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第5話 モニちゃん②

 『助けて・・・怖いよ・・・』

 「えっ?」


 花の怪物に捕まった瞬間にそう聞こえてきた。

 まるで子供が泣きながら声を上げているようだった。そしてこの子は今、いきなり大きくなって怖がっているのではないのかと思った。

 だからつい手を差し伸べてしまった。

 

 「大丈夫だよ。いきなり大きくなって怖かったんだよね?こっちおいで?」

 「何しておるモニよ!」

 「大丈夫だよアンリちゃん。多分、この子危ない子じゃないから」


 モニは両手を広げ、花の怪物はそこに恐る恐る近づいてきていた。

 

 「きしゃゃゃ」

 「よしよし、怖かったんだよね。ごめんね?私のせいでこんなになっちゃって」

 「全く、どこぞのバカと同じで甘すぎだ」

 「あっはは耳が痛いです」


 モニちゃんが言った通りだった。花の怪物は彼女の方へゆっくりと近づいていき、彼女に抱きついていた。その姿はまるで母と子供のようだった。


 「アンリさん」

 「分かっておる」


 俺とアンリさんは手を繋ぎ、アンリさんはその姿を中学生くらいの姿へと変えた。

 

 「花よ。言葉がわかるのならそこを動くでない。貴様を今助けてやる」

 「きしゃゃゃ」

 「よろしい。森の者ども今回は少し力を借りるぞ。"シルヴァナスの息吹"」


 アンリは飛び上がり、花に向けて右手を向け魔法を使うと花の怪物の周囲に緑色のオーラが広がり、風になって小さな緑色の妖精が現れ、爽やかに舞い踊った。


 「すごい、なんか心が落ち着く・・・」

 「きしゃゃゃ・・・」


 アンリさんが唱えた魔法はまるで子を母が抱いてくれるかのような温もりを感じさせ、心の底から何かあったかいものが込み上げてきた。


 「森に住むものどもの力を借りて放つ、心を落ち着かせる魔法だ」

 「きしゃゃー」


 花の怪物は煙を全身から吹き出してみるみるうちに縮んでいった。

 俺とアンリさんは直ぐに2階に上がって、扉を開けて部屋に入った。


 「あ、管理人さん、アンリちゃん」


 部屋には床に座り込んだモニちゃんとその膝の上で眠っている小さくなった花の怪物がいた。

 見たところ傷もなかったようなのでため息をついて俺とアンリさんも床に座り込んだ。


 「はぁ、怪我がなくてよかった」

 「全くだ!何かあったら大惨事であったぞ!しかも私の許可なく私の魔力を使うとは何事だ!」

 「え?私、アンリちゃんに聞いたよ?」

 「え?どうゆう事ですかアンリさん?」

 「・・・あ」


 ーー

 それは約一時間前の事だった。


 「モニよ、まだ終わらんのか、ふぁ〜」


 昼寝をしていたアンリは一度だけ目を覚まし、未だ魔法薬を作り続けるモニの隣に座った。


 「はい。実はあと少し何かが足りなくて、このままやったらまたさっきみたいに爆発しそうで」

 「それは困るな。ふむ、ならば私の咲かせたこの花の液を使ってみるのはどうだ?」

 「え、でもそれは」

 「大丈夫大丈夫、ちょっと貸してみろ!」

 「あーもうアンリちゃん!」


ーー


 その後、花を取り返されたアンリは再び眠りについたが、モニちゃんはアンリが言った事を試したくなりやってしまいこんな結果になった。


 「あーはいはい・・・ごめんそれ私のせいだわ」

 「あはは、もうアンリさんってば今日は晩ご飯抜き じゃボケ」

 「んなっ!!?そんなバカな!」


 笑顔で宣言された晩ご飯抜きにアンリさんは驚いたような表情を見せた。

 

 「そ、そんなバカな話があるか!」

 「ありますよこの世の中には沢山」

 「世の中の事をこのアパートに持ち込むな!殺生だぁー頼むー夜ご飯だけはー!」


 足にしがみつきながら許しをこうアンリさんの姿にはかつて美麗の緑魔として名を馳せた面影はまったくなかった。


 「あ、あの管理人さん!今回のことは私も悪かったのでアンリさんのことはどうか、」

 「おお!ナイスだモニよ!」


 モニちゃんからの申し出にアンリさんは顔を上げて期待の眼差しを向けた。

 

