第4話 おかえりと、変わらない風景
「お前、いつからドラゴンだったんだよ! っていうか降りろ! 修道院が! 俺たちの実家が完全にひしゃげてるから!」
俺の必死の叫びに、巨大な銀色の龍は、家一軒分ほどもある大きな前足を持ち上げた。
そして、自分の頭を「コツン」と軽く叩く。
『てへっ』
空気を震わせる重低音の「てへっ」。
あまりにも似合わない効果音が耳に響く。
「『てへっ』じゃねえええええ!! なんだその、とりあえず可愛くしておけば許されるみたいな人外のムーブは! 屋根! 瓦が粉々だろうが!」
俺のツッコミが響き渡る中、騒ぎを聞きつけたのか、村の方からわらわらと人が集まってきた。
「なんだ、また守護竜様が屋根を……?」
「あ、おい! あの格好……兵役に行った子じゃないか?」
ざわつく村人たちの間を割って、一人の女性が走り寄ってくる。
見覚えのある、少し古びた法衣を纏ったシスターだ。
「……ジーク? ジークなのね!」
「シスター……」
俺がその名前を呼ぶより早く、彼女は俺に飛びついてきた。
戦場での泥臭い臭いも気にせず、母親のように強く、強く抱きしめてくれる。
「よかった……本当によく無事に帰ってきてくれたわね。毎日、毎日祈っていたのよ」
彼女の温もりに、張り詰めていた心の糸がふっと緩む。
気づけば、周囲には昔馴染みの顔ぶれが揃っていた。
「ジーク、大きくなったなぁ!」
「大変だったろ。よく頑張ったな」
次々にかけられる労いの言葉。
七年の空白が、一瞬で埋まっていくような感覚。
ああ、俺は本当に帰ってきたんだ。
そんな感動的な空気を切り裂くように、一人の老人が杖を突きながら現れた。
七年前と全く変わらない、頑固そうな眉間に皺を寄せた村長だ。
俺と、そして修道院の屋根に乗ったままの巨大な龍の意識が、同時に重なる。
「「ジジイ、まだ生きてたのか!」」
息の合った罵倒。
巨大な重低音と、俺の声が重なって村中に響き渡る。
「誰がジジイじゃ! 帰ってくるなり縁起でもないことを言うな!」
村長が真っ赤な顔をして杖を振り回す。
その怒り方さえも、記憶の中にある「あの頃」のままだった。
状況はめちゃくちゃだが、このやり取りだけは間違いなく、俺の愛すべき故郷のものだった。




