第3話 闇夜の願い
獣王ガイゼルキとの戦いが終わり、俺とアンリさんはアパートに戻った。
アンリさんは久しぶりにあの姿に戻った事によって体力をかなり消費したらしく暫くは眠っていた。
そして俺はというと夕食を作りながらアパートの皆んなが帰ってくるのを待っていた。
「ただいま帰りましたぁー!」
「お帰りモニちゃん」
十八時が過ぎたくらいの頃、最初に帰ってきたのは魔法学校終わりのモ二ちゃんだった。
朝と変わらない元気な声でただいまをしたモニちゃんを俺は笑顔で出迎えた。
「管理人のお兄さんさん!今日のご飯はなんですか!!」
「今日はカレーだよ」
この異世界に転生して、アンリさんと出会って初めて作ってあげたのがカレーだった。
そこからはアンリさんの好物になったので、アンリさんが頑張った時などに作る事にしている。
「やったぁー!お兄さんの作るカレーだぁ!!」
「モニちゃんが嬉しそうで俺も作った甲斐があったよ」
「え、えへへ〜そうですかぁ?」
モニちゃんは顔を赤くしながら、頬を両手で触ってフリフリと可愛い動作をしていた。
「何だぁ〜うるさいなぁ」
「あ、アンリさんごめん起こしちゃいました?」
モニちゃんと俺の声が聞こえたからか、リビングから欠伸をしながら、アンリさんは歩いてきた。
まだ眠たいのか目をこすっていたが、何かに気が付いたのかモニちゃんの後ろを指差した。
「モニよ。後ろにガレナが立っているぞ」
「え?、あ!ご、ごめんね、ガレナちゃん」
「・・・」ブンッブンッ
いつの間にか帰ってきていたガラナさんはモニちゃんの後ろに立ってじっとしていたようで俺でさえ全く気が付かなかった。
「ガレナさんすみません。ついモニちゃんと話し込んじゃって」
「お!今日はカレーではないか!お前達何しているんだ早く上がってカレーを食そうじゃないか!」
「もぉ、アンリさんは・・・でもそうですね。お二人とも部屋に上がって下さい食事にしましょう」
「はーい」コクンッ
モニちゃんとガラナさんを部屋に上げ、手を洗って貰った後、四人で食卓を囲み食事を始めた。
「そう言えば今日、また魔王軍来たらしいじゃないですか。お兄さんとアンリちゃんは大丈夫でした?私は地下に避難させられましたよ」
「ふん、そんなものこの私の力でちょちょいのちょいだったわ!」
「そうだったんですか。流石アンリちゃんですね!」
夕食をアパートの皆んなで囲みながら、たわいもない会話をして食事をする。そんな何でもない普通の事が俺にとって実は一番の幸せだったりする。
因みにフェンリルさんは今日残業らしい。
「うっぷ、食べた食べた」
「アンリさん、食後に横になると牛になるって言いますよ?」
「私は大丈夫だ。その時は魔法で元の姿に戻るからな」
「あっ!お兄さん!私も皿洗いお手伝いします!」
「あぁ、ごめんね。それじゃあ手伝って貰おうかな」
「はーい!」
その後、皿洗いをモニちゃんと二人で学校の話をしながらやり、途中ガレナさんが手伝って来てくれたけど案の定、皿を割るなど色々ハプニングがあってから二人は自分の部屋へと戻っていった。
ーー
その日の夜、俺とアンリさんは二人でつまみを食べながら窓の外から星空を見上げていた。
「む〜」
「どうしたんですか?そんな膨れっ面をして」
「何故、私はジュースなのだ!!」
アンリさんのコップに入っているのはオレンジジュースであり、アンリさんはそれを不服そうに飲んでいた。
「仕方ないじゃないですか。アンリさんの見た目、どう見ても子供じゃないですか・・・」
「だが私はもうお酒を飲める歳なのだぞ!?」
不服そうにはしているがアンリさんは飲む度にその膨れっ面を満遍の笑みに変えていた。
「・・・アンリさん、すみません」
「何だいきなり。そんな顔するな別に酒じゃない程度で、」
「あ、いやそうじゃなくて・・・」
そうじゃないのだ。
俺が謝りたかったのはこの街を守って貰ったことだ。彼女もここに住んでいるとはいえ、同族を相手に戦わせてしまったのだ。
それに今回の相手は顔見知りのようでもあった。そんな相手を手にかけさせたのだ。
そんな俺の気持ちを察したのかアンリさんは深いため息を吐いて、額にデコピンをしてきた。
「っつ〜!?」
「管理人よ。私は前にも言ったはずだ。私がここにいるのは人間を知る為だと」
「い、言いましたけど」
それが同族と殺し合わさせる理由にはならない。
今回だって、アンリさんから提案して来た事ではあるのだが、それでもせめて自分達で何とかするべきだったんじゃないかと考えてしまう。
「私はこの街で、このアパートで暮らして人間と言うものをもっとちゃんと知りたいのだ。勿論、お前の事もだ管理人。それにあいつなら大丈夫だ直前にあいつは転移魔法で逃げたからな」
「えっ!?そうだったんですか?」
「それよりも!」
アンリさんは俺の両頬を掴み、自分の顔の近くに持って来て目線を合わせた。
いつぞやかにアンリさんは言っていた。昔、人間の友達がいて、その子と関わっていく内に人間に興味を持ったのだと言う。
弱くて、脆くて、おまけに魔族とさして変わらない悪意を持つ低俗な種族と思っていたアンリさんはその人と出会って考え方が変わったらしい。
そしてもっと沢山の人間というものを知る為にこうして人間に紛れて暮らすことに決めたらしい。
「その目的を邪魔する者が現れるのならば、たとえ同族であっても関係ない。私は存分に力を振るうぞ」
気を使ってくれているのか、本気で言っているのか、それは定かではないがアンリさんの笑顔を見てそんなものはどうでも良くなってしまった自分がいる。
心で自分は最低な奴だと自嘲しながら夜空を見上げる彼女を見た。
「アンリさん」
「ん?何だ」
「・・・いえ、何でも。乾杯しましょ、乾杯」
「何だおかしな奴だ。だが・・・うむ。いいぞ」
そうして俺とアンリさんは星が満天に輝く夜空の下でグラスを鳴らした。
ーー
その頃、アパートの一階にある六つの部屋の一室ではモニが二つのフラスコビンに入った液体をビーカーに入れていた。
そして、ドガンッ!!と大きな音を立てながら爆発を起こした。
「いてて、またやっちゃった・・・」
これで何度目の失敗だろうか。部屋には無数のフラスコとビーカーに加え、魔法書やこの世界に生息する生物達の一部などが散らばっていた。
「はぁ・・・もうテストまで時間がないのに、一体何が駄目なんだろう・・・やっぱり私には魔法、向いてないのかな・・・」
窓に映る星空を見上げ彼女はそう呟いた。
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