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第14話 野菜

 どうも皆さんこんにちは。まほろば荘の管理人です。今日はアンリさんと共にアパート横に作った菜園場で野菜の採取をしています。


 「うぐぐ・・・。ピマーンやトートマもあるではないか・・・」

 「アンリさーん。嫌いな物でもしっかりとってくださいね?」


 ここにこうした菜園を作ったのには二つの理由がある。一つ目はアパートを買ってここで暮らし始めてから自給自足の生活を送ってみたいと思ったのが一つだ。二つ目はアンリさんの野菜嫌いをなくす為だ。

 

 「おーい、管理人よ。取り終えたぞー」

 「はーいありがとうございます!家まで持って帰っといて下さいねー」

 「了解した」(しめた!この野菜を処分する事が出来るではないか!)

 「捨てたりしたらどうなるかわかりますね?」


 管理人の言葉に、アンリは殺気にも似た寒気を感じ、背筋を凍らせた。


 「う、うむ!当たり前だ!私を誰だと思っておる!魔王の娘だぞ!」

 「ですよねー?じゃあお願いしますね」

 「チッ、勘のいいガキは嫌いだ」


 諦めたアンリは渋々、アパートの自室へと歩いて行った。

 アンリが階段を上がって二階に上がると丁度、仕事から帰ってきたフェンリルが扉を開けていた。


 「おや?アンリじゃないか?」

 「何だ狼か。仕事終わりか?」

 「そうだよ。今日は昼までだったからね。それよりも君は何を?」

 「管理人がこれを持って行けと」


 そういってアンリは手に持っていた野菜達を見せた。異世界で取れる野菜は基本的に管理人が異世界転移する前の世界と変わらない。


 「おぉ、美味しそうだね。私に一個ちょーだい!」

 「やるか馬鹿者!これだから獣という奴は!」

 「そんなケチケチしないでさー」

 「やーめーろー!」


 フェラがアンリに抱きつき、手に持った野菜を奪おうとし、アンリがそれを辞めさせようとした時だった。野菜達はアンリの手から滑り落ち、それに気が付かなかった二人によって足元で踏み潰された。


 「「・・・あ」」


 二人はその残場を目にした瞬間、管理人の怒った顔を頭に浮かべた。

 

