月日は流れ(2)
気づくと、白い霧の中にいた。だんだん目が慣れてきたのか、少し向こうに大きな白い花の大樹が1本。樹のそばには湖があるような。
薄紅色の花がピンク、薄いピンク色に変わり、その後 白、そして花びらが落ちる時には透明になり、下の水にぽちゃんと落ちる。
まるで、そこだけずっと繰り返してるように、樹が水を吸い上げ、花を咲かせ、そして落ちていく時にはまた水に戻る。
その繰り返し。
父は大樹の横に静かに立っていた。
”こちらへおいで、カリエンヌ”
父に呼ばれ、大樹のそばに近づくと、なぜか、大樹に呼ばれている気がした。大樹の一部が光って鼓動し始めた。
”カリエンヌ。この大樹は生命の樹。
これが我らの源だよ。
何千年もこの樹はここにいる。この樹の流れは、我らの生命。
樹が水を吸い上げ、花を咲かせる。その美しい花は、徐々に色を変え、やがて枯れ、また水に戻る。
『輪廻』
我ら王族の王は、この樹の守り主。
これが枯れてしまうと、我らには死、また新しい生命の誕生はなくなる。
まだこの世に何も無かった頃。
少しずつ生命を持つものが生まれ始めた。
最初は混沌としていた世界に、生き物が産まれ始めた。
生きているうちに、知能が生まれ、生命同士で争いも生まれた。
その時、この世にいた数人の王の力を合わせて作られたのが、この大樹だよ。
この大樹に力を注げるのは、生命の誕生を司る、
人魚、
つまり私たち1族のみ。その王たるものが、次の王に繋ぐまで、永遠に力を注ぎ続ける。
これで、生命の輪廻を繰り返すのだよ。
私の使命は、この後お前に継がれる”
突然のことで、一体どうなっているのか頭が混乱しているカリエンヌだが、
”私がお父様の後を継ぐですって!?”
これだけは理解した。
”お父様の後を継ぐのは、お兄様ではないの?なぜ私が?”
もっともだ。彼女にはライナ、リアン、レンナの3人の兄がいる。
3人とも優秀で、とても温厚な性格。王にはぴったりだ。
”お前の手に現れる文様を覚えているね?満月の夜にしか現れないが。
あの文様を持つものは、数万年に1度しか現れない文様だと伝えられている。
太陽と月。昼と夜を司る。生命の始まりと終わり。
私はこの大樹に力を注ぎ込むのが役割だ。
しかし、この大樹に数千年に1度生命を与える指名を持つものが生まれる。
それがお前なのだよ。
この運命を持つものは、人魚としか婚姻できない。
血を混ぜてはいけない掟があるのだよ。人魚同士で婚姻し、お前の子をこの大樹の中で育てることで、大樹も私の孫になるものも育つことができる。
やがて、孫が成長し、この大樹から旅立つことは可能だが、お前は一生この樹に力を注がなければいけない。
それがお前の運命なのだよ。
もしそれができないときは、我らは滅びるしかない。
生命の誕生が無くなるからね。
栄養となるものが、この泉の水と、我らの力しか無いせいで、他の種族と混じることは、禁じられている。
もしそのようなことが起きると、この世は暗闇に変わるとの言い伝えだ。
正直、真実は分からない。
何が起こったのかは古い文献には書かれてはいなかった。
しかし、この世が闇に落ちたのは間違いない。
だから文献に記載がないのだよ。
お前にこのような重荷を背負わせるのは辛い。
だがお前が生まれた時からの運命は変えようが無かった。
無邪気にはしゃぐお前の成長を見ながら、何度も文献を漁り、他の方法も探したが、全く答えは見つからなかった。
逆に、今のお前の姿を見て、伝説は本当なのだと実感した。”
気づくと、姫の姿は聡明な足元、上はまだ形を保っているが、ほぼ大樹と水と同化している。
まるで姫がそこにいるのが、当たり前のように。
”呼んでいるのだよ、お前を。
この大樹の由来は、選ばれた者しか知り得ない。この大樹と同化できるもの。この大樹に選ばれた者のみ。
私は、ただの守り番
お前なら、この秘密を知ることができるだろう。
さあ、行っておいで、私はここまでしか案内できないのだよ”
姫が恐る恐る大樹に手を伸ばすと、その手はスーッと大樹に飲み込まれていく。痛みがあるわけでも、何かに触られる感じも無い。
ただ温かい。
彼女が大樹に全て溶け込んだ時、光を放ち大樹は丸い光となって、飛んでいった。
その場に残されたのは、王のみ。
一体どのくらいの時が経ったのだろうか?
暗闇で、一人立ち尽くしていた王の元に、光が戻ってきた。
元の姿の大樹となると、何事もなかったように花を咲かせ始めた。
そして、ゆっくりと姫を外に放出した。
姫はしばらく驚きと、焦燥の顔色を浮かべ、次には涙を流していた。
疲れた表情の姫支えながら、王は、いつの間にか現れた扉に向かって行った。




