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第7話 これからの家

村長宅で出された料理を、俺は夢中で胃袋にかき込んだ。

 戦場でのひどい食事に慣れた体には、故郷の味はあまりにも優しくて、どこか切なかった。

 宴が終わり、解散の流れになる。

 家路につく村人たちの背中を見送りながら、あの子を失った親たちの沈黙が胸に突き刺さるようだった。


 重い足取りで歩いていると、シスターが俺の肩に優しく手を置いた。


「ジーク、しばらくは私の家に居なさい。あなたの部屋は、あの日からずっとそのままにしてあるから」


「……ありがとう、シスター。助かるよ」


 そう答えると、なぜか隣を歩いていたセラフィナが当然のような顔をしてついてくる。


「……お前、まさかセラフィナもシスターの家に住んでるのか?」


「そうなんだよー。私の体が大きすぎて修道院に入れないときは、庭で寝てるけどね」


 あっけらかんと答えるセラフィナ。

 すると、シスターが少し怖い顔で彼女を振り返った。


「そのことだけど、セラフィナ。明日からはしっかり修道院を直しなさい。いいわね? あなたが屋根を壊すたびに、私の腰が悲鳴を上げているのよ」


「……はーい。ごめんなさい」


 あのきかん坊も育ての親であるシスターには形無しらしい。


 シスターの家に着くと、リビングのテーブルの上にいくつかの品が並べられていた。

 色褪せたおもちゃ、お守り、使い古されたナイフ。

 それは、修道院から俺と一緒に兵役に参加したあいつらの、大好きだった物ばかりだ。


 シスターが静かに蝋燭に火を灯す。

 俺とセラフィナも、その前に膝をついた。


「還るべき環へ向かう魂よ」


 シスターの穏やかな声に合わせて、俺たちは目を閉じ、祈りを捧げた。


還るべき環へ向かう魂よ、

あなたの旅路に灰の重さが残りませんように。

地はあなたの身を抱き、

風はあなたの息を運び、

空はあなたの名を記憶します。

この世の飢えも、痛みも、恐れも、

すべてをここに解き放ちなさい。

我らは灯を一つ残します。

あなたが迷わぬように。

静寂の野へ。

星なき夜の安らぎへ。

終わりなき循環の中へ。

――どうか、安らかに眠りなさい。


 祈りが終わっても、しばらくは誰も動かなかった。

 暗い室内で、蝋燭の火だけが揺れている。

 

 俺だけが生き残ってしまった。

 その事実は変わらない。

 けれど、こうして迎えてくれる場所があり、共に祈ってくれる家族がいる。

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