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修羅場に成ったら取りあえずは黙るべき。

ヘイカに「貴様」って言わせようか悩んだ。

「それでだな暴れ馬。大臣たちと顔合わせして貰うぞ。」

何が「それで」なのか全く分からん。完全に寛ぎタイムだった乙女の部屋に突然乱入して来た挙句涼しい顔をしているヘイカは人外語を喋った。

「誰が暴れ馬なの。何時子豚から変化した訳?」

「お前の凶暴っぷりを上手く表現するにはそれがぴったりだっただけだ。」

「そう。じゃあヘイカさんは暴れ馬如きも乗りこなせられない奴だったんだねー。まあ知ってたけど。」

ふんっと鼻で笑ってやるとヘイカは顔を赤くして震えてた。おーおー、分かり易いのが此処にももう一人。こいつ口喧嘩弱くないか。生きている間に顔も見たくない程嫌いな奴がまさか二人も出来るとは。まだまだだな私。

「五月蝿いぞお前っ! この私に向かってその口の利き方! ラウディの娘でなければとっくに不敬罪と侮辱罪で牢に閉じ込めてる所だっ!」

負け犬定番台詞を堂々と吐いたヘイカはそれに気付いているのか否か。

「ほうほう。一度ならまだしも二度も下手に権力を盾に使うとは、よっぽど御自分に自身がないのかねー。」

「・・・っ、お前っ!」

ずんずんと近づいてきたヘイカに警戒する。まあ幾ら何でも殴るまではしないだろうが。

というか放って置いて欲しい。私は今現在、というかここ数日、今まで考えたことも無い議題で脳内会議を開いて悩んでんだって! あああ、だから口喧嘩も人と会うことも他の事について考えるのも遠慮したいの! だから今すぐ出て行け、近づくな鳥肌がたつ!

・・・という一瞬の思考もお構いなしにヘイカはあっという間に私の胸倉を掴んだ。

ちょっと。伸びるんですけど、このワンピース。

「・・・お前は一度、痛い目みないと分からないらしいな。」

「力で従わせられると思ってるならとんだお気楽ヘイカだね。んなモンで従うのは臆病かただの馬鹿だよ。」

んべ、と舌を出すと更に頭に血が上ったのかヘイカの体が傾く。

脳内会議中につき、只今何処までやっていいのか判別がツキマセン。

あれ。



ドサリ、


背中に僅かな痛みを感じると上にはヘイカ。その更に奥には天井。後ろには床。うん、カーペットが見えるなぁ。・・・アレ。つまりこれ。

「っちょっとぉぉおおお! 何押し倒してんの、私の美しさに目が眩んだかっ!」

顔が近い、顔が! ああああああ、鳥肌がっ! 脳内会議が中断されてしまったではないか!

「冗談もほどほどにしろ! 何故美しいという言葉から縁遠い様なお前に欲情せねばならんのだ! 体重が傾いただけだわっ、私がお前如きを抱くなどと考えただけで虫唾が走る!」

「お互い様よそれは! 早く退け!」

ひいいいいいっ、嫌いな野郎の息が掛かる事ほど嫌なことってない。

余りに嫌で思わず涙目になる。触れるな!

