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田舎から東京見物に来ただけなのに、謎の大型ビジョンが現れて「宿題を終わらせないと出られない部屋」に遭遇した僕たちの話。  作者: ゆかれっと
第二の異常「交換ボックス」

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3/7

「エイト」 は プレミアチケット を てにいれた!

当初はチュートリアルのみの単発参加の予定でしたが、新作できたので投稿します! 案件その2「交換ボックス」編です。

今後も調子が良かったら更新するかも……

「当たった!当たっちゃったよっ!」


 何が、と思う。

 友人の瑛人えいと君は、いつも言葉足らずだ。いまだって、そう。『当たった』だけでは何が当たったのかわからない。

「どうした?タンスに足の小指でもぶつけたか?」

 陽大ようたが茶化すように言う。足の小指か……アレ痛いよね~。

「違うよ!チケット、チケットが当たったの!」

「チケット?」

 聞けば、瑛人君は、テレビや雑誌などでも人気の、あるアーティストの大ファンなのだという。コンサートは常に売り切れ必至。公式ファンクラブにも入っているのだが、それでもチケット難で、現場入りするのは至難の業だとか。

「それが、ついに当たったんだよ!人気の日本武道館公演!しかも1Fのアリーナ席!ドセン!マジですごくね!?たぶん、一生運を使い果たしたと思うわー」

 ほう。それはすごい。何がすごいのかはわからないけど、瑛人君の興奮ぶりを見ていればわかる。

「へえ、すごいじゃん」

「でしょ!?でさ、こっからが本題なんだけど、おまえらも一緒に行かね?」

 ん?どういう意味だ。

 たったいま、自分で『チケット難』だって言っていなかったか?

「いや、チケットがないと行けないだろ……」

「チケットならあるぜ。ここに」

「いや、それは瑛人君の分で……まさか!?」

「そう。その、まさかよ」

 瑛人君は、わかっている、という風に、チケットをひらひらさせた。

 3枚。

 確かに、3枚ある。

「これ、ファンクラブ会員以外も行けるチケットだから、おまえらにも見てもらいたいと思って、3枚申し込んでたわけよ。それが逆に良かったのかもな。非会員を誘えば、現場で生のパフォーマンスを見て、いずれは会員になってくれるかもしれないじゃん?いわば『布教』ってやつよ」

 つまり。瑛人君は、最初から僕たちを誘おうと思って申し込んでくれたわけだ。

「でもさ、俺らが行けないって言ったら、どうするつもりだったわけ?」

「そんときはそんときだろ。適当に、行ってくれそうな友人を探すさ」

 要は、瑛人君が『代表者』だから、同行者は誰でもいいということ。それでも真っ先に僕らを誘ってくれたのは、ありがたいというか、なんというか。こんなこと言うの、ちょっと照れくさいんだけど。

「で、行くの、行かないの」

「行くよ」

「俺も」

 ここまでされて、行かない理由がない。ちょうど、予定もなかったし。



 ただ。

 こうなると、面倒臭いのが杏実あみのことで……。



「なにそれっ!?聞いてないよっ。あたしも!あたしも行く!!」

 ほらね。やっぱり。杏実ならそう言うと思ってた。

「それが、ダメなんだよ。チケットは3枚しかないんだから。当選した本人の瑛人君と、同行者2名――陽大と僕。杏実は行ったって入れないよ」

「なら、ヨータに頼む!ヨータなら、代わってくれるでしょ!?」

 なるほど。そうくるか。

「ダメに決まってるでしょう。陽大だって楽しみにしてるんだよ。それに、杏実、このアーティストのこと、知らないでしょう?興味もないんだろ?」

「ない」

 即答かよ。

「だったら、なおさらダメ」

「いじわるーーーっ」

 杏実は、わかりやすく膨れっ面をした。

 でも、ダメなもんはダメなんだよ。厳しいようだけど、いまだに()()の生活が抜けない杏実にとっては、きっちり日本の習慣を身に着けてもらう必要がある。たとえば、宿泊先のホテルのこととか。

「僕たち3人なら、男ばっかりだからいいけれど、そこに杏実が入るとなったら、男女混合になってしまう。僕らは未成年だから男女同室というのはまずいだろう。杏実、ひとりでホテル泊まれるか?無理だろ?」

「ううう……」

 もともと頭の良くない杏実を説き伏せるのは簡単だった。ひとしきり説明して、どうにもできないことがわかると、杏実はあっさりと身を引いた。


 よし。第一関門クリアー。


 滞在先のホテルも、前回のオープンキャンパスの例があるので、あっさりと親の同意は取れた。今回は男ばかりだから、ホテル側の承諾も取りやすい。やっぱり『未成年だけ』で『男女混合』ってなると、いろんなことを考えなきゃいけなくなるんだろうな。大人ってむずかしい。

 というわけで、第二関門もクリア。

 前乗りして、約6時間かけてふたたび東京に向かう。例のV Tuber――は、さすがにもういないよな?ゲームだって、きっとあれでもう終わりだよな?

