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第2話 影-狙われた少女-

第 2 話

影-狙われた少女-



暖かい陽射しの中、ベンチに腰掛けている久遠さん。

お庭の手入れを頼まれていたけど休憩中かな?と私は声をかけようと近づく。


「久遠さ…」

…寝ている。

銀色の髪が陽の光を浴びて、キラキラ光る。

普段のダルそうな表情と違い、寝顔はかなり整っている。

思わず「綺麗…」と私は呟いた。


声に気がついたのか、久遠さんの目がゆっくりと開き、私を優しく見つめる。

「あれ、陽葵さんじゃん。お散歩?一緒に座る?」と寝ていた事は悪びれず、ぽんぽんとベンチの空いている場所へどうぞと誘導される。

「お邪魔します」

誘導されるがままに私は座ってしまったけど、どうしよう、何か話した方がいいよね?

何も考えずに座ってしまい、どうすればいいかパニックになりそうになっていると…。


「陽葵さぁ…」

突然、名前だけ、さんをつけずに呼ばれる。


「そんな俺らに気を使わなくていいからさ、俺の事も久遠さんなんて呼ばないで、蒼真って呼んでよ、みんなそう呼ぶからさ。蓮の事も、黒瀬さんじゃなくて蓮でいいと思うよ」


「え…でも、なんだか…」

失礼な気がして、という言葉を発しようとすると不安そうに私は眉をひそめた。

「ほら、やっぱり気を使ってる。陽葵さ、可愛んだから、もっと笑いなよ。」

風が強く吹き、サラサラと久遠さんの前髪が揺れる。

太陽の光に反射した銀髪がキラキラ光る。

そして、屈託のない笑顔で私を見てくる。


「うん、そうだね、蒼真」

私も自然と笑顔になり、彼の名前を呼んだ。


「陽葵様」

後ろから名前を呼ばれた、黒瀬さんだ。

「日傘をお持ちしました」

本当にこの人は完璧だ。

日傘もいつもより小ぶりのものを持ってきている。

私が蒼真の髪の色を楽しんでいたのをまるで隣で見ていたかのよう。

「ありがとう、蓮」

と笑顔でお礼を言うと一瞬動きの止まる蓮。

「いえ、だんだん陽射しが強くなりますからね。…で、蒼真。」

「んー?」

「庭の手入れの進捗は」

「……めんどくせぇ」

これもいつものやり取り。

でも、私も蓮もわかってる。

蒼真はめんどくさいと言いながらも、実はもう手入れを終わらせていた事を。







風が吹く。

アカシアの花の匂いがする。



「俺が守るよ」


不安そうな、泣きそうな少女。


「約束してね」


手を繋いだ。

少女の手は小さく、でも暖かい。




—-「綺麗…」

陽葵の声が聞こえた。

目を開けると俺を真っ直ぐに見つめていた。

庭の手入れして、俺は寝ていたのか…。

さっきのは夢?

