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第37話 うまく育たない畑

ジークが兵役に出ていた数年の月日は、故郷の景色を確実に塗り替えていた。かつての隣村との境界線は消え失せ、人口減少による村の合併という行政判断が下されていたのだ。


「今のあそこは、羽村と合併して共同管理してる麦畑だよ。ジークがいない間にいろいろあったんだ」


村長の言葉に、ジークは自分が完全に浦島太郎状態であることを痛感した。広大な麦畑は日当たりも良く、水路も整備されている。条件だけを見れば、これ以上ない豊作を約束されているはずの土地だった。


しかし、現実は計算通りにはいかなかった。


「土地が気まぐれになっちまったんだ。同じ種を蒔いても、あっちでは芽が出るが、こっちではさっぱりだ」


農民たちは、土をいじりながら諦め顔で語る。発芽率が年によって極端に変わり、育つ場所と枯れる場所が斑模様のように点在している。それが戦争の際に行使された大規模魔術の余波であることを、村の誰もが言葉にせずとも肌で感じていた。


ジークは、ぬかるんだ土の上をゆっくりと歩いた。その足裏から伝わってくるのは、単なる土の柔らかさではない。


「……ここだけ、妙に足運びが重くないか?」


「そうか? 昔からこんなもんだが、耕しにくいってほどじゃないぞ」


村人は首を傾げるが、ジークには分かった。土の硬軟の問題ではない。目に見えない力の流れが、特定の場所で不自然に途切れている。戦場で情報の整合性を追い求めてきた彼の感覚が、土地の不備を鋭く捉えていた。


傍らで地脈を探っていたセラフィナが、竜としての感覚を研ぎ澄ませ、小さく溜息をついた。


「……変ね。壊れているわけじゃないわ。ただ、リズムが揃っていないの」


彼女の言葉によれば、自然が破壊されたわけではなく、戦争による魔力の過剰な流入が土地の持つ固有のリズムを狂わせてしまったのだという。それは竜の力をもってしても、一朝一夕に元に戻すことができる性質のものではなかった。


村人たちは、この不条理を魔法で解決しようとは考えていなかった。


「育つ場所だけを使って、毎年試しながら作付けを変えてるんだ。収穫は減ったが、まあ飢えない程度には食っていけるさ」


英雄的な解決を望まず、ただ日々の暮らしを繋ぐために折り合いをつける。それが彼らの選んだ現実的な戦術だった。ジークはしばらく黙って畝を見つめていたが、ふと無意識に言葉が零れた。


「……畝の間隔を、場所ごとに一本ずつ変えてみないか。流れが詰まっている場所は広く、抜けている場所は狭く」


それは彼自身も自覚のない、古い書物に残された古代農法の理論そのものだった。


「間隔を変える? 変なこと言うな。だが、お前が言うなら試してみる価値はあるか」


村人は笑いながらも、ジークの提案を受け入れた。その小さな調整が、狂った土地のリズムを少しずつ整えていく鍵になることを、この時のジークはまだ知る由もなかった。

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