倒的な記憶力を持っていた。
私とは違う意味での「突然変異」であった始祖は人の記憶を受け取り、引き継ぐ能力があったから。
「【なんだい、知っているのかい。】」
「【はい、この能力が彼の子供の代からは自らの民族の記憶のみと限定されるようになった事は。】」
「【そうか、そうか。まあお前さんはそういった基本は知っているのだろう。】」
「【その能力は徐々に強まっていき、同じ血を持つ者同士顔を合わすだけで相手の持つ記憶の全てを共有出来るようになったんですよね?】」
「【そうだ。お前さんにその能力は無いのだろう?】」
「【無いですね。朧ろげながら本当に祖父母の記憶までなんです。同じラウディと会ったのが自分の家族以外で貴女が初めてなのでよく分かりませんが。】」
「【なるほど。しかしこうして長く話していればゆっくりと相手の言いたいことが映像で流れて行き察する事は出来るようだな。まあ、突然全てを所有してしまうより理解しやすくて便利かもしれん。】」
納得したように頷くと同時に彼女の姉と同じ色をした金髪が僅かに揺れる。
「【続きを】」
再び老女の言葉がこの静かな「いえ」に響く。
遊牧民として転々としながら生きてきたラウディだが、その能力と出生が26代目のサハルエ王に知られてしまった。
始祖の子供の内の一人が、密かに能力を利用して細々とその血を城で永らえていたのだ。
同じ血を持った者による密告であった。
城にラウディは捕らえられた、民族の52人全て。王がその能力と容姿を上手く使おうとしたから。
迂闊だったのは、能力を知りながらラウディの裏切り者と捕らえた者達を会わせてしまった事。
顔合わせをした途端、互いの持つ記憶を全て彼等全員は共有した。
自身たちの成り立ちと、沢山の生涯と、家族と、今に至るまでを。
自身の成り立ちと、孤独な家族の生涯と、城での豊かな暮らしと、サハルエ王族と城と国の秘密の全てを。
それをきっかけに「裏切り者」は民族の一人へと加えられる様になったのだが、
同時にラウディの民族が自由を無くした瞬間でもあった。
王は言った。
「他国にお前たちを利用される訳にはいかない。
捕らえよ!
そして、城の奥へと閉じ込め二度と出すな!」
王の王としての過ちを言えば、
「ラウディを殺す」という最も危険が無くなる対応を世間体などを気にしてしなかった事と
自らの欲に負けて民族の中で最も美しい18の娘を王が変わる毎に生贄として差し出す様、
約束をした事だった。
ううむ。
私の文章力不足で、分りづらい・・かも・・。
難しいですかね。
何か確か江戸時代の●●将軍もお子さんが50人前後? 数え切れない程居たんじゃありませんっけ。
まあいっか。
前編です。
ラウディの成り立ち~