第9話 ガレナさん
「こんにちはー」
カンッ!カンッ!と何かを叩く大きな音がする工房に今日、俺とアンリさんは訪れていた。
理由はガレナさんがお弁当を忘れたからだ。
「ドフレさん、こんにちは」
「あぁん?・・・何だ管理人じゃねーか!!!おい、お前ら管理人と魔族の嬢ちゃんが来たぞ!」
ドフレと呼ばれた男が後ろに声をかけると何人ものドワーフ達が現れ、瞬く間に二人を囲った。
「久しぶりじゃねーか!」「何だ何だ今日は何しに来たんだ!」「魔族の嬢ちゃんも相変わらずだな!」
「管理人よ。ドワーフと言うのは何故こうも馴れ馴れしいんであろうな」
「あはは、すみませんガレナさんって今何処にいますか?」
「あのお嬢ちゃんなら、今日も大将と一緒だぜ?」
「ありがとうございます」
礼を言って俺たちは二階へと上がっていった。ここはドワーフ達が営んでいる工房で、ここでドワーフ達は冒険者に取って必要な道具や日常に必要な道具を作っており、この街に住んでいる人々にとって、なくてはならない重要な場所になっている。
「モルグラスさん、お久しぶりです。娘さんとはどうですか?」
「邪魔するぞ」
「あぁ?何だ管理人とアンリじゃねーか。あいつの事は言うなっていつも言ってんだろ!」
二階に上がると部屋中に工具や武具などが散らばってある中に一人、背の低い男性、大将と呼ばれているここのリーダーモルグラスさんが近づいて来た。
二階は彼専用の部屋となっており、基本的に彼と彼に入る事を許されている人しか来れない場所になっている。
「たっく、で?今日はどうしたんだよ?」
「ガレナさんがお弁当を忘れてしまっていて、届けにきたんですよ」
「そう言うことか。ちょっと待ってろ、おーい!ガレナァ!管理人が来たぞ!」
「・・・」ヒョコ
モルグラスさんの声を聞きつけ、山のように積まれている武具の後ろからガレナさんが顔を出して、こちらに近づいて来た。
「はい、これ忘れちゃダメですよ」
「・・・」コクンッ
彼女は喋れないわけではない。エルフ族の中でも特異であった彼女は迫害されていたらしく、その影響で言葉を発するのが怖くなり今のような状態になったらしい。
「お、そう言えばお前がこの前、教えてくれたフライパンとか言う奴も今回バカ売れしてぜ?」
「あ、本当ですか?良かったです」
「ほら、報酬だ」
投げられた札束をキャッチした。
俺はアパートの管理人の他に前の世界にあった日用品なだけの情報をモルグラスさん達に渡して、それを作って貰い、売れた分の半分の報酬を貰っている。
「いつもありがとうございます」
「なぁに気にすんな!今回も中々骨のある仕事だったからな!」
この世界のドワーフ族は物作りに関して、非常に拘っており、作る品物はどれも一級品の価値があるものとなっている。その為、彼らは見た事もない、聞いた事もないような物に関して他種族以上の関心がある。
「また何かあったら教えてくれよな!」
「勿論、俺の生活もかかってますからね!」
実のところアパートはほぼほぼ無償で貸しているところがあり、毎月しっかりと支払ってくれるのはモニちゃんとガレナさんの二人だけだったりする。
フェンリルさんは二人よりも断然稼いでいる筈なのだが、毎回何故か金欠に陥って支払いが現在も滞納している。アンリさんに関しては見た目が子供な事から働けないので支払えていない。
だからこうして偶に色々と手広くやっている。
「じゃあ俺達は弁当渡しましたし、そろそろ行きますね」
「頑張れよーガレナー」
「・・・」コクンッ
ガレナさんが頭を下げた時だった。窓の外から一本の矢が飛ばされガレナさんの頭を通り抜け反対側にあった柱に刺さった。
「「「「・・・・・」」」」ぶるっ
その場にいた全員が凍りついた。
「ッ!オイコラ誰だ!!!」
「が、ガレナさん!?大丈夫ですか!?」
誰よりも速くモルグラスさんは動き、窓を開け外に向かって怒鳴り込んだ。
その声にはっとさせられ、俺はガレナさんに駆け寄って声をかけた。
「・・・」カタカタ
「怪我は無いようですね。良かった」
「おいテメェら!外から弓撃った奴探してこい!」
モルグラスさんは一階にいたドワーフの皆んなに声をかけ、一階にいたドワーフ達はすぐさま外に出て行った。
「管理人よ、これを見てみろ」
「ん?アンリさんいつの間に」
アンリさんに呼ばれて矢が刺さった柱の方に行くと矢には白い紙が結ばれていた。
「これは・・・矢文?時代錯誤なやり口ですね・・・」
「殺しに来といて手紙とはまた随分な奴だな」
「大将、すんません!逃げられました!」
「ちっ、まぁいい。ガレナに怪我はなかったか」
「ありませんでしたよ」
「おい、お前達これ見てみろ」
アンリさんに再び呼ばれ、二階にいた俺を含めた皆んなは一斉にアンリさんの元に集まった。
「何ですか?って広げちゃったんですか」
「そうしなければ見れんだろ」
「それで誰からなんだ?」
モルグラスさんがそう聞くとアンリさんは手紙を俺達の方に向けて見せてくれた。
「エルフからだそうだ」
「・・・」ッ!?