第21話 見せたくなかった私
セラフィナが本来の力を解放した瞬間、大気に満ちていた魔力の質が完全に変質した。
それは温かな人間の魔力とは対照的な、冷たく、どこまでも澄み切った暴力の奔流。
四天王と互角、いや、それを凌駕するほどの圧力。
だが、その戦い方は、ジークが知る「戦闘」とはあまりにもかけ離れていた。
そこに熱い感情は一切ない。
ただ効率的に、最適解を導き出し続ける「処理」のような挙動。
自分の肉体が切り裂かれ、損傷を受けることすら計算の一部であるかのように、彼女は捨て身の構えで攻撃を繰り出す。
相手を「強敵」として敬うことも、「仇」として憎むことすらない。
ただそこに在る「排除すべき対象」として、機械的に、冷酷に、その命を削り取っていく。
(……これは、強さじゃない)
ジークは戦慄した。
それが、あまりにも悲しい姿に見えたからだ。
誰にも頼らず、誰にも知られず、ただ一人で何百、何千という絶望を屠り続けてきた人間だけが辿り着く、精神の壊れ方。
誰にも守られなかった彼女が作り上げた、最強で最弱な防壁の姿だった。
四天王が断末魔を上げる暇もなく消滅し、戦場に不自然な沈黙が降りた。
戦闘が終わっても、セラフィナはジークの方を振り向くことができない。
銀色の髪を夜風になびかせ、血の匂いを纏った背中が、微かに震えていた。
「……ごめんなさい」
「こんな私、見せたくなかった」
「きっと……嫌われると思ってたから。気味悪いって、思われるのが怖かったから」
彼女にとって「守る」という行為は、誰にも理解されない孤独と、美しさとは無縁の冷酷さを引き受けることと同義だったのだ。
化け物のような力を持つ自分が、愛されるはずがない。
そんな呪いのような確信が、彼女の言葉を震わせていた。
だが。
ジークは動かない足を引きずりながら、一歩、彼女との距離を詰めた。
「違う」
少し考えてから、彼は言い直した。
戦場での経験も、付け焼き刃のレベリングシステムも関係ない。
一人の、十七歳の少年としての、不器用な言葉で。
「……今まで、ずっと一人で守ってくれて、ありがとう」
それは、最強の守護竜への称賛でもなければ、圧倒的な力への憧れでもなかった。
ただの、ありふれた、真っ直ぐな「感謝」だった。
「……え?」
セラフィナが、初めて守る側の責任から解き放たれ、救われる側になる瞬間。
彼女は泣き方すら忘れてしまったかのように、ただ呆然と立ち尽くし、ジークの顔を見つめることしかできなかった。




