第22話 ぎこちない日常
四天王との激闘から数日。
村は表面上、以前と変わらぬ平穏を取り戻したように見えた。
破壊された広場は修復が進み、人々の笑い声も戻りつつある。
だが、修道院の中に流れる空気だけは、以前とは決定的に違っていた。
「……おはよう、セラフィナ」
ジークが恐る恐る声をかけると、朝食の準備をしていた彼女は一瞬だけ肩を震わせた。
「……ええ、おはよう。ジークさん」
「……さん?」
ジークは思わず絶句した。
以前のような、距離の近い、少し小馬鹿にしたような呼び捨てではない。
ましてや、あの夜に囁いたような甘い響きでもない。
そこにあるのは、丁寧すぎて他人よりも遠い、冷たい壁だった。
彼女は決してジークと目を合わせようとはせず、必要最低限のこと以外は口にしようとしなかった。
明らかに避けられている。
そんな二人の様子を見て、事情を知らない村人たちは勝手な推測で盛り上がっていた。
「おいおい、早くも夫婦喧嘩か?」
「昨日の夜、ジークが何か粗相でもしたんじゃないのか?」
「まさか婚姻の議、やり直しなんて言わないだろうな。修羅場か、修羅場なのか!?」
ラブコメのような野次が飛び交うが、当人たちの空気は笑い飛ばせるほど軽いものではなかった。
ジークはどう接していいか分からず、ただ困惑するばかりだった。
だが、ジークの中にも変化はあった。
これまでは、彼女に「守られている」ことに、どこか無意識の安心感を抱いていた。
だが、今は違う。
(あいつ……俺たちが笑ってる間も、ずっと一人であんな戦場に立ってたんだよな)
あの冷酷なまでの戦いぶり。
あれは、一朝一夕で身につくものではない。
何度も、何度も死線を潜り、たった一人で「守護」という呪いを背負い続けてきた証。
その孤独の重さを知ってしまった今、以前のようにただ無邪気に甘えることはできなかった。
その、耐え難いほどぎこちない空気をぶち壊したのは、やはり村人たちだった。
一人の老婆が、作業をしているセラフィナの元へ歩み寄ったのだ。
「セラフィナ様。これ、うちで採れた一番いい野菜だよ。食べておくれ」
「……え? あの、私、こんなものをいただくわけには……」
セラフィナが慌てて辞退しようとすると、他の村人たちも次々に彼女を取り囲んだ。
「そうだ、セラフィナ。あんたがいなきゃ、この村はとっくに消えてたんだ」
「いつも影で俺たちを守ってくれてたんだろ? 本当に、本当にありがとうな」
「守護竜様が俺たちの幼なじみだなんて、最高の誇りだよ!」
セラフィナは、その場に固まった。
“知られてはいけないこと”だと思っていた。
自分の本当の姿を知れば、皆は怯え、自分を化け物として排除するに違いない――そう信じ込んでいた。
だが、目の前にあるのは、恐怖でも拒絶でもなかった。
七年間、彼女がその背中で守り続けてきた人々からの、ありのままの「感謝」だった。