 「お、おお!ど、どうしてくれるつもりだ!!」

 「えぇー、私は知らないよー。お?そう言えば用事を思い出したからちょっと出かけ、」

 「おい待てコラ!逃がさぬぞ!!私だけ管理人に怒られるのは絶対に嫌だ!」

 「私だって嫌さ!だから逃げる!」

 「させぬ!」


 アンリとフェラは両手を掴み合い、今にも殴り合いを始めんとするばかりの勢いがあった。


 「逃がさぬぞ〜!!」

 「流して貰うよ〜!」

 「アンリちゃん!フェンリルさん!何してるの!?」


 一階の自室でキィに水を与えていたモニは、二階の廊下で大きな音がしたのに驚き上に上がってきていた。


 「おお!丁度いいところに来たモニ!この害獣を捕らえるのを手伝え!」

 「騙されちゃダメだよモニちゃん!このちんちくりんを止めてくれ!」

 「え?え?ど、どうしようキィちゃん」

 「キィ〜〜〜!!」

 「「のわっ!!?」」


 掴み合いっていた二人をキィは木の根で胴を掴み上げそのまま二階から地面へと頭から叩きつけられた。


 「き、キィちゃんやり過ぎだよ!?二人共大丈夫ですか!?」

 「「な、なんとか・・・」」


 ーー


 「それでこれどうするんですか??」

 「うーむ。魔力があれば再生する事が出来るのだが、管理人にバレるしな」


 キィに叩きつけられた後、アンリとフェラの二人はモニの部屋に訪れていた。


 「まぁまぁ〜、何とかなるって〜」

 「おのれはなぜ、今酒を飲んどるのだ!!!」


 もし管理人にこの事がバレでもしたら、向こう一週間はご飯抜きにされかねない状況で、酒を片手にフェラはへらへらと笑っていた。


 「まぁ私は関係ないしね〜」

 「お前が野菜を奪おうとしたからであろうが!!・・・ん?」


 自分で発した言葉にアンリはフェラに全ての野菜を手渡し、食べさせた方が良かったのではないのかと僅かながらに後悔した。


 「どうかしたんですかアンリちゃん?」

 「ん?あぁ、いや何でもない。それよりもこの野菜達を元に戻さねば管理人の奴、今回はかなり気合を入れて育てていたからな。もしバレでもしたら、ご飯抜きにされかねんぞ」

 「全く君がとっとと私に渡していればこんな事にならなかったのにさぁー」

 「ぐっぬぬ・・・」

 「ま、まぁまぁ二人とも。まずは何とか治す方法を考えましょう!」


 場の空気が悪くなってきているのを危険視したモニは両手を叩き、アンリとフェラに若干ひきつった笑顔で提案した。


 「そうは言っても私は今魔力が殆どないからな、再生させる事は出来んぞ?」

 「あれ〜?珍しいじゃらいか〜」

 「ふ、フェンリルさん、本格的に酔ってきてますね・・・」

 「アレはほっとけ、どの道役に立たん」


 いつの間にか、フェラの片手に持っていた酒は別の酒に変わっており、背後には無数の空になった酒が置いてあった。


 「魔力がないのは今朝、管理人が小指をぶつけてなそれを治したら枯渇した」

 「何やってるんですか!!アンリちゃんも管理人さんも!!」

 「だって仕方ないであろう!?管理人の奴があまりにうるさかったんだ!!」


 若干、涙目になりながらアンリは大きな声で反論した。


 「と、とにかく、何とかして野菜を元の形に戻さねば!バンドとかないか!?」

 「いや、形治ってもそれだとバレますよ!?ちょっと待ってて下さい。確かこの前、開発した薬品があった筈ですから」


 そう言ってモニは押入れを開け、薬草や魔法道具など様々なものが入れられている中から手のひらサイズの小さな瓶を取り出した。


 「何だそれは?」

 「これはですね、壊れてしまったものを元の形に治す事ができる。名付けて傷ナオール君です!」


 堂々と見せてきたモニとは反対にアンリはそれを疑いの目でジッと見ていた。


 「な、何ですかその目は!!」

 「嫌だってお前の発明した奴は・・・なぁ?」

 「こ、今度は大丈夫ですってば!見てて下さい!」


 モニは瓶の蓋を開けて野菜達にそれを全てかけた。


 「あ!お前、バカ者!せめて一つずつにせねば!」

 「あ、」


 野菜達は眩い光を出して、モニの部屋中を光で覆った。目を瞑らなければいけない程の光を発生させた野菜達はみるみるうちにその姿を変化させていき、光が収まり、モニ達が目を開けた時にはその姿を変化させていた。


 「こ、これはっ!?」

 「た、種、ですね・・・」

 「あはははは!!!」

 「笑い事ではないわ駄犬がッ!!!」


 野菜達はモニの瓶から垂れた液体によってその姿を元の種へと戻ってしまっていた。

 

 「ど、どうするんだ馬鹿者!状況が更に悪くなったではないかッ!!!」

 「ご、ごめんなさーい!」

 「最高だねッ〜!!!」

 「どこがじゃ!!?野菜共が殻に閉じこもってしまったではないか!!!どうするんじゃ〜!!!」

 「アンリさーん!」

 「「「ッ!!?」」」


 最悪な状況に陥ってしまった三人の元に、モニの部屋のチャイムを鳴らしながら管理人がやって来た。


 「な、何故!?」

 「そりゃそんなに大きな声出してたら分かるよ〜」

 「わ、私が時間何とか稼ぎますから!お二人はそれを何とかして下さい!」


 モニは立ち上がり、そのままドアを開けて管理人と対峙した。


 「こ、こんにちは管理人さん!」

 「やぁ、モニちゃん。アンリさんここにいるよね?それにさっき突然、凄い光がこの部屋から出てたけど、大丈夫だったかい??」

 「あ、いや、それはその・・・ふぇ、フェンリルさんが突然発光し出しちゃって!」

 「えっ?」

 「ぶふぉっ!?私!?」

 「ぬぁーはっはっはっ!!!お前、光るのか?ん??光るのかお前!」

 

 モニの苦し紛れの嘘を部屋で聞いていたフェラは思わず、飲んでいた酒を口から吐き出して驚いた。

 そんなフェラをアンリは涙を流しながらお腹を抱えて大爆笑していた。

 

 「あーまさか、またモニちゃんの発明だね?」

 「うえっ!!あ、えー、・・・正解です・・・」

 「まぁ、これは正解だな」

 「だね。そもそもモニちゃんの部屋に居たら分かるよね〜」

 「だな。ってそんな事言っとる場合ではない!さっさとこの野菜を、」

 「あれ?その種って?」

 「「あっ」」


 アンリとフェラが種の方に戻ると同時に、モニの様子がおかしいと思った管理人が無理矢理、部屋に入ってきていた。


 「えっと・・・これは???」

 「ご、ご、ごめんなさーーーい!!!」


 モニの目に映ったのは完璧と言わざるをえない綺麗な土下座だった。

 その後、管理人に二人は正直に全て話した。


 「なるほど、そう言うわけだったんですね」

 「うむ。すまん管理人よ」

 「ごめらさ〜い」

 「取り敢えずフェンリルさんは向こう一週間はお酒禁止ですよ」

 「うへ〜〜」


 未だ顔を伏せて自分の顔を見ようとしていないアンリを見て管理人は少しだけ微笑んで彼女の頭を撫でた。


 「アンリさん、俺は別にこの程度の事では怒りませんよ?」

 「だって、お前が大切に育てていたのだ。それをこんな風に・・・」

 「そんな、また作り直せばいいんですよ。だからいつもみたいに元気なアンリさんを見せて下さい。俺にとってはそんな貴方の方が何倍も大事ですから、ね?」

 「・・・うむ」

 

 それから数ヶ月後、野菜は無事育ち皆んなで一緒に食べたのだが、それはまた別のお話でーー。

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