第18話 決闘
「し、しまった!完全に忘れておった!」
「何してんですか!早くアンリさん手を!少しでも魔力を返しますから!」
俺がアンリさんの手を握ろうと走り出した瞬間だった。俺とアンリさんの間にエーダさんがいつの間にか割って入ってきていた。
「何故、そんな姿かの理由は特に問いません。そして勿論、私は手を抜く気はありませんので」
「ッ!!」
「アンリさん!」
その一言を言った瞬間、エーダさんは重そうな鎧を着た姿に似合わず、素早い動きでアンリさんとの間合いを詰め、彼女目掛けて剣を振りかざした。
「アンリさん!」
「終わりです!!」
エーダさんの神速の剣がアンリさんの首を切り落とそうとした瞬間だった。その剣はギリギリの所で動きを止めていた。
「案ずるな、こう言う時の為に貴様と共に寝ているのであろう」
エーダさんの剣はアンリさんが作り出した魔法陣型の盾によって、受け止められていた。
「ッ!そのお姿は」
「心許ない魔力ではあるが、まぁちょうどいいハンデになろう!」
更にアンリさんの姿も九歳程の姿から十三、四歳程の姿へと変化していた。
「心許ない魔力ではあるが、まぁ丁度良いハンデになるだろう!」
アンリさんはすかさず、魔法陣を自身の背後に展開し、魔力弾をエーダさんに向けて発射し大爆発を起こした。
「流石ですねアンリ様。私の神速を超える抜刀を受け止めるとは。これで終わりだと思っていたのですが、なるほど評価を改めないといけないようですね」
しかしエーダさんの姿はそこにはなく、エーダさんはいつの間にか、元いた位置に立っており爆発があった大地には窪みができただけだった。
「相変わらずの速度だな」
「ありがとうございます。しかし、私の速さはまだまだこの程度ではありませんよ?」
「ふんっ、であろうな。管理人よ!私の元に早く来い!」
「何をするかは知りませんがやらせませんよ!」
俺とエーダさんは同時に走り出した。アンリさんは少しでもエーダさんを足止めする為に再び魔力陣を作り出し、そこから数発さらに魔力弾を打ち出した。
しかし、さらに上がったエーダさんの速度は、もはやアンリさんですら反応できず、目の前まで近づく事を許してしまった。
「ぐっ!」
「終わりです!斬影ッ!」
一瞬、エーダさんの姿が掻き消えた。
そう思った瞬間、アンリさんを囲うように複数のエーダさんが出現した。それはゆらゆらと揺らめいており、まるで影のようだった。
「チッ!しまっ、」
「アンリさん!」
直ぐに防御をしようとしたアンリさんだったが突然、無数の斬り傷が全身に浮かび上がり、その痛みにアンリさんの動きが一瞬、遅れてしまった。
「私の勝ちです」
そして目の前に現れたエーダさんは最後の一閃を振るった。アンリさんは防御体勢を作る暇もなく、その剣の餌食にされる直前、アンリさんの体が光初め、その姿を元の九歳前後の姿へと変化させ間一髪、その剣を避け切った。
「へぶっ!」
「アンリさん!」
地面に尻餅をついたアンリさんをエーダさんの間を潜り抜けて俺は抱いて、彼女から距離をとった。
「無事ですかアンリさん!?」
「うむ。ギリギリな」
本当に紙一重だった。元の姿に戻るのが一歩でも遅ければ、恐らくアンリさんは死んでいた。
「・・・」
「管理人?どうかしたのか?」
これは決闘だ。だからと言って本当に殺していいわけではない。それなのに今の一撃は明らかに彼女を殺す為のものだった。
「どう言うつもりですかエーダさん」
「黙れ、人間と交わす言葉などない。アンリ様、お立ち上がりください。まだ勝敗がついておりませぬ。どちらか一方が死ぬ事こそが勝敗の有無なのです」
「?」
何かがおかしいと思った。いやもしかしたら戦いが始まった瞬間からだったのかもしれない。
アパートで会ったエーダさんは、確かにアンリさんの事を慕っているように見えた。
しかし、今のエーダさんからはそんな感情が微塵も感じられていない。
「アンリさん、エーダさんの様子何か変じゃないですか?」
「むぅ、確かにあやつは昔から融通が効かぬ所があったが、ここまで極端な感じではなかったな」
「何を話しておられるのですか?さぁ、早く立ち上がってください」
「・・・管理人よ、少し多めに魔力を貰えるか?」
「構いませんよ。元は貴方のものでしたしね」
「すまんな」
手を握りしめ、彼女の小さな体躯を抱きしめた俺はそのまま彼女と口付けを交わした。
俺の中にあるアンリさんの魔力が次々と彼女の元へ流れていく感覚の中、それと同時に俺の内側がボロボロと崩れていくようだった。
「な、な、な、何を!?」
エーダさんは突然、自分の目の前でキスをし始めた俺とアンリさんに驚き、混乱している様子だって。
そしてら次の瞬間、ガイゼルキが来たあの日のようにアンリさんの姿は"美麗の緑魔"と呼ばれるに相応しい姿へと変化を遂げた。
「ふぅ、感謝するぞ管理人よ」
「い、いえ、構いませんよ。やっちゃってください。俺は少しだけ下がっておきますね」
心臓の動きが速くなり、身体中からまるで剣で串刺しにされたかのような痛みが走っていた俺は、アンリさんに気が付かれないようにそそくさと岩陰へと潜っていった。
「さて、待たせたなエーダよ」
「そのお姿は・・・なるほど、何らかの理由でアンリ様の力の大半があの男へと移ってしまっていたのですね。通りで貴方から勝手のような強大な力が感じ取れないわけだ」
管理人が隠れた岩の方を横目にエーダは剣を構えた。
「あの男が貴方がここから離れない原因と言うわけでしたか。ならば、あの男を先に、」
「今の私から目を逸らすとは、どうやら本当に私の恐ろしさを忘れてし待っているようだな?」
「ッ!!」
正面からした声に剣を振るったエーダだったが、その剣はすぐに動きを止めた。
いつの間にか目の前にいたアンリによってエーダの剣は掴まれて動きを止められていたのだ。
「くっ、う、動かない!?」
「さて、少々お仕置きをしてやらんとな?」
アンリさんはそう言ってもう片方の手で素早く魔力陣を展開して魔力弾を放った。
先程までとは桁違いの威力と速度で放たれ魔力弾によって、動きを止められたエーダはそれが直撃してしまい後方へと吹き飛ばされた。
「ぐっ、この威力ッ」
一撃喰らっただけだった。しかし、その一撃だけで身体中が痛み、立ち上がることすら困難な状態に陥ってしまっていた。
「まだやるか?」
「い、いえ、私の負けです。さ、流石、アンリさ、ま・・・」
完敗だった。身体は動かず、剣を握ろうとしても指が動かない。こんな状態でもまだ戦おうとするほどバカではなかった。
「なぁに、私にここまでの力を引き出させたんだ。お前も中々だったぞ?・・・さてと、そろそろ出てきたらどうだ?」