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第16話 早すぎた婚姻の議

結局、一睡もできないまま朝を迎えた。

隣で無防備に寝息を立てるセラフィナの体温と、窓から差し込む容赦ない朝日。ジークはバクバクと鳴り止まない心臓を必死に抑えながら、重い体を引きずって食堂へと向かった。


食堂のテーブルには、すでにシスターが座って茶を飲んでいた。その鋭い眼光がジークを捉える。


「……おはよう、ジーク。随分と顔色が悪いわね。夜更かしでもしたのかしら?」


「あ、いや……その、色々と話が弾んでしまって」


ジークが目を泳がせながら答えると、遅れて入ってきたセラフィナが、こともあろうにジークの隣にべったりと座った。


「そうよ、シスター。七年分も溜まってたんだもの。話すだけじゃ足りないくらいだったわ」


ジークは噴き出しそうになった。セラフィナの言い草は、あまりにも誤解を招く。

絶対に怒られる。シスターの鉄拳が飛んでくる。そう身構えてギュッと目を閉じた。


「……そう。そうだったのね。ようやく二人の決心がついたのね」


だが、返ってきたのは意外にも、深く、慈愛に満ちた溜息だった。

シスターは目元をハンカチで拭うと、パチンと力強く手を叩いた。


「素晴らしいわ! 待ちくたびれた甲斐があったというものよ!」


「え……? 怒らないのか?」


「何を言っているの。村のみんなも、どれだけこの日を待ち望んでいたか! セラフィナが守護竜としてこの村を支えてからというもの、あんたが帰ってきたらすぐにでも、って話になっていたんだから!」


シスターは立ち上がるや否や、勢いよく窓を開けて外にいる村人に向かって叫んだ。


「みんな! 決まったわよ! 今日の昼、婚姻の議を執り行います!」


その瞬間、修道院の外から地鳴りのような歓声が上がった。


「待ってましたあぁぁ!」


「ジーク、よくやったぞ!」


「今すぐ広場の準備をしてくる、酒も肉も全部出せ!」


村人たちが一斉に走り出す騒がしい音が聞こえてくる。ジークとセラフィナは、口を半開きにしたまま完全に固まっていた。


「……え?」


「婚姻の議って……今日?」


二人の困惑を余所に、村人たちが次々と修道院に飛び込んできて、ジークの服を無理やり着替えさせようとしたり、セラフィナに花冠を載せたりと大騒ぎを始めた。


「ちょ、ちょっと待てえええええ!!」


「心の準備がまだ一ミリもできてないんだけど!!」


ジークの叫びは、祭りの準備を始める村人たちの高笑いにかき消されていった。

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