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第20話 守っていたのは

セラフィナがジークの前に立った瞬間、大気が凍りついた。

それは単なる魔力の高まりではない。生物としての格が、根底から書き換えられたような圧倒的な圧迫感。


「……セラフィナ?」


ジークは震える声でその名を呼んだ。

だが、返ってきたのは聞き慣れた彼女の声ではなかった。

背後に控える仲間たちも、本能的な恐怖に身を竦ませる。


(……これは、いつもの彼女じゃない)


ジークが知っている、お調子者で、少し意地悪で、温かい幼なじみの気配は、そこには微塵も残っていなかった。

四天王もまた、初めてその余裕の笑みを消し、忌々しそうに目を細める。


「……なるほど。村を守っていた『影』の正体は、貴様だったか」


四天王の言葉に、ジークの脳裏をいくつもの違和感が駆け巡った。

村人が囁いていた魔族の噂。不自然に薙ぎ払われた倒木。そして、この辺境の村が、なぜ魔王軍の残党に襲われず平和を保っていられたのか。


その答えは、あまりにも残酷で、痛切だった。


セラフィナはこれまで、ジークが戦場で戦っている間も、そして帰ってきてからも、村を襲おうとする魔族を一人で、密かに排除し続けていたのだ。

今日の婚姻の儀が狙われたのも、偶然ではない。彼女という「守護竜」をおびき出すための、確信犯的な罠。


ジークたちが、そして村人たちが「平和な日常」だと思っていた時間は、全て彼女がその細い肩で、凄惨な戦場を村の外側へ押し出していた結果だったのだ。


「……あなたに、こんなものを背負わせたくなかった」


セラフィナが、振り返らずに静かに呟いた。

その背中には、ジークに向けられるはずの甘えも優しさもない。


「こんな汚れ仕事、あなたにだけは……知られたくなかったのに」


彼女が指先を四天王に向けると、銀色の閃光が奔った。

それは魔法というにはあまりにも直感的で、暴力的。

敵の防御魔法ごと肉体を削り取るような、冷酷で容赦のない一撃。


ジークは動けなかった。

四天王を圧倒する彼女の戦い方は、まるで死神の鎌のように無機質で、美しく、そして悲しい。


(俺は……守り抜くなんて、どの口で言ったんだ)


助けられていたという現実。

そして、七年間、誰にも頼らずに戦い続けてきた彼女の孤独の重さ。

ジークはその場に膝をつき、自分の無力さと、彼女の背負っていたものの大きさに、言葉を失うしかなかった。

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