 脳裏をよぎる一抹の不安。まだひと月ほどしか経っていない。『あれ』が、もし『あれ』と同類のものなら、たったこれだけの日数で満足するはずがない。


 次は、どんな『ゲーム』を仕掛けてくるのか――。


 おそらく今回の舞台は東京全域。東京に行けば、また何かしらの異常事態に巻き込まれる可能性は高い。

 けど、だからといって、いまさら東京行きを取りやめるつもりはなかった。

 なにより、瑛人君がものすごく楽しみにしているんだ。それに、陽大も。もちろん僕だって。


「……ないっ。ない、ない、ない!!!」


 瑛人君が、カバンの中をあさって何かを探している。なにがないんだ?

「何がないの?」

「ないんだよ。チケットが。今朝、確かにこのカバンの中に入れたはずなのに」

 それって。もしかして。

「どっかに落としてきたってこと?」

「ヤベエじゃん。チケットがないと、会場には入れないんだろ?」

「どこで落としたんだろ……奥のほうに入れてたし、簡単に落ちることはないはずだけどな……」

 瑛人君は真っ青になっている。

「落ち着いて。奥のほうに入れてたんなら、カバンの奥へ奥へと入り込んじゃってるだけかもしれないよ。もう一度、落ち着いてゆっくり探してみよう」

「うん……」

 それで、カバンの中身をひとつひとつ取り出して、確認してみた。けど、その()()()()()のチケットはどこにもなかった。

「うちに置いてきた、ってことはない?」

「絶対ないよ。確かに入れたもん。俺、3回も確認したんだぜ?」

「そっかぁ……」

 じゃあ、やっぱりないのか。

 どうする?このままあきらめて帰る?

 いや。それはないだろ。ホテルだって取っちゃってるし。

「ま、なかったらなかったで、東京観光ってことで。気持ち切り替えて楽しもうぜ」

 さすが陽大。ポジティブシンキング!こいつの、こういうところは本当羨ましいと思う。落ち込んでいたはずの瑛人君も、それを聞いて、ちょっとだけ気が楽になったみたいだ。

「……そっか。そうだよな。せっかくまた東京に来られる機会ができたんだし!楽しまなきゃ損だよな!」

 東京には、コンサート以外にも楽しむところはたくさんある。どうせなら、思いっきり楽しませてあげたい。渋谷に原宿、浅草、上野に秋葉原、東京タワーやスカイツリーだって。さてと。どこがいいかな?



 それから、ホテルに着いて束の間の休息。

 コンビニ弁当をかき込みながら(東京は僕らのいる地元よりも平均して物価が高いので、経費節約だ)急遽変更になった明日の予定を練る。

「瑛人君は、どこか行きたいところ、ないの?原宿の流行りのお店に行きたいとか。浅草寺や上野動物園に行ってみたいとか」

「そうだなー…」

 彼は、少し考えたあとで、ハッと思いついたようにこう言った。

「メイド喫茶!メイド服を着たかわいい女の子が、いらっしゃいませ~、ご主人さま~、って出迎えてくれるんでしょ!?一度行ってみたかったんだよね~。ほら、俺らの地元にはこういうお店ってないじゃん?」

 ふむ。瑛人君らしいというか、なんというか…。

「じゃあ、アキバを中心に回るか?アキバといえば、激戦区といわれるカレーもいいよなー。家電量販店巡りもいいし!あの、なんて言ったっけ、瑛人が一時期ハマってたアニメのグッズなんかもあるかもしれないよな!?」

 よし。じゃあ秋葉原で決まりか。

 日本武道館へのアクセスを考えて、水道橋付近にホテルを取っていたから、水道橋から秋葉原まではJR総武線で2駅だ。

 仕切り直した明日の予定も決まって、ひと安心して就寝準備に取り掛かる。交代でシャワーを浴びて、歯を磨いて。さ、遅くならないうちに布団に入らなくっちゃ。


「おやすみー」

「おやすみ!」

「おやす……待って、あれ、なに!?」


 瑛人君が突然声を上げる。なにって、なんだよ?

「箱……?ねえ、こんなところに『白い箱』なんて置いてあった?」

 彼が指差した先にあったのは、ティッシュ箱くらいの大きさの、小さな白い箱だった。パッと見た感じ、木箱のように見える。持ち運びできるように取っ手がついていて、ご丁寧に、鍵まで掛けてあった。

「あれ?開かないよ?」

 開けるための鍵がないのだから、当然である。でも、瑛人君はなんとかこじ開けようと四苦八苦している。挙句の果てに、その辺にあった椅子を持ち上げて力ずくで壊そうとするものだから、僕と陽大は慌てて止めた。

「おいおい…なにやってんだよ…」

「そうだよ。ホテルの備品だったらどうするの?壊したら、弁償させられるかもしれないんだよ!?」

 椅子をゆっくりと下ろす。そう。どうか早まらないでくれ。

「あ。まって。なんか書いてある」

 瑛人君は、白い箱を持ち上げると、箱の上に貼られていた薄い紙をぺらりとはがして言った。


【新曲の振付を完コピせよ】


 なんの新曲かと言われたら、明日、僕たちが観に行くはずだった人気アーティストの新曲である。歌いながら激しいダンスもこなす彼らの曲を、完コピしろだって!?

