第9話 決壊
月明かりに照らされたセラフィナがあまりにも綺麗で、俺の頭の中は真っ白になった。
七年間の地獄。レベル1の絶望。仲間を失った孤独。
それら全てが、彼女という「光」を前にして、どろどろに溶け出していく。
俺は衝動のままに、ベッドにいたセラフィナを押し倒していた。
「……っ、ジーク!? い、いきなり……ッ」
セラフィナが小さく悲鳴を上げる。
普段ならここで「何やってんだ」と自分にツッコミを入れるはずなのに、今の俺にはそんな余裕はなかった。
ただ、彼女に触れたかった。彼女の中に、俺という存在を刻み込みたかった。
セラフィナは最初こそ戸惑い、肩を震わせていたが、やがて抵抗を止めた。
俺を受け入れるように、そっと目を閉じ、細い腕を俺の背中に回してくる。
「……いいよ。ジークなら」
その許しの言葉が、俺の最後の一線を切った。
想いを伝えようと口を開く。好きだ。愛してる。ずっと会いたかった。
けれど――。
最初に漏れたのは、言葉ではなかった。
熱い滴が頬を伝い、彼女の白い肌に落ちた。
一度流れ出したそれは、もう止まらなかった。
「……あ、……ぁ…………」
七年間、泣くことさえ許されなかった戦場。
役立たずと罵られ、仲間が死ぬのをただ見ていることしかできなかった無力さ。
レベル1という呪いに縛られ続けた、惨めな記憶。
それらが言葉にならない嗚咽となって、喉の奥からせり上がってくる。
告白をしようとした口からは、ただただ、子供のような泣き声だけが漏れ出した。
俺は彼女の胸に顔を埋め、ボロボロと涙を流しながら、ひたすらに泣きじゃくった。
「……よしよし。……頑張ったね、ジーク」
セラフィナは驚くことも、茶化すこともなかった。
昔から俺をからかうのが大好きだった彼女が、この時ばかりは、慈しむような手つきで俺の頭を抱き締めてくれた。
「辛かったね。一人で、よくあんな場所から帰ってきてくれたね。……偉いよ、ジークは」
その言葉が、俺の魂を救っていくようだった。
俺は彼女を、壊れそうなほど強く抱き返した。
結局、その夜。
俺は一番伝えたかった想いを口にすることはできなかった。
けれど、心の中に溜まっていた七年分の澱を全て吐き出し、俺はセラフィナの温もりに包まれたまま、泥のように深い眠りに落ちた。




