享年0歳
彼は生まれた赤子を見ていた。亡霊として。
彼は本来生まれるはずだったのだが、魂が宿る直前寸前に押しのけられ、魂は宿らずに空へ還り、亡霊として生まれた。
喚き泣き散らしても誰も宥めない。
誰も見てくれない。
生まれた子供はすくすく育っていくのを、彼はずっと見ていた。干渉も何もできずに彼も育った。
彼は思った。
何かが違えば、何か少しでも変われば、あの身体は僕のものになっていたのかと。
生まれて育って、愛を受けて愛を与えられる存在になっていたのかと。
しかし、そんなことはできない。亡霊としてしか育つことができない。誰にも触れられない、悟られない存在として。
しかし、代わりに生まれたその子を見ていると、何か変な感情が湧いた。
よく泣き、よく笑い、よく眠るその子は、うざったく、しかし愛しかった。
時々、亡霊は泣いている彼を包んだ。
彼は亡霊の存在には気づかなかったが、なぜか暖かかった。
亡霊は見守り続けた。
そしてそして、彼は大人になり、泣くこともなくなった。
亡霊は「もう見守る必要もないだろう。僕の存在は不必要だろう」と思った。
そして亡霊は彼の元から去った。
それから数年後、彼の両親が亡くなった。交通事故だった。
彼は嘆き苦しみ、すべてどうでもよくなり、飛び降りて死のうとした。
その時に、彼の携帯に電話が鳴った。
彼は驚いた。なぜなら、携帯は電源が入っていなかったからだ。
慌てて出ると、電話の主は言った。
「まだ来てはいけない。まだ君は一人ではない」
なぜか彼はその声に覚えがあった。小さい頃、幼い頃の記憶の隅にあった。
「あなたは誰?」と彼は聞いた。
電話の主は言った。
「君の一部だよ」




