第25話 畑をやろう
婚姻の議も終わり、村の一員として腰を据える決めたジークは、朝一番に高らかに宣言した。
「いつまでも食わせてもらってるわけにはいかない。今日から俺も働くぞ!」
意気揚々と向かったのは、村の外れにある共同の畑だった。まずは基本の農作業から覚えようと、村の老人にクワを借りる。
「いいかジーク。土を柔らかくほぐすように、丁寧に耕すんだぞ」
「分かった。任せてくれ」
ジークはクワを構え、力強く振り下ろした。
だが、次の瞬間、ガツン! と地響きのような音が鳴り響いた。土はほぐれるどころか、クワが深々と地面に突き刺さり、周囲の土がV字型に激しく跳ね上がる。
「……おい、ジーク。何をしてるんだい?」
村人の困惑した声に、ジークは真顔で答えた。
「え? 掘るんだろう? 敵の砲撃を凌ぐには、最低でもこれくらいの深さの塹壕が必要で……」
「これ畑だよ! 誰が敵から身を隠すための穴を掘れって言ったんだい!」
戦場での「掘る」という行為が染み付いて離れないジークに、村人の鋭いツッコミが飛ぶ。
それを見ていたセラフィナが、やれやれと首を振って前に出た。
「ジーク、代わりなさい。こういうのは加減が大事なのよ」
「そうか。悪い、頼むよ」
セラフィナはジークからクワを受け取ると、ふんふんと鼻歌を歌いながら土に向き合った。
「見てなさい。優しく、均等に……えいっ!」
彼女が軽く手首を返した瞬間、爆風が吹き荒れた。
あまりの魔力の余波と怪力に、土はほぐれるどころか微塵切りに粉砕され、空高く舞い上がる。舞い上がった土が落ち着いた頃、そこにあったのは「ふかふかの畑」ではなく、地盤が強固に固められ、草一本生えていない見事な更地だった。
「……できたわ。とっても平らよ」
満足げに胸を張るセラフィナの背後で、村人たちが真っ青な顔をして駆け寄ってきた。
「待て! 待て待て! お前たち、もういい! 頼むからクワを置いてくれ!」
「どうしたんだ? まだ半分も終わってないぞ」
「これ以上やられたら、村の食料供給が死ぬ! お前らのそれは『耕す』じゃなくて『整地』とか『破壊』なんだよ!」
村人たちに本気で止められ、二人は手に持った農具を没収された。
かつて戦場を支配した力も、村を守った守護竜の権能も、繊細な野菜を育てる生活においては、ただの「不器用な暴力」でしかなかった。
「……俺たち、生活に向いてないのか?」
「……そんなことないわ。ただ、この土柔らかかっただけよ」