 「じゃあアンリさんとモニちゃん二人で一人前を半分ずつということで」

 「ぬぐぅ!、まぁないよりはマシか」

 「しゃゃゃ!」


 俺達が話し込んだいると目を覚ました花の怪物が起き上がり、彼女を守るかのようにアンリさんに向かって吠えた。


 「ぬっ、こやつ私に吠えるとはいい度胸してあるではないか!」

 「アンリさんがご飯奪い取ろうとしてるの気がついてるんじゃないですか?」

 「な、何故それを!?」

 「あ、奪おうとしてたんですね」


 アンリさんは気まずそうに顔を横に向けて吹けない口笛を吹く真似をした。


 「やっぱ抜きにしたほうが、」

 「そ、それよりもこの植物の事はどうするのだ?」

 「それはモニちゃんが決めるべきだと俺は思いますよ。モニちゃんはどうしたい?」


 彼女の方に目を向けるとモニちゃんは小さくなった花の怪物を見て少し悩んだ後に顔を上げた。


 「この子、私の使い魔にしようと思います」

 「使い魔?」

 「魔法使いの人間がたまに連れておるだろ。使い魔は主人の目となり、足となる存在の事だ。主人の命令は絶対であり、牙を向ける事も出来なくなる」


 確かに偶に子供のドラゴンや妖精などを連れている人達がいるがそれの事だろう。


 「ただし、契約相手との合意がなければ使い魔にはなれん」

 「あのアンリさん」

 「何だ。人がせっかく説明してやっているというのに」

 「契約もう始めてますよ」

 「なぬっ!?」


 モニちゃんと花の方を見てみると彼女は魔法陣を展開して契約の準備を始めていた。


 「我が名はモニ・アバランチ。我が魔力をもって、汝を我が使い魔とする。何時の声は我が耳に届き、汝の願いは我が心に響く。契約の証として、共に歩むことを誓おう」

 「説明パート中に始めるとは常識を知らんのか!」

 「魔族のアンリさんがそれ言いますぅ?」


 顔を真っ赤に膨らせながら怒るアンリさんを横目にモニちゃんと花の方を見てみると、魔法陣から何個かの赤い文字が浮かび上がり、二人の首に巻きついて消えてを繰り返していた。


 「あれは?」

 「契約した者たちのみが知れる条約のようなものだ」

 

 そして全ての文字が首に巻きつき終わると同時に魔法陣も消えて契約の儀式は終わりを告げた。


 「よし。これから貴方は私の使い魔だよ。よろしくね?」

 「きしゃしゃ!」

 「あれ?何か姿が変わってません?」


 先程までは食虫植物かのような見た目をしていたのだが、今の姿は大きな花を手に持ち、まるで妖精かのような見た目をした姿へと変化していた。

 

 「契約したのだそうなるだろ」

 「いやコレどう見ても整形手術した人並みの変わりようですよ」

 「細かい事を気にするな小さい男だな」


 むしろ驚いてないあんたに俺はドン引きしてますよと言いたかったが、殴られたくないし黙っておくことにした。


 「ふふっ、これからよろしくね?キシャちゃん」

 「きしゃしゃ!」


 でも喋り方は変わってないんだ・・・。


 ーー


 その後、家はアンリさんに直してもらい元通りとなり、いつも通りの暮らしが戻った。

 それから数日が経った。


 「ずずっ、ん?そう言えばモニちゃん今日がテストの日でしたよね?」

 「そうだったな。まぁキシャもおるし、よっぽどの事が無い限りッ!?」


 こちらを向いたアンリさんが唐突に固まった。不思議に思い、後ろを振り返ると巨大な食虫植物のような姿をした花が見えた。

 そして階段を忙しなく上がる音がして、部屋にモニちゃんが入ってきた。


 「か、管理人さ〜ん!助けてくださ〜い」

 「きしゃしゃ!」

 「今日間違えてアンリちゃんの花からとった液使っちゃったみたいでまたあんな風に」

 「「ふ、」」

 「ふ?」

 「「ふざけるなぁぁぁ!!!」」


 花の怪物が出現した日、そこから少し離れた場所から二人の男女の怒号の声が青空に鳴り響いた。

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