第12話 G襲来
いつもと変わらない日常、それは突然終わりを告げることになった。
今朝、俺とアンリさんはいつものように二人で朝食を取っていた。
「もぐもぐ・・・管理人よ、モニ達はどうした?」
「モニさんは昨日、遅くまで魔法の実験してたらしくて寝てましたよ。フェンリルさんとガラナさんはそれぞれ仕事の関係で朝早くに出ていきました」
その為、今日は後で一階に住んでいるモナちゃんの部屋に食事を届ける以外は特にやる事はない。
まぁ皆んながいても普段から特にやる事はないのだけど。と言うわけで今日はアンリさんと二人で食事をしていた。
しばし、静かな時間が流れる中で事件が起きた。
「ん?おい管理人よ、その後ろの黒いのなんだ?」
「ん?これ、は!!?」
そう静かな食卓の中で俺達が見たものそれはGだった。Gは俺やアンリさんですら目視する事が出来ない速度で平和な食卓に現れ、朝食を貪り始めた。
この世界のGは非常に獰猛であり、自身よりも大きい相手であっても自慢の速さと強靭な口、そして数の暴力で少しづつ相手を食い違って追い詰めていく狡猾な生物となっている。
「おい!管理人よ!早く対峙しろ!ひっ、こっちきたぁ!!」
「アンリさん!くそっ、何でGがこんな所に!喰らえっ!!!」
履いていたスリッパを巧みに使い俺はGに叩きつけようとしたが、速さが尋常ではなく叩こうとした瞬間にもうそこにはいなかった。
「くっ!まるでニュータイ、」
「無駄口叩いてないで早く倒してくれ!!」
アンリさんはどうやらこのGが相当苦手らしく、部屋の隅に固まって動かなくなってしまっていた。
「アンリさんにも苦手な事あったんですね」
「おのれは何悠長なこと言っておるのだ!?はよ倒せ!!」
部屋中を縦横無尽に走り回るGは次の瞬間、キィィィという高い音をだしてきた。
すると部屋中からGの仲間が次々と現れ、形勢逆転をされてしまい、俺とアンリさんは部屋の隅に追い詰められてしまった。
「管理人、私はもう無理、だ・・・」
「あ、アンリさん!頑張ってくださいよ!!?」
「管理人さん!どうしたんですか!?」
俺とアンリさんがドタバタと暴れ回っていたからか、その下の階に住んでいたモニちゃんが扉を開けて焦った表情を見せ、部屋に入ってきた。
「あ、モニちゃん気をつけて!!今部屋にGがいるんだ!!」
モニちゃんが入ってきた途端、G達は一斉に姿を消した。
G達には更にもう一つ厄介な部分がある。あいつらは非常に警戒心が強い。こうして新しく現れたりしたら確実に身を隠してしまう。
なのでGは冒険者ギルドがランク付けするこの世界の生物の中でも理不尽な程の力を持った生物達と同等のランク付けをされている。とフェンリルさんが言っていた。
「お、お〜モニよ」
「え、あ、アンリちゃん大丈夫!?」
モニの前に姿を現したアンリはまるでしわくちゃの老婆の様な姿となっており、モニは急いで靴を脱いで部屋に上がった。
「どうやらアンリさん、Gが苦手な様で」
「そうだったんですか。はっ!もしかしてこの折れてるツノってGにやられたんですか!?」
それは俺がやりました。てゆうかやっちゃいましたごめんなさい。てゆうかドラえもんか!!
「ゆ、許せません!アンリちゃんの仇は私がとります!!」
「あ、あのお手柔らかにね?」
なんか自分の所為なのに、他人にその罪を着せている感覚に陥ってしまってGに申し訳なく思ってしまう自分がいる。
「任せてください!丁度今、魔法学校の課題で出されている魔法を試す時です!」
「え、モニちゃん!?ちょっと待っ、」
モニちゃんはそう言って両手を大きな胸の前にだし、魔法を唱え始めた。
「煙よ舞い・清浄なる力よ・汚れし存在を浄化せよ!喰らえ!Gを殺す魔法!!」
モニちゃんの両手から白い球の様なものが発生し、それを部屋に向けてモニちゃんは放った。
放った白い球は破裂して白い煙が部屋中を覆った。
「どうですか!私が考案したGを駆逐するためのってゲホッゲホッ!これ、何でゲホッ!」
「モニちゃ、う、ゲホッゲホッ!これはまずい、アンリさん、モニちゃん部屋の外に出るんだ!!」
どうやらモニちゃんが放った魔法はGだけでなく、俺達にも効果があったようで、それを吸った途端に激しい眩暈と吐き気がして、急いで部屋のドアを開け俺達三人は外に出て空気を大きく吸い込んだ。
「はぁ、はぁ、あ、危なかった・・・」
「あ、あれ、もっと沢山、吸い込んでたら死んでいたんじゃないか?」
「うぅ〜、ごめんなさい。絶対上手く行ったと思ったのに・・・」
モニちゃんはこのアパートの中でも貴重な常識人なのだが、魔法の事になると話は変わる。こうした暴走は日常茶飯事だが、あのキィの時以上の大事件になりかけていた。
「大丈夫だよモニちゃん。君のおかげでGの奴らは退治出来たっぽいから」
部屋の方を見てみるとギィギィとGが苦しむ様な声が聞こえてきていた。
「ま、私たちも退治されそうだったがな!」
「本当にごめんなさい。まさか人にも有害な煙を出す魔法になってたなんて・・・」
「気にしなくていいよモニちゃん。失敗は成功のもとっていうしさ。煙は窓開けとけばいいし」
「管理人の言う通りだぞ。それに慣れたしな!」
アンリさんの要らない一言にモニちゃんは更に落ち込んでしまったようで完全に意気消沈していた。
俺は咳払いをしてアンリさんの横腹を突き、慰めろと目で訴えた。
「あーモニよ。お前その内、人殺しそうだよな」
何にも通じていなかったのでアンリさんの頭を思い切り引っ叩いて、仕方なく今度は俺が慰める為に彼女の隣に立った。
因みにアンリさんは見た目が子供なだけなので児童虐待にはならない。と願おう。
「えっとモナちゃ、」
「んーやっぱ、詠唱のあの部分を簡略化して、いや複雑にした方が、いやでもそうしたら長くなっちゃうし、でもそうしないとG以外もやっちゃう事に・・・」
落ち込んでいるだろうと思い声をかけようと肩を叩いた。しかし、彼女はそれに反応する事がなかったので、不思議に思い覗き込んでみると反省するどころか、もう既にそのターンは終わったと言わんばかりにメモを取りながら独り言を呟いていた。
「え、えぇ〜」
「こやつ将来、大物になるかもしれんな」
「・・・ですね」
この状態のモニちゃんに言葉は通じない為、俺とアンリさんは自分達の部屋を振り返った。
ドアや窓からは未だに煙が上がっており、とてもじゃないが入るなんて事が出来る状態ではなかった。
「アンリさん、魔法で何とか」
「バカボケアホマヌケ!Gに出くわしたらどうする!?」
やはり相当怖い様でアンリさんは普段言わないような言葉で俺を罵倒しまくり、階段の方まで身を引いた。どうやら、本当に煙がなくなるまで待っている他ないらしい。
ーー
「と、言うわけで私と管理人の部屋を煙まみれにした責任としてモニ、お前の部屋で泣かせてもらうからな!!」
「はえ?」
その日の夜、俺はアンリさんに連れられてモナちゃんの部屋の前まで訪れていた。