第15話 守護竜の見る夢
夕食を終え、修道院に夜の静寂が訪れた。昼間の重労働と、村人たちからの予想外の称賛。心地よい疲労感があるはずなのに、ジークの脳裏にはセラフィナが耳元で囁いたあの言葉がこびりついて離れなかった。
「……本当に入るのかよ。ここ」
ジークは、かつて二人で使っていた狭い寝室の戸口で立ち往生していた。修道院の建物は彼女の巨体で押し潰され、まともに使える部屋は限られている。シスターからは「昔みたいに二人で使いなさい」と淡々と言い渡されていた。
「何を今さら。七年前までは当たり前だったじゃない」
部屋の中から、セラフィナの涼やかな声が返ってくる。彼女はすでにベッドに腰掛け、月明かりを浴びながら銀色の髪を梳いていた。その姿はどこまでも神秘的で、昼間のあの巨大な龍と同一人物だとは到底信じられない。
ジークは覚悟を決めて部屋に入り、彼女から少し距離を置いてベッドの端に腰を下ろした。
「……さっきの続き、話せよ。お前がその、ドラゴンになった理由とか、この七年に何があったのか」
ジークの問いに、セラフィナの手が止まった。彼女は窓の外、静まり返った村を見つめ、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「ジークが行ってしまってから、すぐにあの魔族たちが来たわ。村の人たちは生身で戦って、次々に倒れていって……」
「……ああ、俺もさっき思い出した。あの地獄を」
「シスターも傷ついて、修道院も壊されて。その時、私の中にあった何かが弾けたの。この村を守らなきゃ、ジークが帰ってくる場所を失くしちゃいけないって、それだけを強く願った」
セラフィナがゆっくりとジークの方を向き、その黄金色の瞳で彼を射抜く。
「気づいたら、私は空を飛んでいたわ。あいつらを追い払って、村の周りに結界を張って。それからずっと、私はこの村の守護竜として生きてきたの」
あまりにも壮絶な独白。ジークが息を呑むと、彼女は不意に表情を和らげ、いたずらっぽく距離を詰めてきた。
「おかげで、他の男と夫婦になる暇なんて一秒もなかったわよ。……ねえ、ジーク。責任、取ってくれるんでしょ?」
「せ、責任って……!」
「私の正体を知ったからには、もう逃がさないんだから」
彼女はそう言うと、ジークの腕をぐいと引っ張り、そのままベッドに押し倒した。
「ちょ、おい! セラフィナ!」
「静かに。シスターに怒鳴られたいの?」
至近距離で見つめ合う二人。ジークの心臓は、レベリングシステムの強化を以てしても耐えられないほどの速さで鼓動を刻んでいた。




