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第38話 試すという仕事

泥にまみれ、腰を屈めて土をいじる。ジークにとって、それは剣を振るうよりも不慣れで、けれど奇妙に心地よい労働だった。村人たちと共に、彼は昨日口にした「畝の間隔を変える」という作業に取り掛かっていた。


「ジーク、本当にこれでいいのか? 随分と歪な間隔に見えるが」


年配の農民が、紐を張りながら不安そうに問いかける。ジークは顔を上げ、土地の起伏と水の溜まり具合をじっと見据えた。


「ええ。このあたりは空気の流れが詰まっているように感じます。少し広めに開けて、風が抜けるようにしましょう。その代わり、あちらの斜面は土が崩れやすい。間隔を詰めて、互いに支え合わせるんです」


ジーク自身、なぜ自分がそんなことを確信を持って言えるのか分からなかった。ただ、戦場という巨大な仕組みを管理し、不備を修正し続けてきた彼の目には、畑という空間の中にある「淀み」が明確な違和感として映っていた。


「……不思議なもんだな。お前さん、農作業は初めてだって言ってたが、その配置の選び方はどこか懐かしい。ずっと昔、まだこの土地が荒れる前の古い耕し方に似ている気がするよ」


老人が感心したように首を傾げる。ジークは答えに窮し、曖昧に微笑むことしかできなかった。自らの内側にある異質な知識。それがどこから来たのか、自分でも説明がつかない。


少し離れた場所で、セラフィナがその様子をじっと見守っていた。彼女は竜としての高い感性で、ジークが選ぶ「配置」が、ただの偶然ではないことを悟っていた。それはこの世界の道理を無視しているのではなく、むしろ歪んでしまった理を無理やり繋ぎ直すような、緻密な計算に基づいたものだ。


けれど、彼女は何も言わなかった。ジークがこの村で、自らの居場所を自らの手で作り上げようとしているのを、ただ静かに見守りたかった。


「よし、次はあっちの区画だ」


ジークは再び鍬を手に取り、土に向き合った。かつては敵を排除するために使っていた思考。それが今は、芽吹かない土に再び息吹を与えるための力へと変わり始めている。


戦う代わりに、考えて働く。その地味で終わりのない仕事こそが、今の彼に与えられた本当の役目なのかもしれない。

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