第6話 たった一人の帰還兵
セラフィナに聞きたいことは山ほどあった。
なぜドラゴンなのか、この七年で何があったのか。
けれど、次から次へと飛んでくる村人たちの質問攻めに、話す余裕なんてこれっぽっちもなかった。
「戦場はやっぱり凄まじかったのかい?」
「異世界ってのは、どんな魔法が飛び交ってるんだ?」
酒の入った大人たちが、興味津々に身を乗り出してくる。
その隣では、さっきまでドラゴンだったセラフィナが、ふんぞり返って鼻を高くしていた。
「ふふん。たまにこの辺りにも魔族の残党が出るけど、私がさっきみたいに追い払ってあげてるんだから。ジークも見たでしょ? 私の勇姿」
誇らしげに胸を張る彼女に、俺は苦笑いするしかない。
確かに、あのサイズで暴れ回られたら、並の魔族なら塵も残らないだろう。
「まったく、これだから最近の若者は。ワシがお前さんらくらいの頃は、もっと……」
村長がいつもの武勇伝を語り出そうとした、その時だった。
「……ジーク。あの子は、今どこで何をしているんだい?」
宴の喧騒を切り裂くような、静かな問い。
その場にいた全員が、一瞬で押し黙った。
質問をしたのは、隅の方に座っていた一人の女性。
俺と一緒に兵役へ連れて行かれた、子供の母親だった。
俺は、握りしめたコップを見つめた。
あっちの世界で、俺は軍の内部にいた男からある「事実」を聞かされていた。
レベリングシステム。
それは軍部では禁術扱いされていたが、実は最初から実行される予定だった。
兵役の条件が「十歳から十八歳まで」の若者に限定されていたのも、魂の成長余力がある子供の方が、システムの実験体として都合が良かったからだ。
この村からは、俺を含めて二十人の子供たちが連れて行かれた。
退役する前、俺は軍の記録を必死に調べ、あいつらの行方を追った。
重苦しい沈黙の中、俺はゆっくりと口を開いた。
「……あいつは、立派に戦いました。最前線で、俺たちの仲間を守って、命を落としました」
彼女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
村長が静かに彼女の肩を抱き寄せ、俺の方を見た。
「……文書で死んだことは届いておった。だがな、やっぱりお前の口から聞いてみんと、信じられんかったんじゃろうな。……すまん、辛いことを言わせた」
二十人が行って、帰ってきたのは俺一人。
「英雄」でも「勇者」でもない、レベル1で固定された、役立たずの俺だけが。
そんな俺の手を、テーブルの下でセラフィナがぎゅっと握りしめた。
その掌は驚くほど温かくて、少しだけ震えていた。




