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第29話 村の子供たち

雨上がりの澄んだ空気に、子供たちの甲高い声が響く。

村の広場を通りかかったジークとセラフィナは、あっという間に小さな影たちに包囲された。


「あ! 強いお姉ちゃんだ!」


「ジーク兄ちゃん、遊ぼうよ!」


セラフィナの強さを「かっこいい」と言った子供たちを筆頭に、今や二人は村の子供たちのカリスマ的存在になっていた。


「いいわ。何をして遊ぶの?」


セラフィナが屈んで視線を合わせると、子供たちは口々に「鬼ごっこ!」と叫んだ。


「鬼ごっこ……。対象を追跡し、接触をもって無力化する演習ね。分かったわ」


セラフィナの目が、一瞬で「守護竜」の鋭さに切り替わる。

逃げ出す子供たちの背後で、彼女は地面を蹴った。


「ターゲット確認。接触まで、三、二、一……」


瞬間、銀色の旋風が巻き起こった。

セラフィナは物理法則を無視した制動で子供たちの目の前に先回りし、一人一人の肩を寸分の狂いもなく「タップ」していく。


「捕獲完了。次」


逃げる隙も、隠れる暇もない。

子供たちは口をあんぐりと開けて立ち尽くし、ついには一人の幼い女の子が「……お姉ちゃん、こわい」と半泣きになってしまった。


「こら、セラフィナ! 子供相手に迎撃任務みたいな動きをしないの!」


飛んできたシスターの叱責に、セラフィナは「あ……」と我に返った。

結局、セラフィナは「あまりに本気すぎる」という理由で、その日の鬼ごっこへの参加を禁止されてしまった。


一方、ジークは木の上に引っかかったボールを取ってほしいと頼まれていた。


「よし、任せろ。この程度の垂直障害物、突破は容易だ」


ジークは木を見上げ、最適な足場を瞬時に計算する。

彼は助走もなしに幹を駆け上がり、枝から枝へと猿のような身軽さで跳躍した。

その動きは、かつて戦場で城壁を偵察していた時の隠密行動そのものだった。


「ほら、取ったぞ」


最上階に近い枝に片手でぶら下がり、ジークは涼しい顔でボールを放り投げた。

下で見守っていた男の子たちは目を輝かせたが、それを見た親たちは悲鳴を上げた。


「ジーク! そんな危ない登り方を子供に見せないでちょうだい!」


「真似して怪我をしたらどうするのよ、この馬鹿力!」


ボールを返した功績よりも、教育に悪いという理由で、ジークはこってりと絞られる羽目になった。


夕暮れ時、二人は広場のベンチに並んで座り、ぐったりと肩を落としていた。


「……木登りが、あんなに怒られることだとは思わなかった」


「私もよ。効率的に捕まえるのが正解じゃないなんて、遊びって奥が深いのね」


二人が溜息をついていると、一人の男の子がトコトコと歩み寄ってきた。

彼はジークの膝に小さな石ころを置き、セラフィナの髪に野花を差し込んだ。


「あのお、ジーク兄ちゃん。……明日もまた、遊んでくれる?」


「……。ああ、もちろんだ」


「手加減の仕方を、勉強しておくわね」


二人は顔を見合わせて、小さく笑った。

かつては「英雄」や「守護竜」という、仰々しい名前で呼ばれていた二人。

けれど今、この村で彼らは、ただの「ちょっと力の強い近所のお兄さんとお姉さん」になりつつあった。


それが、何よりも心地よい変化であることを、二人は静かに噛み締めていた。

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