第15話 医者
「ぬ〜、本当に行くのかぁ?」
「しょうがないじゃないですか。アンリさんの体調を考えてのことですよ?」
こんにちは、皆さん今日は街に来てます。理由はアンリさんの定期検診の為にアパートの五人目の住人である人物に会いに行く為です。
「ぬぅぅぅ、だがあやつの事はあの駄犬の次に好かんのだが」
「あ、あはは・・・俺もですよ」
エルデンリッチの街の中でも特に賑わっている市場をしばらく真っ直ぐ進み、狭い路地を曲がった所に俺たちの目的地はあった。
「毎度、思うのだがあやつは何故、こんな場所に店を構えておるのだ?」
「何か闇医者みたいな感じを目指してるってほざいてましたよ」
「バカなのか??」
路地を進んでいるとイメクラ診療所と書かれた看板が掛かった扉があり、目的地についた俺達は早速、中に入ろうとした。
「さいってぇぇぇ!!!」
「ぐはっ!?」
「ほげぇ!?」
「管理人ッ!」
俺が扉に手をかけた瞬間、轟音と共に扉が吹き飛び、中から白衣を着た男性が管理人に突っ込んできた。そして二人はそのまま反対側の壁にぶつかった。
「ウィル!あんたとはここでおしまいよ!」
「ひどい、ぐすっ、ひどいよ!私以外にも女がいるなんて!」
「おらをだますてたのすかったですか!」
壊された扉からは種族の違った女性達が次々と現れ、ウィルと呼ばれる男に対して怒鳴りながら出ていった。
「お前・・・またか」
「いてて、全く子猫ちゃん達の扱いは難しいねぇ」
無性髭を生やし、金髪の髪を後ろでまとめた、タレ目気味の若い男は管理人を下敷きに頭をかきながら、懐から取り出したタバコに火をつけた。
「ふぅー、ん?おやおや?そこにいるのは妖精の王女様かな?」
「毎回同じ口説き文句だな。私は子供ではない!そんな言葉で惑わされるわけがなかろう!」
「あはは、相変わらず元気そうだねアンリちゃん」
「ウィル!いつまで上に乗ってるんだ!!!」
ウィルの下敷きになっていた管理人は、彼の尻を蹴り飛ばしてどかして起き上がった。
「全く、相変わらずですねウィル」
「お前こそ、相変わらず僕にだけ扱いが雑だよね」
「黙れ、とっととアンリさんの診察しろ」
軽いノリで話すウィルに対して、管理人は普段使うことのないような言葉と辛辣な表情で返した。
「なぁ、君はもう少し僕に優しくするべきだと思うんだよ」
「充分優しくしてるでしょうが、そう言う言葉は借金とアパートの家賃を全て返してから言えよ」
「おっと痛いところをつかれた」
この男こそ、俺とアンリさんが会いにきた相手であり、この街で医者として働くまほろば荘の住人ウィル・コンストだ。
見ての通り彼は女性にだらしなく、アパートにやってきたその日にアンリさん達に手を出そうとして、彼女らの怒りを買い、アパートの住人ではあるのだが帰れなくなってしまっている。
「全く、また複数の女性と同時に付き合っていたんですか?」
「正解!でも今さっきバレちゃってね〜」
「ね〜、じゃないですよ。前から俺言ってますよね?絶対、後から痛い目見るからやめろって」
そう、彼はもうこんな事を何回もやらかしており、その度にバレては相手の女性達から鉄拳制裁を受けているのだ。
「まぁまぁこれは性分ってやつだよ。さてと、アンリちゃんの定期検診だろ?入りたまえ」
「はぁ、全くいつか刺されますよ」
俺とアンリさんはウィルに呆れ返りながらも彼の病院へと足を運んだ。
入ってすぐに、アンリさんの定期検診は始まった。
「アンリちゃんはっと、えーとあったあったこれだ。んー、そうだね。前回とは魔力の質と内臓する量が増えた事以外は特に変化はないね」
「うむ。当たり前だ!私は毎日、健康第一に生活しているからな!」
どこがだよ!とツッコミを入れようと思ったのだが、それよりもウィルの医者としての実力に感心してしまっていた。
「相変わらずですね」
「ま、僕天才だから」
ウィルは女にはだらしないが、医師としての実力は本物で大概の事は見ただけでその症状を理解し、適切な処置を下すことが出来る程だった。
「さ、次は君の番だよ管理人」
「はいはい。アンリさんは待合室で待ってて下さい。すぐに戻りますから」
「うむ」
アンリさんを待合室に残して、今度は俺が診察室に入り、ウィルの対面に座った。
「さぁて、うちの診療所きっての問題児さんの体調はどうかな〜?」
「茶化さないでとっととやって下さいよ」
「いやぁすまないね。じゃ服脱いで」
「わかりました。お願いしますね」
「おけけ〜。さてと・・・ふむふむ・・・うーん、、、なるほどね」
俺は服を脱ぎ、横に設置されていた台の上にそれを畳んで置いた。ウィルは上半身が裸となった俺をジロジロと見ながら何かを理解して席についた。
「単刀直入に言おう。君の体は徐々に内側から崩れかけてきている」
「・・・そうですか」
「その感じだと君も分かっていたみたいだね」
ウィルの言う通り、俺は自分の体が徐々に崩れてきていることは理解していた。
この異世界に転移される前、元の世界で俺はある研究機関の実験体の一人として生きていた。
その時に手に入れた力は、人の身では到底扱えるものではなく、一度使えば確実に死ぬものだった。
その事から研究員達から"最低で最高な失敗作"とも称されていた。
「この力は一度きりのものです。あの日、アンリさんを救う為に使ったあの一撃で俺の命は終わるはずだったんです」
「それを魔族の力で何とか生きながらえていると、まるで生命維持装置だね」
生命維持装置、その言葉は今の俺にはピッタリの言葉だ。死ぬという結末がきた俺にとっては、アンリさんが自分のツノを使い救ってくれた行為は、あくまで延命措置にしかならなかった。
「最近は何処か痛むところとかあるかい?」
「いや特にないですよ」
その瞬間、一本のボールペンが俺のこめかみに突きつけられた。