第26話 家をどうするか
婚姻の議を終え、村人たちからも夫婦として認められた二人だったが、一つ大きな問題に直面していた。
いつまでも修道院の、それもひしゃげた屋根の下に居候しているわけにはいかないということだ。
「……さすがに、いつまでもシスターに甘えてるわけにもいかないよな」
「そうね。夜中にシスターが『あら、まだ起きてるの?』なんて顔を出しに来るのも、心臓に悪いわ」
ジークの言葉に、セラフィナが心底嫌そうな顔で同意した。
二人は村の外れにある、今は誰も使っていない古い空き家を譲り受け、そこを自分たちの愛の巣(仮)にすることにした。
だが、ここでも彼らの「規格外」が牙を剥く。
「よし、まずはこの腐りかけた壁の補強からだ」
ジークは気合を入れ、金槌を手にした。
戦場では壊れた柵を直し、泥まみれの防壁を築いてきた経験がある。大工仕事くらい、造作もないはずだった。
「……せりゃっ!」
パァン! という乾いた音と共に、金槌が木材を突き抜け、そのまま背後の土壁まで粉砕した。
ジークが慌てて手を引くと、そこには人の頭が通り抜けられるほどの大きな穴が開いていた。
「……あ」
「ジーク。あなた、家を直してるの? それとも解体業を始めたの?」
背後からセラフィナの冷ややかな声が刺さる。
「いや、違うんだ。ちょっと、ここの釘が固そうだったから、少しだけ力を込めただけで……」
「『少し』の定義を辞書で引き直してきなさい。どいて、次は私がやるわ」
セラフィナがジークを横に追いやり、壊れた壁の前に立った。
彼女は優雅に手をかざし、守護竜としての修復権能を小さく発動させる。
「元に戻りなさい。……『再生』」
淡い銀色の光が壁を包み込む。
次の瞬間、ジークが壊した穴はおろか、家全体の汚れや傷が瞬く間に消え去っていった。
「……おい、セラフィナ。これ……」
「ふふん、完璧だわ」
誇らしげに胸を張る彼女の前には、周囲の古びた村の風景から完全に浮き上がった、ピカピカの「新築」が建っていた。
木材は切り出したばかりのような白さを放ち、窓ガラスは魔法的な透明度で輝いている。
「……セラフィナ。これ、村の中に一軒だけ王都の貴族の別荘が建ってるみたいだぞ」
「あら、綺麗でいいじゃない」
「ダメだよ! 目立ちすぎるし、何より『生きてる感じ』がしない。こんなピカピカじゃ、落ち着いて飯も食えないだろ」
ジークに指摘され、セラフィナはハッとしたように周囲を見渡した。
隣の家の煤けた壁や、苔の生えた屋根。自分たちの家だけが、まるでそこだけ時間が切り取られたかのように新しすぎるのだ。
「……『普通の加減』って、農業より難しいわね」
「全くだ。古すぎても壊れるし、新しすぎても馴染まない」
二人は結局、シスターを呼んで「ちょうどいい古さ」に見えるように加工する術を教わる羽目になった。




