第8話 温もり
祈りを終えると、シスターがゆっくりと腰を上げた。
「……明日は朝の礼拝があるから、私はもう寝るわね。あなたたちも、今日は疲れたでしょう。早く休み姿を見せなさい」
そう言って、シスターは俺たちの頭を優しく撫でた。
「おやすみなさい。……私の、愛しい子供たち」
どこか哀しげで、慈愛に満ちたその声。
あいつらの分まで、俺たちを守ろうとしている。そんな決意が滲んだ背中を見送りながら、彼女は自分の部屋へと消えていった。
「……さて、俺も久しぶりに自分の部屋に戻るか」
懐かしい木の扉に手をかけようとした、その時だった。
「ねえ、ジーク。……今日は、一緒に寝てもいい?」
「…………へぶぁっ!?」
自分でも聞いたことがないような、変な裏返った声が出た。
何を言っているんだ、こいつは。
けれど、月明かりに照らされたセラフィナの瞳は、今にも涙が零れ落ちそうに揺れていた。
――ああ、そうか。
哀しかったのは、俺だけじゃない。
彼女も、あいつらと一緒に育ったんだ。
この村を守りながら、一人も帰ってこないかもしれない不安と、七年間も戦い続けてきたんだ。
「……わかったよ。ほら、行くぞ」
俺たちは二人で、俺の部屋へと入った。
七年ぶりの自室は、驚くほどあの頃のまま、綺麗に保たれていた。
「……部屋、全然汚れてないんだな」
「当たり前でしょ。私が毎日、掃除してたんだから」
セラフィナは少しだけ誇らしげに、でも照れくさそうに笑った。
七年間。
主のいないこの部屋を、彼女はずっと守り続けてくれていたのだ。
俺は持っていた蝋燭の火を、静かに吹き消した。
セラフィナが先にベッドに潜り込み、窓のカーテンを大きく開ける。
途端に、冷たくも優しい月光が暗い部屋に流れ込んだ。
銀の光に照らされた彼女の肌は、昼間見たどの景色よりも透き通っていて。
隣で横たわる彼女が、あまりにも綺麗で。
ドクン、と。
俺の鼓動が、うるさいくらいに跳ね上がった。
身寄りのない俺たちが一人一部屋を与えられているのは、亡くなった院長のおかげだ。
老衰で亡くなる直前、「遺した金は全て、子供たちの将来のために使ってくれ」という遺言を残した。
それを受けたシスターたちが、当時の子供の数だけ部屋を増設したのだ。
かつては院長とシスターが二名いたこの修道院も、今ではシスターが一人だけ。
人口百人に満たないこの小さな村で、ここだけが俺たちの唯一の居場所だった。




