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第44話 戦う者の誇り

避難誘導を終えたセラフィナは、土煙が立ち込める広場の中心を見つめて立ち尽くしていた。その瞳の奥には、金色の光が静かに、だが激しく明滅している。

これ以上、この狂った男に好き勝手させるわけにはいかない。

彼女がその指先に、世界を塗り潰すほどの「力」を込めようとしたその時だった。


「セラフィナ、下がっていろ」


ジークの声が、轟音を突き抜けて届いた。彼はパラガスの放つ凄まじい魔圧に晒されながらも、一歩も引かずに立っている。その背中は、かつて彼女を戦場から救い出した時のように、頼りなく、それでいて絶対に折れない強さを秘めていた。


「でも、ジーク! その男は……」


「わかっている。でも、こいつは俺が倒す!」


ジークは振り返らずにそう言い放った。セラフィナは彼の決意の固さを悟り、握りしめた拳をゆっくりと解いた。


ジークの意識は、目の前の狂敵を見据えたまま、遠い日の泥濘の中へと沈んでいった。



鼻を突く湿った土の匂い。雨に濡れた軍服の重み。

最前線の塹壕の奥、交代で休息に入っていたジークは、焚き火の微かな熱を囲んで仲間たちの会話に耳を傾けていた。


「おい、聞けよ! 俺、ついにレベル10になったんだぜ!」


一人の男が、誇らしげに自らのステータスを自慢した。周囲からは、おお、と感嘆の声が上がる。


「すげえな。これでようやく一人前の兵士ってわけだ。……ところでジーク、お前はどうなんだ? これだけ生き残ってるんだ、相当上がってるだろ?」


仲間たちの視線がジークに集まる。彼は乾いたパンを噛み砕き、淡々と答えた。


「俺はまだ1だ」


一瞬の静寂の後、爆笑が渦を巻いた。


「ははは! 1だってよ! お前、それ村のガキより低いぞ!」


「レベリングシステムは軍のやつだけだろ」


「おいおい、そんなレベルでよくあんな化け物どもの中を走り回れるな。奇跡だぜ」


仲間たちは笑いながらジークを茶化し、彼の「弱さ」を冗談の種にした。ジークは嫌な顔一つせず、飲みかけの水でパンを流し込んだ。


「どうやってレベルを上げるんだ?」


「決まってるだろ、戦場での経験だよ。魔物を倒して、功績を上げる。……まあ、お前はいつも一番働いてる癖に、どうして上がらないのか不思議だけどな」


仲間の一人が肩をすくめて笑う。実際、ジークの判断力と行動力は部隊の中でも群を抜いていたが、なぜかその「数字」だけは一向に動かなかった。

そこへ、哨戒から戻った別の兵士が、興奮した様子で輪に加わった。


「おい、聞いたか! 勇者様が南の戦線を一人で壊滅させたらしいぞ!」


「勇者様か……。天界からやってきたようなあの方たちからすりゃ、俺たちみたいな一兵卒なんてノミ同然なんだろうな」


皆がその圧倒的な武勇に酔いしれる中、一人の老兵が重々しく口を開いた。


「勇者様方も強いが……一番は、あの方だろうな」


「誰のことだ?」


「そいつは……」



現実の広場では、パラガスの放つ魔力がさらに密度を増していた。


「不速之致スふそくのいたすところ!!。この世界遅い!遅い!!遅すぎる!!!なんで追いついていないんだよぉぉ!」


パラガスは苛立ちを露わに叫ぶ。彼の能力は、自分の思考よりも「遅い」と感じるものへのストレスを、純粋な速度と時間操作へと変換する。

彼にとって、レベル1のジークが自分の攻撃を避けること自体が最大のストレスであり、それが皮肉にも彼をさらに加速させていた。


「遅い、遅い、クソッッ!! 貴様の動きも、この空気も、全てが俺様をイラつかせるんだ!」


超加速したパラガスの姿が消える。

だが、ジークの目には、その「速さ」の裏に潜む歪な隙が、確かな違和感として映り込んでいた。

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