 確か、メディアの紹介では『史上最難関』と言われていたような……。

 クラスの中では足が速い僕だけれど、ダンスに関してはズブの素人だ。それは陽大や瑛人君だって同じはず。

「これ、無理ゲーじゃね?」

「でもさ、やるだけやってみようよ!もしかしたら踊れるかもしれないし!」

 その自信はいったいどこから来るんだ……。瑛人君ってちょっとこういうとこがある。で、無理だ無理だと言っていた陽大も、影響されて「できるかも」とか思い始めるのだ。

「ま~、瑛人がそう言うんなら……やってみるか」

 ほらね。やっぱり。

「そうは言うけど、当てはあるの?めちゃくちゃ難しいんでしょ?」

「そこは、もう、()()()()()()()の出番よ。ミュージックビデオはもちろん、Live映像とか、『踊ってみた』動画とか、あとはダンサー系You Tuberが出してるダンス解説動画とか。ポイントを押さえて練習すれば、きっと、なんとかなるんじゃね?」

 ようつべ――とは、You Tubeのことである。ローマ字入力でYou Tubeと打つと、ひらがなの『ようつべ』に変換されてしまうことから、ある界隈では、こう呼ばれているらしい。陽大、時々変な言葉知ってるんだよな。まあいいけど。


 3人で片っ端から動画を見まくって、それを頭に叩き込んで、身体に覚えさせること約3時間……既に時刻は深夜2時。明日のことを考えたら、これ以上の夜ふかしはマズい。それに、身体のほうもそろそろ限界だった。

「ちょっと休憩しようぜー」

 ベッドの上にバタリと倒れ込んだ瑛人君が、ちらりと陽大のほうを見ながら言う。

「やるだけやってみよう――そう言ったのはどこのどいつだよ?おまえ、全然できてなかったじゃん。そんなんじゃ、いつまで経っても踊れるようにはならないぜ?」

「でもぉー…」

 やるだけやって、できなかったら諦めるってことじゃないのか。いつのまにか、瑛人君より陽大のほうが本気になってしまっている。

「箱のことは諦めて、もう寝ようよ。明日のこともあるんだし」

「七星はそれで諦めきれんの?ここで完コピできれば、この謎の箱の中身が分かるかもしれないんだぜ?」

 俺は知りたいよ、と呟く。

 いや……箱の中身がそんなに大事かな……?もともと僕らの持ち物じゃないんだし。陽大ってば、まるで、宝探しに夢中になる小学生男子だ。

「……とにかく、僕はもう寝るよ。おやすみ」

 そんなに踊りたきゃ勝手にしろ。僕はそう吐き捨てて、無理矢理布団をかぶった。瑛人君には悪いけれど、これ以上、陽大の『お遊び』には付き合ってられない。僕は高校生男子で、小学生男子ではないのだから。




 翌朝。

 目を覚ますと、床に倒れ込んでいる、ゲッソリした表情の陽大と瑛人君が目に入った。

「おはよう……ど、どうしたの!?」

 昨夜、なにがあったのか。訊くのが怖い気もするが、僕は恐る恐る訊いてみた。

「お、おはよ……七星……。それがさ……」

 陽大の話によると――。


「え、ええっ!?じゃあ、朝まで振りを覚えてたの!?」


 話を聞いた瞬間、僕は思わず声を上げてしまった。

 だって、あのあと、ずっとダンスの振り付けを覚えていて、一睡もしてないだなんて……。

「大丈夫?今日、秋葉原行く予定になってたけど、本当に行ける?」

「その話なんだけど」

 瑛人君はそう言いながら、3枚の紙切れをひらひらさせた。

「ん……?」

 首をかしげる僕に、瑛人君は、ゆっくりと種明かしするように話し始める。

「実はさ、あったんだよ…。失くしたと思ってた今日のチケット…。俺が新曲の振付を完コピできたその瞬間に、カチャリと箱が開いて。その、開いた箱の中に、入ってたんだ」

 公演名も会場も、座席位置や発券した場所も同じ。代表者名のところには、きっちりと『山根瑛人』と記されているのだから、これはもう間違いがない。

「どういうこと?この箱、瑛人君のだったの?」

「そんなはずないよ…。でも、チケットは確かに俺のものだ。隅から隅まで見たけど、間違いはない。だから、たぶん」

 その先の言いたいことを察して、僕は口をつぐんだ。

 また巻き込まれたのだ。

 あの、おかしなV Tuberの仕掛けた罠に。

「で。どうするの?行くの?」

「行くよ!行くに決まってるじゃん!!」

 開演は12時。会場が開くのは11時だから、それまでには現地に着いておかなければならない。結局、僕たちは当初の予定どおり武道館に行くことにして、念願のコンサートを楽しんだ。


 ――と、思ったのだけど。


「Zzz...」

 静かな寝息が聞こえて、思わず隣を見る。

 昨夜、一晩じゅう振付を覚えていたせいでほとんど寝ていなかった瑛人君たちが、疲れて爆睡してしまっていた……。

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