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田舎から東京見物に来ただけなのに、謎の大型ビジョンが現れて「宿題を終わらせないと出られない部屋」に遭遇した僕たちの話。  作者: ゆかれっと
SP「はぴはろマンホール」

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7/7

ハッピー・ハロウィンの行方

前回のつづき(にかいめ)

 ハロウィンが終わってしばらくしたころ、東京から『F機関』を名乗る人物がやってきた。

 いかにも公務員って感じの黒スーツ。きちんとネクタイも締めて、足元はお高そうな革靴だ。髪は黒髪で、肩くらいの長さだが、中性的な顔立ちをしており、男なのか女なのか、はっきり判別ができなかった。

「お話は伺っています。有栖川七星さんですね」

「はい……」

 誰から聞いたのだろう、と疑問に思う間もなく、その人は僕に名刺を差し出す。

「申し遅れました。わたくし、F機関の早蕨さわらびあおいと申します」

「はあ」

「で、そちらは、ご友人?」

 早蕨さんが辺りを見回す。下校途中のいまは、杏実や詩乃ちゃんを連れてきている。陽大や瑛人君、彩春ちゃんは、放課後も部活の練習があるから、いま、ここにはいない。

「友人というか、高校の後輩ですね。ひとりは義理の姉でもあるんですけど」

「有栖川杏実さんはどちらですか?」

「はい」

 杏実が遠慮がちに手を挙げると、早蕨さんは、食い入るように身を乗り出して言った。

「では、早速お話を伺いたいのですが」

「ちょっと待ってください」

 止めたのは詩乃ちゃんで、早蕨さんの姿を頭の先からつま先まで怪訝けげんそうに見つめている。

「あなた、いきなり来て、なんなんですか。そもそもF機関って?身元の怪しいかたに事情を打ち明けるつもりはありません。直接話があるのは友人たちだけのようですけど、そういうことなら、友人たちにも話なんかさせません。トラブルに巻き込まれるのはごめんですからね」

 さすが、詩乃ちゃん。しっかりしている。僕も一瞬流されかけてた。

 考えてみればそうだ。F機関がなんなのかわからないのに、詳細を打ち明けるのはおかしい。場合によっては新手の詐欺かもしれないし……。

「失礼いたしました。F機関は政府の特務機関です。主に、人類史の記録や管理を担っております」

 意味がわからないけれど。

「特務機関ですから、各行政機関や企業とは表立った関係は持っていません。ごく一部の限られた人々のあいだでしか知られていませんから、あなたがたがご存知ないのも訳はないでしょう。でも、ちゃんと存在はするんですよ、そういった機関が」

 なんか、1年ほど前にも同じようなことがあったような……。

 もう遠い昔のことだ。

「Fってことは、AとかBもあるんですか」

「さあ。それはちょっと存じ上げませんが」

 F機関の『F』は、『Fictionフィクション(虚構)』のFだという。

「表沙汰にできない案件のうち、いわゆる超常現象を扱う組織です。いまの科学では実在を証明することができない、Fictionを専門に扱う特務機関となっています。人知を超えた異常は、あらゆる手を使って、Nonfiction(なかった)に置き換える(ことにする)――存在しないものが存在するなんて、あってはならないことですから」

 ちょっといいですか、と言われて、早蕨さんは腕にはめたゴツい腕時計を目の前にかざす。なんだ。なにをしているんだ?

「……ありがとうございます。大体の詳細はわかりました」

「なにをしたんですか?」

「あなたがたの行動ログを、ほんのちょっと覗いただけです。これに関しては企業秘密なので、あまり深く聞かないでくださいね」

「はあ」

 なんかまた訳わからない組織が出てきた。

「大体の内容はわかりましたが、一応規則ですので、いくつかの質問に答えていただきます。ああ、おふたり同時で構いませんよ」

「はあ」

 いわゆる、聞き取り調査、というやつだ。

「では、1問目。お名前を教えていただいてもいいですか」

「有栖川七星です」

「あたしは、有栖川杏実」

「ありがとうございます。続いて2問目、家族構成を教えてください」

「僕と両親、それから、今年の2月に海外の親戚の家から引き取った義理の姉の杏実がいます。4人暮らしです」

「3問目、ご職業は……」

「高校生……だから、この場合『学生』って言えばいいのかな。はい。学生です。杏実も同様」

 この辺は基本情報だから、簡単な質問だ。

「では4問目。ここからが本題です。子どもになったときの状況を教えてください」

「ええっと、あれはハロウィンの日だったから、10月31日で……時間は登校中で、たぶん、朝の8時くらい?場所はうちの高校の前の歩道です。ほかの友人と一緒にスマホの動画を見ていて、不思議なマンホールがあるって聞いてちょっと探してみたら、たまたま足元にあって。直感的に、あ、踏んじゃいけない、って思ったんですけど、歩道にあって絶対踏むなというのも難しいじゃないですか。で、えっと、その……はい……気づいたら踏んでました」

「ふむ。それで?」

「踏んだあと、もくもくと白い煙が立ち込めてきて、煙が消えたと思ったら、子どもの姿になっていました。僕は子どもになる前のこともよく覚えていたし、子どもの姿になったあとも『17歳の高校生』だと思っていましたが、杏実ともうひとりの友人は、まったく覚えていなかったみたいで。自分のことを、7才、8才の子どもだと思っているようでしたね」

「では、5問目いきます。戻ったときの状況を教えてください」

「あれは昼休みでしたから、大体、お昼の12時半ごろです。場所はうちの高校の学食。遠くのテーブルにもほかの生徒たちがいましたし、近くにも、友人たちがいました」

「6問目です。子ども化していたあいだのことを教えてください」

「えっと、それは……」

 僕が答える前に、杏実が、元気よく言った。

「ゼンゼン覚えてない!!あの、まるいの、踏んだのは覚えてるよ。でも、そのあとのことはゼンゼン覚えてないの。気づいたら、いつのまにか移動してて、あれ、あたし、なんでガッコーにいるんだろ?って思ったもん」

 うん。自慢げに答えることじゃないね。

「それは同じようにマンホールを踏んだ、もうひとりの友人も同じでした。覚えていたのは僕だけです。目撃していたほかの友人が言うには、個人差があるんじゃないか、とか言っていましたけど……」

「どうやってもとの姿に戻ったのですか?」

「それは……購買部に売っていたチョコレートバーを食べて……」

 瑛人君の、威勢のいい『おなかがすいたらスニッ○ーズ!!』のセリフを思い出す。いまも笑いそうになったが、なんとかこらえた。

「お菓子を食べたら、もうじゅうぶんだ、という気持ちになって、また白い煙が出てきたんです。で、煙が消えたら、もとの姿に戻っていました」

「……なるほど。よくわかりました。ご協力ありがとうございました」

 早蕨さんは、それだけ言うと、帰って行った。

 なんだったのだろう。

 また、おかしなことに巻き込まれなければいいけれど。

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