夢にしては何かが違う…思い出しかけている気がする。


陽葵をベンチへ誘導し、話をしていると日傘を持った蓮がやってきた。

仕事の進捗を教えろって…終わってるの分かってて聞いてくるんだよな。

答えるのもめんどくさい。


「まったく、蒼真その口癖どうにかしたらどうなんだ?…陽葵様、今夜のディナーはいかが致しましょう?」

「うーん、あ、3人でレストランに行きたいな!」

「それいいじゃん!行こーぜ!」

いつも外出は2人から誘われるので、私から誘って見ると蒼真はノリノリで答えてくれる。

蓮はやや迷っているようだったけど、それがいいですね。と了解してくれた。








暖かい陽射し…庭を歩きこちらへ向かってくる少女。

あれは誰だろう。



—庭を歩く陽葵様を見て何かを思い出した気がする。

また、あの記憶だろうか。


陽葵様が蒼真の髪の毛を見ている。

あいつの髪の毛は太陽の光で輝きを増す髪色だ。

俺はよく庭の手入れを任せる事が多い。

陽葵様は感受性豊かだ。

きっと綺麗と気に入ってくれるだろう。


だが、日差しも強くなってくる時間帯だ。

髪を楽しめるように日傘は小さいものを渡そう。


「ありがとう、蓮」


突然、名前で呼ばれ一瞬、戸惑った。

陽葵様の隣の蒼真がニヤニヤしている。

コイツ…。


「いえ、陽射しが強くなりますからね」


内気な陽葵様、俺たちに気を使っているのは知っていた。

踏み込むべきか悩んでいたが、蒼真がそれをしてくれたらしい。

考えずに出来てしまうのが蒼真の良いところだ。








夜の空気は、どこか静かすぎた。


 レストランを出て、帰り道を歩く。

 さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、街は落ち着いていた。


「美味しかったですね」


 思わず口にすると、蒼真が隣で軽く笑う。


「だろ?たまにはああいうのもいいよな」


「……陽葵様、足元にお気をつけ下さい」


 いつも通りの声。

 いつも通りの距離。


 なのに――


 どこか、違った。


 風が、止んでいる。


 さっきまで感じていた夜風が、ぴたりと消えていた。


 その違和感に気づいた瞬間。


 蓮が、足を止めた。


「……蒼真」


 低く、短い声。


 その一言で、空気が変わる。


 蒼真の表情から、いつもの緩さが消えた。


「ああ」


 次の瞬間。


 背後から、何かが“落ちてきた”。


「――っ!」



 気づいた時には、蓮の腕が私の体を引き寄せていた。


 強く、でも優しく。


 視界が揺れる。


 地面に叩きつけられるはずだった“それ”が、すぐ横を掠めていく。


 金属音。


 鋭い何かが、アスファルトに突き刺さった。


「下がってください、陽葵様」


 低い声。


 今まで聞いたことのない声だった。


 私は言われるまま、一歩後ろへ下がる。


 でも、足が震える。


 何が起きているのか分からない。


 ただ、怖い。


「……姿は見せねぇのかよ」


 蒼真が、前に出る。


 その目は、さっきまでとは別人みたいに鋭い。


「面倒くせぇな」


 呟いた瞬間。


 空気が、歪んだ。


 次の一撃が来る。


 見えない。


 でも、確実に“来る”と分かる。


 その時。


 蓮の体が、動いた。


 一瞬だった。


 何をしたのか、見えなかった。


 ただ――


 “何か”が弾かれた音だけが、耳に残る。


 キィン、と乾いた音。


 そして、静寂。


「……退いたか」


 蒼真が、小さく舌打ちをする。


 蓮は、周囲を見渡しながら、ゆっくりと息を吐いた。


「……深追いは危険です」


「分かってる」


 短いやり取り。


 でも、その声は落ち着いていた。


 戦いが終わったんだと、やっと理解する。


 私は、その場に立ち尽くしていた。


 心臓がうるさい。


 呼吸が浅い。


「陽葵様」


 蓮が、こちらを見る。


 その目は、さっきの鋭さを残しながらも――優しかった。


「お怪我はございませんか」


「……だ、大丈夫です」


 うまく声が出ない。


 それでも、なんとか答える。


 蓮は一瞬だけ目を伏せ、小さく頷いた。


 そして。


「……申し訳ございません」


「え……?」


「本来、このような危険に晒すべきではありませんでした」


 静かに、そう言った。


 違う。


 そんなことじゃない。


 そう思ったのに、言葉が出てこない。


 その時。


 蒼真が、ぽんと私の頭に手を置いた。


「ま、無事ならいいだろ」


 いつもの軽い声。


 でも――


 その手は、少しだけ強くて。



「怖がらせたくなかったんだけどさ…」


蒼真は口を開くがその先の言葉に詰まっている。



 その様子を見て蓮が、ゆっくりと口を開く。


「……陽葵様は、狙われています」


 その言葉が。


 夜の静けさの中で、重く響いた。






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