事は知らずにして動く。きっかけは些細。
「美しい」のである。美しい者はどんな表情をしても様になる。だから、人々は――兵士さえも――見惚れるしかなかった。サラサラと靡く金髪に。私と同じ色をした、力強い大きな瞳に。白く全ての手本の様である肢体に。言葉を無くして見惚れるしか無かった。
全てが彼女の背景であり、全てが彼女の為にある小道具の様なのだ――――ごめん、白状すると、殿下も。―――だから、この場が静まり返るのも納得出来る。彼女の一人一人を見渡す視線に息を呑む故緊迫した空気になるのも納得出来る。ネアにしがみ付いた私に彼女の視線が唯一留まったが故その私に人々が注目するのも納得出来る。・・・姉を前にして平然としているネアには納得出来ないけれど。
だけど。
この場の誰一人として分からないであろう。
蒼い瞳が燃えるようにある時――――それは、三途の川を見るときであると。・・・私が。
「シェ・イ・ちゃん?」
滑らかな発音で耳障りの最高に良い声で言葉が発せられ、私は反射で反応するしかなかった。
「すみませんでしたぁぁぁぁぁああああああああああああっっ!!!!!!!!」
それは、此処最近で一番の大声であったと自慢出来る声量だった。
「ふむ。噂通りだな。これなら納得出来る。リアテーナ妃。お初にお目に掛かる、私はアル・イート・サハルエ。サハルエ国現国王だ。宜しく。・・ところでリアテーナ妃とアカシェ殿は似ておらんな。」
「黙れハゲカス。誰もてめえの名前なんざ聞きたくないんだよ。ウチの子誘拐しといて暢気に自己紹介してんじゃねえぞ。」
「・・・ふむ。やはり姉妹のようだな。大変似ている。ラヴェンツ殿、2年振りだが、貴殿の国は大丈夫だろうか? 花嫁選びに失敗したのではないか? なんなら私が引きと・・」
「黙ってて頂けますかハゲカス。俺、ハゲに名前で呼んで良いと言った覚えが無いんだけど、どうしようリーテ。」
「そうね。やはりもう二度と喋れないように首の骨でも折ったらどうかしら。」
「・・・。・・ふむ。訂正しよう。実に貴殿に合う花嫁を見つけたようだな。」
「何か言ってるっぽいわよラヴェンツ。生意気だから頭皮ごと引きちぎってやろうかしら。」
「でも素手だと汚いからリーテ、俺手袋を借りてきてあげようか?」
「優しいのねラヴェンツ。でもラヴェンツに廊下を歩かせるほどの価値のある頭皮じゃないわ、それなら大丈夫よ。」
「何を言ってるんだよ、優しいのはリーテだろう。」
「・・・う、ゴホンッ。あー、失礼する。ところで聞きたいのだが、我が国自慢の城門、あれはどうやって倒した? 何も道具や武器を持っていない様だったが。」
「うふふ! 愚か者が居るわよラヴェンツ! 説明したらショック受けるかしら?」
「国の王として受けないことは有り得ないんじゃないかな。」
「そうね。じゃあ説明してあげましょ。ハゲルエ王、知ってる? 何処の国の城にもカラクリはあるけれど、ここの国の場合城門だけではなく城壁まで全てが簡単に倒れてしまうスイッチがあるのよ?」
「・・・・・・・・、は?」
「今回はその内の正門が倒れるスイッチ・・紐を引っ張っただけで、実際私たちの労力はゼロね。あー、簡単だったわあ。」
「な、何だそれは! そんなもの知らんぞ! 何故私が知らずに居て、お前たちが知っている!」
「うっせえな。説明してやるっつってんだろ黙って聞いとけよ。・・・それはね? 余りにも楽で危険な仕掛けなんで、ハゲルエの5代目の国王以降は知らされなかったのよー。つまり100年以上前にその事を知る者は誰も居ない様になるはずだったんだけれど・・・残念。
私が知ってたわね?」
「・・っ、何故! 何故だ! 何故部外者のお前が・・・!」
「それは、貴方が一番知っているんじゃないかしら? ハゲルエ王。シェイちゃんを攫った理由と、何も変わらないでしょう? ・・・あの一言で説明がつく。」
「・・・!」
(・・・・・・・。)
という会話を、さっきから私の真横で繰り広げている三人。あ、私ですか。正直きっぱり言いますと姉の恐ろしさにあの時気絶しましたけど何か! ・・・何か!
国家機密レベルの話をぽんぽん簡単に喋っているので気絶したふりをしていたら思わず(不本意だ)聞いてしまったけれど、
姉の言葉にふと僅かに笑うヘイカの顔だけは見た。
「―――――・・。」
「・・ふん。まあいい。その話題はまた後しよう。ではノウェルがサハルエに攻めてきたとでも噂は広がるのではないか? どうするつもりだ?」
「うーん。俺たち、どっかの馬鹿なハゲと違ってちゃんと考えてるからね。何人か部下を使って『ノウェルとサハルエが友好条約を結ぶ為の余興として、正門を盛大に開ける』っていう内容の噂を流すように指示してあるから、大丈夫なんじゃないかな。」
「な! 友好!? 条約!?」
「断る? 断るの? ・・良いけどね? でもそしたら『サハルエが友好条約を結ぶ為に来国したノウェルを追い返した』なんて噂は広まって、一気にサラザモーラとラトヴァゼニァ・・その他諸国を敵に回す事になるだろうけど。」
ああ・・・。ノウェルは味方が多いから・・。
用意周到、強いな殿下。
「くっ・・・・!」
負け犬っぽい息をヘイカが悔しそうに吐き、盗み聞き(?)も案外楽しいかもしれないと考えた時。
「で? 起きたのねシェイちゃん。久し振り、お早う。」
・・・・・・・・・ばれてた。
「・・・お、おはよう・・・?」
にっこりと一点の曇りも無い笑顔は逆に怖い。
「あの、お姉ちゃん? もう、その怒ってたりとかしてないの・・?」
「あら、何に? そもそもシェイちゃんは被害者じゃない。元凶には久し振りにちょっと汚い言葉遣い使って、色々仕返ししたし。その他にも八つ当たりしたからすっきりよ!」
『その他に、八つ当たり』・・・?
そこで私は気付いた。・・・ネアが居ない事に。
「おおおお姉ちゃん! あの、ネア! ネアは!?」
「ああ、あのシェイちゃんの『恋人』の?」
ひいいっ。今「恋人」の単語だけ一オクターブ音程が下がった。怖い怖い、笑顔が!
「聞いたわよシェイちゃんおめでとう。お姉ちゃんが居ない間にそんなに成長したのね! だから安心して、シェイちゃんの今後の為を思って、全っ然危害を加えてなんかいないから! 害虫に!」
「う、うん・・・?」
少し目を逸らしながら青ざめている後ろの男性陣が気になる。
「あの、殿下。それでネアは何処に・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・医務室だ。」
「・・・・・・・・そうですか。」
何かもう全てを悟った。うん。お詫びの品も持っていこう。
そうして私は三人が居た部屋から出て医務室へ向かった。果物持って。
上半身全部包帯で巻かれていたネアを見て、思わず青ざめて果物を落としてしまったのは仕方ないよね。
何をしたんだ、姉。
作者テスト週間に入りますので只でさえ遅い不定期な更新なのですが、
12月まで新たな更新は無いと思います。
申し訳ありません。
ハゲハゲ言ってごめんなさい。
お気に入り登録件数を見てビビりました。
本当にありがとうございますっ!!!(土下座