第4話 モニちゃん
ここは異世界にある四つの大陸の一つクレイア大陸。そこにある街、エルデンリッチでは今日もまほろば荘の管理人が住民達の世話をしていた。
変わらず朝食を作ってアンリさんを起こす。
今日フェンリルさんとガレナさんは朝早くから仕事に行き、モニちゃんは実技のテストの為に部屋に篭っている。
なので朝からアンリさんと二人で食事をしていた。
「うむ。やはりお前が作るこのマンドラゴの漬物とやらは美味いな」
「喜んで貰えて何よりですよ」
今日は焼き魚と炊いた米に味噌汁と漬物といったザ・日本食を異世界で再現してみた。
「もぐもぐ・・・おかわり」
「分かりました。そう言えばアンリさん、そろそろ定期検診に行かないッ!!?」
その直後だった。
ドガンッと一階から大きな爆発の音が聞こえてきた。驚いた俺とアンリさんは急いで部屋を出て下を見てみると黒い煙が出ており、慌てて煙が発生した一階の102号室の前に立った。
「うぅ〜〜管理人さ〜ん」
「も、モニちゃん・・・」
「やれやれこやつ、またやり合ったか」
黒い煙が出ている102号室からは黒焦げになったモニちゃんが現れパタリと倒れた。
「あらら、また失敗しちゃったみたいですね」
「管理人よ運んでやれ」
「分かりました」
俺はモニちゃんを抱き抱え、アンリさんと共に部屋に戻っていった。
「んっ・・・んんっ・・・はっ!実験!ってここは?」
「おぉ〜起きたか。ここは管理人の部屋だぞ」
「へ?え?えぇぇぇ!!!」
部屋に戻ってからしばらくして、目が覚めた彼女は甲高い声で叫びながら飛び起きた。
そんなに俺の布団が嫌だったのだろうか?
「おはようモニちゃん。はいお茶」
「あ、ありがとうございますお兄さん」
顔を赤くしながら彼女はお茶を受けとり、ずずっと一気に飲み干した。
彼女はモニ・アバランチと言って、俺たちが住むエルデンリッチがあるクレイア大陸とは違うシアリス大陸という場所から魔法学校に通う為に、この街にやってきた子だ。
「それで今回は何を失敗したのだ?」
「はい。それが今度ある実技試験の種を花へと成長させる魔法をもっと効率よくやろうと魔法を少し変えて唱えたら爆発しちゃって・・・」
「またか、なまじ才能があり過ぎるのも問題だな」
彼女はエレクセントリック魔法学校に通う一年生だ。魔法の腕に関しては同年代に比べても抜きん出てはいる。その腕前はアンリさんでさえ認める程なのだが、何故かよく失敗をして爆発を起こしてる。
「この前もそれをやって異邦の神を召喚したり、無限増殖する怪鳥を作ったりしていたな」
「待て、その二つ初耳だぞ」
「「あっ」」
「「「・・・・」」」
「・・・後でじっっくり聞きますからね」
「「はい・・・」」
管理人の頭の上から鬼のツノのようなのが見えた二人は反抗することも無く素直に従った。
それから本題に戻り話を聞いてみると生物魔法学のテストで花の種を一日で成長させる魔法薬を作らないといけないらしい。
「花をすぐに咲かせる魔法薬か。アンリさん作れます?」
「出来るが、お前達人間と魔族では魔法の使い方が違うから参考にはならんぞ?」
「え?そうなんですか?」
そうな話は聞いたことがない。とゆうかあまり魔法に興味はなかったから今まで知ろうともしてなかった。
「試しにやって見るぞ。モニ」
「はーい」
アンリさんとモニちゃんは机に横並びとなって、机の上に置いた種にそれぞれ向かい合った。
「大地に芽吹きし者よ・我が囁きに耳を傾け・一輪の花を咲かせよ!"シード"」
「"シード"」
「おお!花が咲いた」
アンリさんとモニちゃんが呪文を唱えると彼女達の周囲から爽やかな風が吹き始めた。そして種はひび割れ中から赤い花弁がニョキニョキと生えていき美しい赤い花びらを咲かせた。
「このように我ら魔族は自身の魔力だけで魔法を唱えるが、お前達は違うだろ?」
「そうなのかいモニちゃん?」
「はい。私達は基本的に自然に存在する精霊やその場の環境の力を借りる為に呪文を唱えてます」
「まぁ魔族は他種族に比べてもエルフに次いで魔力が高い種族だからな」
そんな違いがあったとは確かに前の時もそうだったが、魔族は基本的に呪文を唱えたりしていなかった。
「てゆうか成功してるしこれじゃダメなの?」
「はい。魔法薬を作らないとダメらしくて」
魔法薬とほその名の通り魔法で作られた薬の事をいい、魔法が不慣れな人でも簡単に魔法が使える代物だ。様々な薬草や生物を混ぜたりして最後に自分の魔法を加えれば完成するらしい。
「んーやっぱり、魔力を流す量が違うのかな?いやもう一つくらい何かを増やせばいいのかな?」
モニちゃんはボソボソと独り言を呟き始め、いつの間にか周囲の声が耳に入っていないような状態になっていた。
「スイッチ入っとるな。ああなると、しばらく会話にならんぞ」
「まぁ仕方ありません。もう12時何で俺、昼の準備してきますね」
彼女は魔法の事に関してはとてつもなく貪欲になり、時間さえも忘れて夢中になってしまうのだ。
仕方なく俺は昼食の準備を行い、アンリさんは床で寝っ転がった。
ーー
「・・・よし!これならいける気がする!」
「ふぁ〜!やっと終わったのか」
「お疲れ様です」
それから三時間が経過し、魔法薬が完成した彼女はようやくこちらの声も聞こえるようになった。
「完成しました!これが私の作った魔法薬です!」
「「おお〜」」パチパチ
「早速使ってみますね」
「あ、それはちょっとまッ、」
俺が言い終わるよりも早くモニちゃんが魔法薬が入った瓶のフタを開け、種に液体を垂らした。
次の瞬間、その種は巨大な花の怪物へと変貌し、アパートの天井を突き破り、俺たちはアパートから放り出された。
「キシャャャャャャャャ!!!」
「いてて、うわっ何ですかアレ」
「モニ!お前何を混ぜた!」
両手をあげて顔を真っ赤に膨らませたアンリさんは怒りながらモニを問いただした。
「え、えーと花を咲かせるのに必要な魔法薬の材料のマンドレイクの木の根に蛙の目、芳醇な土にドラゴトカゲの皮脂に、最後にアンリさんが咲かせた花の液を混ぜました・・・」
「「何混ぜてんだ!!」」
「ひ、ひぃーごめんなさーい!で、でも!」
「言い訳は後にしろモニ!」
モニちゃんは頭を抑えてしゃがみながら謝罪した。巨大な花の怪物は花びらの中にギザギザの歯を生やし、触手のような木の根をくねくねと動かしながらピンクの煙を吐きながら叫んでいた。
「このままだと大事になりますよ!アンリさん!」
「分かって、危ない!モニ逃げろ!!」
「え?」
「キシャャャャャャャャ!!」
俺がアンリさんに手を差し伸べた時だった。花の怪物の触手がモニちゃんを捕らえ、自分の方へと引っ張っていった。
「キシャャャ!」
「モニちゃん!」
「管理人よ!早く手を!」
「ま、待って下さい!」
俺とアンリさんがモニちゃんを助け出そうとした時だった。彼女はそれを止めた。