第8話 奪われたヒカリ
第 8 話 奪われたヒカリ
—そこは、光の届かない部屋。
不気味な黒いマントを羽織った男が2人。
「あの二人も少し成長したようだ。特に蒼真」
「それはまた、面白い」
不気味に暗闇で笑うマントの男。
「そろそろ、時間だ」
ゆっくりと男は立ち上がるともう1人へ指示を出す。
「娘をさらってこい」
—再び動き出す、影達。
彼らはまだ、何も知らない。
日常が完全に崩れる事を。
一ノ瀬邸
「本当に?」
「ああ」
私は蒼真にある提案をされた。
2人でこっそり屋敷を抜け出して
私が行きたい所に行こうと言うのだ。
見張りも強化されてるのに?と問うと
「あれ、みんな俺の後輩だから、突破なんて余裕」
とニヤッと笑う蒼真。
確かにここの所、外出は控えている。
外に出たい気持ちが私は強かった。
「蓮にバレないように、お酒で潰しとくから。アイツ、そこまで強くないからさ」
またもニヤっと笑う蒼真。
—午後10時
こっそりベッドを抜け出し、玄関まで向かう。
既に蒼真が待ってくれていた。
「蓮は?」
小声で一応聞いてみる。
「ぐっすり寝てる。行こ」
楽しそうに蒼真が自然と私の手を引く。
蒼真も少し飲んだのか、顔は赤く、その手も熱い。
春の夜は少し肌寒い。
でも、その風が心地よい。
玄関を出ると見張りのみんなは何故か居なかった。
不思議に思ったけど、蒼真の後輩と言うから何か言ったんだろうか?
「で、どこ行きたい?」
笑顔で聞いてくる蒼真。
しまった…何も考えていない。
「あ…外が嬉しくて…考えてなかった」
「んー、それじゃあ…俺の好きな店いこ!」
と本当に楽しそうな蒼真。
手を引かれるまま歩き続けた。
「美味しい…」
「だろ?」
と満足気な蒼真。
蒼真に連れてこられたのは、居酒屋という場所だった。
店内はガヤガヤとなんだか活気に溢れている。
はじめて食べた焼き鳥が美味しくてびっくり。
「たまにはさぁ、肩の力抜かねぇと」
ビールを呑む蒼真。
とても満足そうにしている。
堅苦しいのって疲れるじゃん。とお酒を飲んでいるからかいつも以上に緩い。
いつの間にか、私の肩に手を回している。
ーでも、嫌じゃない。
この時間がとても楽しくて、心地よい。
「…あのさ…」
蒼真が真剣な眼差しで口を開こうとした時だった。
「何、してんだ」
背後からドスの効いた低い声。
知っている、この声は蓮だ。
「れ、蓮!?」
と蒼真は慌てている。寝てたじゃん!と。
あれくらいで潰れるか。と言う顔をして
「お前が俺に酒をすすめるなんておかしな話だからだよ。見張り達まで巻き込みやがって」
と蓮はかなり怒っている。
「なんでここがわかった!!」
「お前のスマホGPS」
しまったーと蒼真はがっくりと肩を落とし頭を抱えた。
「あの、ごめんなさい。蒼真は私のわがままを…」
と言いかけると、遮るように蓮は溜息をついた。
「陽葵も自覚しろよ。こんな所を襲われたらどうすんだよ」
蓮、今…素になってる?
その後もいつも上品な喋り方はどこにいったのか。
蒼真を叱りつけている。
少し怖い気もするけど、蓮もお酒を飲んでいたからかな?
反省すべきなんだけど、素の蓮が見れて嬉しくなって私は微笑んだ。
「なんで、笑うんですか…」
「だって、やっと本当の蓮が見れたなって」
ニコッと私が笑うと、しまった。とバツの悪そうな蓮の表情。
「これからは、陽葵様じゃなくて、陽葵って呼んでね。あと敬語も禁止ね」
「え、あ、いや…うん…」
恥ずかしそうに、蓮は少しだけ肩をすぼめた。
それを私の隣で蒼真は満足気に見つめていた。
この時間が、ずっと続けば良いのに。
店を出た瞬間、夜の空気が少し変わった。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、静かだった。
さっきまで感じていた心地よい風が、急に冷たく感じた。
「蒼真、陽葵を」
と蓮が声をかけると蒼真はサッと私の隣へ移動する。
――ゾワッ
背筋をなぞるような違和感。
次の瞬間。
「下がれ!!」
蒼真の声と同時に、空気が裂けた。
キィンッ!!
鋭い金属音。
いつの間にか、蓮の手にはナイフが握られていた。
目の前には、黒いマントの男。
フードの奥、光を宿さない目。
「……影楼」
低く呟く蒼真。
その声には、明確な殺気が混じっていた。
気づけば、周囲を囲まれている。
一人、二人じゃない。
五……いや、それ以上。
「へぇ……」
蒼真が口角を上げる。
「今日は大盤振る舞いだな」
軽口とは裏腹に、その目は完全に戦闘のそれだった。
「陽葵」
「絶対に、蒼真から離れるな」
さっきまでの蓮の“素”は消えていた。
いつもの執事でもない。
もっと鋭くて、もっと怖い。
“守る者”の顔。
「……うん」
小さく頷いた、その瞬間。
黒い影が、一斉に動いた。
――速い
目で追えない。
「チッ……!」
蓮が一歩踏み込み、最前線に出る。
ガキンッ!!
ナイフと刃がぶつかり、火花が散る。
一撃、二撃、三撃。
まるで踊るように、敵を弾き飛ばしていく。
「遅ぇよ」
低く笑う蓮。
その背中が、やけに大きく見えた。
でも――
「数が多い……!」
蒼真の声。
振り向くと、後ろにも敵が回り込んでいた。
「くそっ……!」
蒼真が私を抱き寄せる。
その瞬間。
――ザッ
背後から、気配。
「……っ!!」
振り向いた時には、遅かった。
腕を掴まれ、強く、引かれる陽葵。
「離してッ…!!」
必死に抵抗するけど力が違いすぎる。
「陽葵!!」
蒼真の叫び。
その一瞬、手が離れた。
「こっちだ!!」
蒼真が飛び込んできて、私を引き戻す。
ガキィン!!
敵の刃を受け止める。
その衝撃で、距離が離れる。
――その、一瞬だった。
「……捕らえろ」
低い声。
どこからか響いた。
次の瞬間、視界が、黒で埋まった。
「――っ!!」
煙のようなものが周囲に広がる。
何も見えない。
「陽葵!!どこだ!!」
蒼真の声。
「チッ……逃がすかよ!!」
蓮の声。
でも――
その声が、遠くなる。
意識が、薄れていく。
最後に見えたのは――
必死に手を伸ばす、蒼真の姿だった。




