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第31話 やりすぎたかもしれない

昨日の激闘が嘘のように、村の朝は静かだった。

広場にはひび割れ一つなく、修道院の屋根も(歪んではいるが)無事だ。村人たちも、何事もなかったかのように朝の支度を始めている。


だが、村の入り口、昨日の「境界線」に立ったジークは、目の前の光景に頭を抱えていた。


「……なあ、セラフィナ」


「なあに、ジーク」


「……あいつ、死んだのか?」


ジークが指差した先には、昨日の四天王がいた場所に、どす黒く脈打つ「巨大な紫色の結晶体」が鎮座していた。

生物としての気配はない。ただ、そこには凝縮された高密度の魔力が、不気味な音を立てて渦巻いている。


セラフィナは、少しだけバツが悪そうに視線を逸らした。


「……うん。死んじゃったみたい」


「……嘘だろ。四天王だぞ? 世界を滅ぼす軍勢の幹部だぞ? あんな一撃で、跡形もなく消えるもんなのか?」


「私もびっくりしてるわよ。もっとこう、捨て台詞を吐いて霧のように撤退するタイプだと思ったのに。意外と、物理的な衝撃に弱かったのかしら……」


ジークは深い溜息をついた。

戦場では、強敵を倒せば「勝利」であり、それは軍功として称えられた。

けれど、ここでの「勝利」は、新たな問題の発生でしかなかった。


そこへ、騒ぎを聞きつけたシスターが、眉間に深い皺を寄せてやってきた。


「ちょっとあんたたち、これどうにかしなさいよ」


「どうにかしろって言われても……」


「これ、四天王の魔力の残骸じゃない。放置しておいたら、あと三日で周囲の草木は枯れ果てて、井戸水からは紫色の煙が出るわよ。自然災害級の魔力汚染、いわゆる『魔毒』の源泉よ」


「……まじかよ」


ジークの顔が引きつる。

つまり、あの四天王は、生きている時よりも死んだ後の方が、村の環境にとっては遥かに有害な存在へと成り果てたわけだ。


「倒した方が、面倒だったってことか?」


「……結果的に、そうなっちゃったわね」


二人の間に、昨日の感動的な共闘の余韻は微塵も残っていなかった。

残されたのは、巨大な「魔力のゴミ」をどう処分するかという、あまりにも散文的で、重労働な後始末の現実だけだ。


「……よし、セラフィナ。穴を掘るぞ。魔力を遮断できる深い穴をな」


「ええ……。あれを運ぶの? 重そうだし、触ると服が変色しそうなのだけれど」


「文句を言うな。お前がやったんだろ。ほら、クワを持ってこい」


かつての英雄譚なら、ここで凱歌が上がるところだろう。

だが、今のジークとセラフィナにあるのは、不燃ゴミの出し方を間違えて近所に迷惑をかけてしまった時のような、何とも言えない気まずさと疲労感だけだった。


「……はあ。あいつ、せめて毒素を撒き散らさない死に方をしてくれればよかったのに」


「全くよ。四天王のくせに、後片付けのことも考えられないなんて」


二人はブツブツと不満を漏らしながら、朝食前の貴重な時間を「事故処理」に費やすことになった。

彼らにとっての戦いは、勝って終わりではなく、その後の「掃除」が終わるまで続くのだ。

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