「・・・。何だお前、予想以上に泣き虫なのか? ふふん。こんな事が怖いとは。」

それを見たヘイカが余裕を取り戻したのか偉そうに微笑む。

「違うわ大間抜け、勘違い阿呆! 気持ち悪すぎて嫌なだけだっ、」

「・・な・・っ、お前っ! 「気持ち悪い」という悪口程傷に塩を塗りこむ言葉だという事を知らんのかっ!」

「承知で使ってるのよっ、だって私ヘイカが傷ついても構わないしーっ!」

「お前、お前はきっと幼少期とんだいじめっ子だっただろう! 少しは躊躇というものを覚えろ!」

「失礼ねっ、小さい頃はそれはそれは純粋で健やかな子だったわよ! 大体ヘイカに躊躇する必要が一体何処に・・!」

「言うなそれ以上! 言っても良い事と悪い事があると習わなかったのか!」

「ヘイカに関して悪い事なんざ無いのよっ!」

ギリリ、と若干泣きそうに悔しそうに歯軋りしたヘイカは落ち着かせる様に一旦深呼吸をした後、にやりと笑った。

・・・・・え、いやいやいや。嫌な予感が。

冷や汗が垂れる。

まさか私が一番やられて嫌なことに気付いたんじゃ・・・、でもそこまでヘイカは横暴で最っ低な奴じゃないわよね、私信じてるよ今だけ!

嫌な予感程当たるもの。ヘイカの顔がゆっくりと近づいて来た。首筋に向かって。

・・・まっさかぁー、待て待て待て。ひいいいいっ。

リミットが限界を超え左の目から一粒涙が零れるのが分かった。

時に、




「アカシェ。今日はアイスを持って来た。少し溶けてるかもしれないが・・・。」




入ってきたネアが固まる。

その視線がゆっくりと部屋の状況を見、ヘイカと私の体勢を見、完全に悔しさと気持ち悪さで涙を流してる私と目が合った。

まあ両手は押さえられてるし、ヘイカの顔は私の首筋―――ネアから見たら唇へ見えるだろうか―――へ向かってる途中だし、私は泣いてるし、

ヘイカが私を無理矢理襲っている状況、・・・に見えるだろう。

固まったまま視線を逸らさないネアに声を掛ける。

「ネ、ネア・・・、」

あれなんか予想以上にか細い声が出た。乙女っぽいな私。まぁ泣いてるからなあ。

ボトリ、

あ。アイス落ちた。カーペットが汚れるなぁ。それにしても勿体無い。アイスは今回が初めてだったのに、畜生ヘイカめ。

ネアは既に私から視線を外し、ヘイカを見てる。・・・睨んでる?

そっとヘイカを見ると顔が真っ青だった。愛想笑いの形のまま硬直してる。石像の様だ。

・・・あれ何この空気。

口を出してはいけない男と男の修羅場であると空気が物語っている。はい、私は空気が読める子なので口を挿みません。

「陛下、何、やってるんですか・・・?」

「ぃぇ・・・、そ、その・・・」

「俺が知らぬ間にアカシェの所へ行くなと申し上げたはずですよね・・・?」

「・・・」

「まさか、今回以外にもあったなんて・・言いませんよね・・?」

ありましたよ。度々乱入しては文句を言い逃げしてましたよ。

その辺は既に察しているのか、ふぅ、とネアは息を吐いた。

「イールァ様、姫様・・いや、姉上様に今からでもお教えしてきましょうか。昔イールァ様が大切にしていた手鏡やアクセサリーが無くなったり壊れていたりしたのは全て光物が大好きだった陛下の仕業ですよ、と。」

「ひ、っ!」

何をしてたんだヘイカ。よっぽどイールァ様とやら(ヘイカの姉と見た)が怖いのか、今度は震えだした。

「嫌ですよね陛下? だったらもう二度とこのような事はなしにしてください。それから一週間はこの部屋に足を踏み入れないように。アカシェと接触も許しません。」

「いや、でもあのだな・・大臣たちに・・・、」

「何か仰いましたか陛下?」

「・・・・。」

真っ青な顔のままヘイカはひっそりと部屋を出て行った。あれ今のどっちが主人? ヘイカ弱い。

まあこれで一週間は平和か。

ため息を吐いた所で歪んだ視界でもう一度ネアと視線が合う。



ん? 今部屋に二人っきりじゃないか? いや、ヘイカの時もそうだったけど訳が違う。




だってまだ脳内会議の結果が出ていない!

『恋してしまったネアに今後どう接せられるかについて』なのに!、



頭の叫びが声に出る事はない。





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